「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

離婚問題

「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

家庭内で相手方から暴力を受けているDV被害者が、自分の身を守るための法的手段として、接近禁止命令の申立てがあります。これは「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」に基づき、裁判所が判断するものです。
どのような場合に、何をすれば、「接近禁止命令」が出るのか、又そもそも「接近禁止命令」とは何なのか、以下で詳しく見ていきましょう。

接近禁止命令とは?

接近禁止命令とは、裁判所がDV加害者に対して出す保護命令のうち、DV被害者の住居や身辺につきまとったり、勤務先などの付近を徘徊したりすることを、6カ月の間禁止する内容のものをいいます。
接近禁止命令を含む保護命令は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」といいます。)を根拠としており、裁判所が、DV被害者の申立を受けて、発令するかどうかを判断します。

違反した場合

保護命令に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(DV防止法29条)。もちろん、接近禁止命令が発令されたにもかかわらず、DV加害者がDV被害者の住居周辺を徘徊するなどした場合も、同様に刑事罰を科されることになります。

保護命令が発令されると、裁判所書記官は、警察や配偶者暴力相談支援センターに保護命令が発令された事実命令の内容を通知します(DV防止法15条3項、4項)。保護命令違反があった場合は、直ちに警察等に通報し、身の安全を確保しましょう。

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接近禁止命令が出る条件

接近禁止命令の要件は、
①申立人が、「被害者」(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた者)に当たること
②配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと
です(DV防止法10条1項)。

なお、保護命令の対象には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(DV防止法1条3項)や、生活の本拠を共にする交際相手(DV防止法28条の2)も含まれます。

接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令

保護命令には、DV被害者本人への接近禁止命令のほか、面会の要求や電話等を禁じたり、未成年の子やDV被害者の親族への接近を禁じたりする内容のものがあります。
もっとも、いずれも被害者本人への接近禁止命令の効果が損なわれないようにするために発令されるものなので、被害者本人への接近禁止命令が同時に出るか、すでに出ていることが前提となります。

電話等禁止命令

被害者への接近禁止命令が発令されていても、加害者から被害者に電話やメールで何度も連絡されることで被害者が恐怖心を募らせ、加害者の要求に応じて接触せざるを得なくなることが想定されます。被害者への接近禁止命令の実効性を担保するために、加害者に対して電話等の連絡を禁ずる必要性が認められる場合があります。電話等禁止命令では、以下の行為を禁止することができます(DV防止法10条2項)

  • 面会の要求
  • 行動を監視している旨の告知等
  • 著しく粗野又は乱暴な言動
  • 無言電話、連続して電話をかけたりFAXを送ったりメールを送信したりすること
  • 緊急やむを得ない場合を除く、午後10時~午前6時に、電話・FAX・メールをすること
  • 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物の送付等
  • 名誉を害する事項の告知等
  • 性的羞恥心を害する事項の告知等

子への接近禁止命令

例えば加害者が子を連れ去ってしまい、被害者がその子の監護のために自ら加害者に会いに行かなくてはならなくなる等の事態が想定されます。このような場合、被害者への接近禁止命令が発せられていても、被害者が加害者と面会することを余儀なくされ、生命・身体へ危害が加えられるおそれが生じてしまいます。

裁判所は、以上のような事態を防止する必要がある場合、被害者と同居する未成年の子へのつきまとい行為などを禁ずる内容の命令を発することができます(DV防止法10条3項)。

親族等への接近禁止命令

加害者が被害者の実家等に押し掛けて暴れたり騒いだりする場合、被害者がその行為を止めさせるために、自ら加害者と面会せざるを得なくなる可能性があります。このような事態は、被害者への接近禁止命令の効果を失わせるものなので、裁判所は、必要に応じて、被害者の親族等につきまとったり、勤務先等の付近を徘徊したりすることを禁ずる命令を発することができます(DV防止法10条4項)。

退去命令

退去命令とは、加害者に対し、被害者と共に生活の本拠としている住居から、2か月間退去することを命じ、その住まいの付近を徘徊することを禁止する内容の命令です(DV防止法10条1項2号)。
これは、被害者の身辺整理や引越の準備作業のためにもうけられたとされています。

接近禁止命令の申立ての流れ

接近禁止命令が効果を生じるに至るまでには、「①申立の準備(警察等への相談)→②接近禁止命令の申立て→口頭弁論・審尋期日の指定→③期日の実施→④接近禁止命令の発令→保護命令の決定書の送達等→警察等への通知」の流れで手続が進んでいきます。
以下、手続の進行に沿って、申立人が準備しておくべきことなどを確認しましょう。

①DVセンターや警察への相談

申立ての準備として、各県にある配偶者暴力相談支援センター(以下「DVセンター」といいます。)の職員又は警察職員に対し、相談しておきましょう。
それは、保護命令の申立ては書面による必要があるところ、記載事項が定められており(DV防止法12条)、その記載事項の中に、DVセンターや警察官への相談または援助・保護を求めた事実があることやその詳細についての項目があるからです(DV防止法12条1項5号)。

相談実績がない場合

もしDVセンターや警察に相談等をした事実がない場合は、加害者から暴力を受けた状況等の所定の事項を記載した宣誓供述書の作成が必要となります(DV防止法12条2項)。
宣誓供述書は、公証人の前で記載内容が真実であると宣誓したうえで署名捺印した証書をいい、1万円程度の作成費用がかかります。このため、保護命令の申立てを検討している場合は、あらかじめDVセンターや警察に相談しておくことが重要です。

②裁判所に申立てを行う

申し立てができるのは本人だけ

申立てができるのは、「被害者」(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた者)に限定されています(DV防止法10条1項)。そのため、例えば、親族等が被害者に代わって申し立てることはできません。

申立先

保護命令の申立て先は、
⑴ 相手方の住所の所在地
⑵ 申立人の住所又は居所の所在地
⑶ 当該申立てに係る配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫が行われた地
のいずれかの地を管轄する地方裁判所です(DV防止法11条)。

必要書類

保護命令の申立てには、以下の書類が必要です。

  • 申立書2通(正本・副本)
  • 書証各2通
  • 申立人と相手方との関係性を示す資料(戸籍謄本、住民票、陳述書等)
  • 身体に対する暴力を受けたこと又は生命等に対する脅迫を受けたこと、今後配偶者から受ける身体に対する暴力により生命等に重大な危害を受けるおそれが大きいことを示す資料(診断書、暴力によって生じた怪我の写真、脅迫する内容のメッセージや録音、陳述書等)
    そのほか、子への接近禁止命令を申し立てる場合は、以下の資料が別途必要です。
  • 接近禁止の対象となる子の同意書(※子が15歳以上のとき)
  • 同意書の署名が子本人のものであることが確認できるもの(学校のテスト、手紙等)
    また、親族等への接近禁止命令も申し立てる場合は、以下の資料が別途必要となります。
  • 接近禁止の対象となる親族等の同意書
  • 同意書の署名押印が親族等本人のものであることが確認できるもの(手紙、印鑑証明書等)
  • 申立人との関係を証明する書類(戸籍謄本、住民票等)

申立てに必要な費用

保全命令の申立てには、郵券や収入印紙の手数料が発生します。
郵券の金額は裁判所によって異なりますが、おおむね2000円程度、収入印紙は1000円分が必要です。

例)岡山地裁:収入印紙1000円、郵便切手合計2195円(内訳:500円×2枚、100円×6枚、84円×5枚、20円×5枚、10円×5枚、5円×2枚、2円×5枚、1円×5枚)

③口頭弁論・審尋

保護命令は、原則、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、発令されません(DV防止法14条1項)。
通常、裁判所は即日又は申立日に接着する日に申立人(又は代理人)と面接し、その約1週間後に相手方の意見聴取のための審尋期日を設けることが多いです。審尋では、申立書に記載された過去の暴力や現在の危険に関する事情等が聴取されます。

④接近禁止命令の発令

裁判所は、当事者双方の審尋の結果、事前に相談していた機関からの回答、書証等を総合考慮し、保護命令の申立てを認容または却下する決定を下します。裁判所の決定は、申立書が受理されてからおおむね1週間から10日以内に発令される発令されることがほとんどです。

接近禁止命令における注意点

発令されるためにはDVの証拠が必要

接近禁止命令が発令されるためには、過去の暴力や現在の危険等の法律上の要件がそろっていると裁判所を納得させなければならないため、暴力等の事実を裏付ける証拠は必須となります。
例えば、医師の診断書や怪我の写真、動画、脅迫する内容のメールやLINE等のメッセージ、音声の録音等が考えられます。
また、できるだけ申立時に近い時期の証拠であることが望ましいです。

相手に離婚後の住所や避難先を知られないよう注意

申立に当たって裁判所に提出する書類は、その写しが相手方に送られます。申立人が現在の住所を相手方に秘匿している場合は、相手方と共に生活の本拠にしていた住居を記載する等の対応が必要です。また、証拠資料についても、現住所や勤務先などを秘匿している場合は、提出の際に該当箇所をマスキングしておく必要があります。

モラハラは対象にならない

保護命令の要件は、身体に対する暴力により、生命等に重大な危害を受けるおそれが大きいことなので、相手方からモラハラ等の精神的被害を受ける可能性があることをもって接近禁止命令を申し立てることはできません。

接近禁止命令に違反した場合の対処法

保護命令には、民事上の執行力がなく(DV防止法15条5項)、実効性の担保として刑事罰が設けられているにとどまります(DV防止法29条)。保護命令違反行為があれば、直ちに警察に通報してください。
保護命令が発令されると、発令された事実及びその内容が警察に通知されるため、警察官によるパトロールや、場合によっては逮捕勾留によって安全確保されることに期待できます。

接近禁止命令に関するQ&A

接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?

接近禁止命令の期間を延長したい場合は、再度の申立てをする必要があります。
命令の発令後、すでに発令された命令の申立ての理由となった身体に対する暴力又は生命に対する脅迫を理由として、同じ命令の再度の申立てが可能です。申立回数に制限もありません。
ただし、申立のたびに、生命等に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足る事情があることが必要です。

接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?

接近禁止命令は、申立人の住居や身辺につきまとったり、勤務先等の付近を徘徊したりすることを禁じるにとどまり、例えば「申立人の住居から半径1キロメートル以内に近づいてはならない」といった具体的な距離等が定められるものではありません。

離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。

配偶者から身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚した場合は、その元配偶者も、接近禁止命令の対象者になります(DV防止法10条1項柱書)。
したがって、離婚後であっても、元配偶者に接近禁止命令が出る場合があります。

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DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください

接近禁止命令の申立てを検討されている方は、すでに生命等に危害を受けるおそれがあるということでしょう。そのような事態を解消するために保護命令の申立てを行うのですから、手続を円滑に進め、迅速に裁判所から判断を受けることが重要です。しかし、申立手続には、法的専門知識が必要となる場面が少なくありません。
DVの被害に苦しみ、接近禁止命令の申立てを検討されている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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