監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
抑うつ状態などの精神的な症状であっても後遺障害等級の認定は受けることができます
脳の器質的損傷と同様に、厚生労働省労働基準局通達(平成15年8月8日基発第808002号)に、脳の器質的損傷を伴わない精神障害(以下「非器質性精神障害」といいます。)についての基準及び判断項目が示されています。
抑うつ状態という症状を客観的に判断すること自体容易ではありませんし、抑うつ状態や不安の状態等の精神症状があるからといってその症状が事故によるものなのか(因果関係)、将来的にみても治癒しないのか非器質性精神障害は症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質があるため、後遺障害等級の認定を受けるについては様々な点でハードルが高いと言えます。
まず、非器質性精神障害の後遺障害が残存していると評価判断するためには、以下の「精神症状」のうち1つ以上の精神症状が認められ、なおかつ、以下の「能力に関する判断項目」のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。
精神症状
①抑うつ状態
②不安の状態
③意欲低下の状態
④慢性化した幻覚、妄想性の状態
⑤記憶又は知的能力の障害
⑥その他の障害(衝動性の障害や不定愁訴など)
能力に関する判断項目
①身辺日常生活
②仕事、生活に積極的、関心を持つこと
③通勤、勤務時間の遵守
④普通に作業を持続すること
⑤他人との意思伝達
⑥対人関係、協調性
⑦身辺の安全保持、危機の回避
⑧困難、失敗への対応
そして、「就労者・就労意欲のある者(特定の職種について就労意欲を有するものを含む)」と「就労意欲の低下又は欠落により非就労者」とに分け、それぞれ判断の仕方が異なってきます。
就労者・就労意欲者 |
---|
精神症状のいずれか1つが認められる場合に、能力に関する判断項目のそれぞれについて、その有無及び助言の程度により判断していくことになります。 |
就労意欲の低下・欠如の非就労者 |
身辺日常生活が可能である場合に、能力に関する判断項目①身辺日常生活の支障の程度により判断することになります。 |
以上の内容を踏まえて、後遺障害等級についてみると、以下のようになります。
障害の程度 | 等級 |
---|---|
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの ・aに該当する者は、Bのうち②~⑧のいずれか1つの能力が喪失しているもの又はB4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される場合 ・bに該当する者は、身辺日常生活について時に助言・援助 を必要とする場合 |
9級の10 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの ・aに該当する者は、Bのうち4つ以上について、時に助言・援助が必要な場合 ・bに該当する者は、身辺日常生活を適切又は概ねできる場合 |
12級の13 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの ・Bの1つについて、時に助言・援助が必要な場合 |
14級の9 |
加えまして、重い症状を残している者の治癒の判断等として、通達には以下のように規定されています。
重い症状を残している者(判断項目のうち①の能力が失われている者又は判断項目のうち②~⑧のいずれか2以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても原則として療養を継続することとなります。ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され症状が固定しているときには治癒の状態にあるものとし、障害等級認定することとなります。
なお、その場合の障害等級認定は本認定基準によらずに個別に検討し障害の程度を踏まえて認定することとなります。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)