監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 残業代請求対応、未払い賃金対応
管理監督者とは、労働基準法(以下、「労基法」といいます。)第41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」のことをいいます。
管理監督者には一定の地位と権限が与えられる反面、経営者に近い立場になることから、一部の労基法について適用が除外されます。しかしながら、管理監督者であっても労働者であることにかわりはありませんので、使用者は、「管理監督者」について正しい知識を持ち、労基法の適用の有無について注意を払う必要があります。
目次
管理職に対しても残業代を支払う義務があるのか?
まず、管理監督者に対して残業代を支払う必要があるのでしょうか。
管理監督者に残業代を支払う義務はない
労基法第37条1項は、時間外及び休日労働に対しては、割増賃金を支払う義務があることを定めています。しかし、労基法第41条2号は、管理監督者に対して、割増賃金について定める労基法37条1項の適用を除外する旨、規定しています。したがって、管理監督者に対しては、時間外割増賃金及び休日割増賃金を支払う必要はありません。
管理監督者は一定の地位と権限を有していることから、自身の働き方をコントロールできるため、時間外労働や休日労働に対して、一般従業員ほど保護する必要がなく、むしろ時間に縛られずに自由に働く必要があると考えられているからです。
管理監督者でも深夜手当の支払いは必要
しかしながら、労基法第41条は深夜労働については適用されませんので、管理監督者に対しても、夜10時から朝5時までの間に労働させた場合には、深夜割増賃金は支払う必要があります。
これは、深夜労働割増賃金が時間外・休日労働賃金とは異なり、深夜という通常は人が休む時間帯に労働していることに対して割増の評価を加える制度であるという、制度趣旨の違いによる差異です。制度趣旨に照らすと、管理監督者であっても深夜に労働していること自体に対する評価は一般従業員と変わらないということです。
管理職には残業代を支払わないと就業規則で定めている場合は?
では、管理監督者に対しては残業代を支払わないと、就業規則で定めている場合はどうでしょうか。あらかじめ就業規則で規定していて、そのことを従業員も認識しているのであれば、このような取り扱いも問題ないと考えられるかもしれません。
しかしながら、法律である労基法は、各社が作る就業規則より優先されるため、労働者側に不利な就業規則の規定は無効となります。したがって、仮に就業規則に管理監督者には残業代を支払わない旨を規定していたとしても、労基法に従った取り扱いをする必要があります。
労働基準法における管理監督者の該当性
既に述べたとおり、管理監督者は、労基法第41条2号で「監督若しくは管理の地位にある者」とされています。
この労基法第41条2号の趣旨は、①職務および責任の重要性ならびに勤務実態に照らし、法定労働時間の枠を超えて勤務する必要があり、労働時間の規制になじまないこと、②職務内容および権限ならびに勤務実態に照らし、労働時間を自由に定めることができ、賃金等の待遇に鑑み、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労基法の基本理念・趣旨に反しないこと、とされています。
管理監督者の該当性については、労基法上、明確な要件等は定められてはいませんが、判例においては上記の趣旨照らした基準に基づき判断されています。
では、具体的にはどのように考えられているのでしょうか。以下で、詳細を見てみましょう。
労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している
上述の労基法41条2号の趣旨に照らし、管理監督者に該当するためには、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している」必要があります。個別具体的な職務内容に着目し、重要な職務内容を担っていることが求められます。従業員ならば誰にでもできるような職務だけならば、労基法の規制の枠内で行うべきだからです。
労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している
また、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している」必要があります。重要な職務内容にただ単に携わっているだけでなく、その重要な職務を担うにあたって相当の責任と権限を有していることも求められます。いくら職務の内容が重要であっても、その職務を担うだけの責任も権限もなければ、実質的には一般従業員と同じレベルの職務しかできないためです。
現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものである
仮に、極めて重要な職務内容を相当な責任と権限をもって担っていたとしても、労基法の規制の枠内の働き方で対応できるのであれば、あえて、例外的取り扱いをする意味がなくなってしまうため、現実の勤務態様としても、労基法の規制になじまないことが要求されます。
賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている
労基法の時間外・休日労働割増賃金の規制を受けない分に相当するだけの賃金等の手当がなされている必要があります。すなわち、実質的に、時間外・休日労働割増賃金という名目で支払われない分の賃金相当額がすでに基本給や管理職手当等で支払われていることが要求されます。
管理職が必ずしも管理監督者に該当するわけではない
管理監督者に該当するか否かは、上記の基準に照らし、個別具体な事情を検討することで判断されます。いわゆる「管理職」と呼ばれる「課長」や「部長」といった肩書きの有無にかかわらず、個々人の具体的な事情に照らし、判断されることになりますので、「管理職」という役職を付与していたからといって、必ずしも労基法上の管理監督者に該当するとは限りません。
企業で違う管理職の扱い
このように、個別的な判断が必要となるため、一義的な基準を明確にすることは困難といえます。企業ごとに役職者に付与する名称が異なり、自社と違う役職名に混乱する経験はみなさんにもあるのではないでしょうか。また、同じ名称を用いていても、社内での序列が会社ごとに異なることはよくあることです。また、各企業の規模や事業・業務内容によっても、各役職の人が担う職務内容や責任・権限の範囲は異なってくるため、個別具体的な検討が必要になります。
「名ばかり管理職」と残業代の問題
管理監督者には、残業代を支払わなくてよいため、本来は該当しない従業員に対しても、使用者は管理監督者に該当するとしてしまいがちです。このような状態がいわゆる「名ばかり管理職」です。名目上、管理職として扱うことで残業代を支払っていない場合でも、個別具体的な事情を検討すると、労基法上の管理監督者には該当しない場合には、残業代を支払う必要がありますので、未払い残業代が生じていることになります。
管理職の勤務実態を把握する必要性について
現実には、名目上は管理職としている場合であっても、個別の事情を検討すると実は、労基法上の管理監督者に該当しない場合が散見されます。使用者の皆さんは、形式的に管理職として取り扱うのではなく、各管理職の勤務実態をきちんと把握し、個別具体的に検討する必要があります。
管理監督者の該当性が問われた裁判例
昨今、管理監督者の該当性が争われた裁判例として、平成20年1月28日に東京地裁で判決が出された「マクドナルド店長事件」をご紹介します。皆さんもどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
事件の概要
「マクドナルド店長事件」における原告は、マクドナルドの店長という立場にありました。マクドナルドの店長は、その店舗の人員について採用や勤務シフトを決定するなど重要な職務を担っていました。また、自身の就業時間を自由に決定できる裁量も認められていました。賃金面においても、店長の平均年収は700万円余出会ったのに対して、その下の役職であるファースト・アシスタントマネージャーは平均年収590万円余であったことから、それなりに優遇されていたといえます。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
平成20年1月28日の東京地裁判決においては、形式ではなく実質を見て判断したことで、店長の管理監督者該当性が否定されました。
ポイントと解説
マクドナルド店長事件で示された管理監督者該当性の判断におけるポイントとしては、次の3点があげられます。
まず1つ目として、職務内容・権限・責任について、店舗従業員の採用・人事考課等の権限を有しているだけでは足りず、会社の経営に関する決定に参画することまでが必要であることがあげられます。すなわち、単に人事権をもっているだけでなく、経営者と一体的な立場で企業全体の経営に関与していることまで要求されることになります。マクドナルドのような企業の場合は1つの店舗を取り仕切っていたとしても、マクドナルドという企業自体の経営には携わっていないため、1つの企業における管理監督者該当性を検討すると、職務内容・権限・責任に関する要件を充足しないと判断されることになります。多くの企業において、この要件がネックになってくるのではないでしょうか。
次に、職務態様・労働時間管理の実態について、形式的には自身の勤務時間等について自由な裁量が認められている場合でも、実質的にもその裁量を自由に使えることが必要となります。
いくら形式的に裁量が与えられていたとしても、実質的に労働時間を自由に決定できない状況にある場合には、要件を充足しないと判断されることになります。要求されている職務内容・量を考えると、実質的には自由な勤務態様をとる余裕がない場合には、裁量はないのと同じというわけです。
3つ目は、待遇について、金額の多寡そのものだけでなく、一般従業員との比較においても優遇されている必要があります。一見して、一般の従業員よりも高額な賃金が支払われている場合であっても、実際の労働時間を考えると十分な待遇とはいえない場合があります。実労働時間で時給を算出すると、一般従業員よりも実は時給が安かったなどという例も少なくありません。
管理職について正しい知識を持つ必要があります。企業法務でお悩みなら弁護士にご相談ください。
上述のように、管理監督者の該当性の判断においては、判例の基準に照らし、個別具体的な事情を慎重に判断する必要があります。その判断は、企業内部からの視点だけでは困難な場合も多く、専門的な知見で丁寧に検討することが重要といえます。労基法上の管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理職として扱い時間外・休日労働割増賃金を支払っていない場合には、未払い残業代が日々発生し続けていることになります。企業の多くは、役職名等で一律の取り扱いをしていることも多く、そのような場合には、一人の管理監督者該当性の判断を誤ると、同じ役職に就いている他の多くの従業員についても同様のおそれがあります。働き方改革が叫ばれている今、自社の取り扱いが法的に正しいのか、誤っているならばどのように改善すべきなのか、専門家に相談し、再点検してみることをおすすめいたします。
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