残業代の計算方法について解説

公開日:2020年9月4日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

残業代の計算は、法律の改正により今まで以上に重要な問題となっております。従来の法律では過去2年分の未払残業代を支払うことになっておりましたが、令和2年4月1日から5年分(経過措置として当分の間は3年)の未払残業代を支払う必要があることになりました。この改正により、法的手続により残業代を請求される事案が増加することが予想されますし、1件当たりの支払額も大幅に増えるため、残業代は企業経営における大きなリスクとなります。

また、多くの裁判例で残業代の算定方法が争点になっていることから明らかなとおり、残業代を適正に計算することは簡単なことではありません。

本稿では残業代の計算方法について解説します。残業代のリスクを感じておられる方の一助となれば幸いです。

従業員の残業代を適正に計算する責務

会社は労働基準法37条に定める計算額以上の額の割増賃金を支払う限り、同条に定める計算方法に従う必要はない(昭和24.1.28基収3947号)と考えられております。

しかし、法律通りの残業代を支払うことができていない場合には、本来の残業代に加えて付加金や遅延損害金を支払うことになる場合もあります。また、割増賃金の不払については、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が定められています(労働基準法119条1号)。さらに、残業代を巡るトラブルが企業イメージの低下を招いたり、新規採用や既存従業員の士気に悪影響を及ぼす恐れもあります。したがって、企業としては、法律通りの残業代の計算方法を常に学習し、適正な運用を実現する必要があります。

残業代を適正に計算するためのポイントとしては、①基本的なルールを理解すること、②ルールを適切に解釈すること、③労働時間等の事実の把握や認定を適切に行うことが重要です。特に③については、会社は労働時間を管理する義務を負っており、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)に従って労働時間の管理をする必要があります。

割増賃金に該当する残業代の種類

① 時間外労働
労働基準法の法定労働時間を超えた場合には時間外労働となり、通常の労働時間又は労働日の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。具体的には、労働時間が1週間について40時間、1日当たり8時間を超えると残業代が発生します。ただし、物品販売業等の特定の事業のうち常時10人未満(事業場ごと)の労働者を使用している場合には、労働時間が1週間について44時間を超えた場合に時間外労働となります。

② 時間外労働が1か月60時間を超えた場合
時間外労働が1か月60時間を超える場合には、50%以上の割増賃金を支払う必要があります。ただし、令和5年3月31日までは、下表の労働者数又は資本金額のいずれかの基準を満たす中小事業主は、60時間を超えていても25%以上の割増賃金を支払えばよいことになっています。

業種 常時使用労働者数 資本金又は出資の総額
小売業 50人以下 5000万円以下
サービス業 100人以下 5000万円以下
卸売業 100人以下 1億円以下
その他 300人以下 3億円以下

③ 休日労働
毎週1回又は4週間を通じ4日以上の法律上の休日に労働させた場合には、35%以上の割増賃金を支払う必要があります。なお、週休2日制の場合でも、法律上必要とされている休日に労働させた場合に限って休日労働の割増賃金が発生します。

④ 深夜労働
午後10時から午前5時に労働させた場合には、時間外労働や休日労働とは別に25%の割増賃金を支払う必要があります。

残業代の計算式

時間外労働時間×1時間当たりの基礎賃金×割増率=割増賃金

例えば、時給970円の労働者が一日当たり9時間働いた場合には、8時間を超えた1時間分については、970円の時給に加えて243円(≒970円×25%)の割増賃金を支払う必要があります。

1時間あたりの基礎賃金を算出する方法

毎月支払われる賃金額÷月の所定労働時間=1時間当たり基礎賃金

例えば、年間所定休日が119日であり、1日の所定労働時間が8時間の場合には、月の所定労働時間は164時間(=(365日-119日)×8時間÷12か月)となります。月給が24万6000円であるとすると、1時間当たりの基礎賃金は1500円(=24万6000円÷164時間)となります。

家族手当などの各種手当は基礎賃金に含まれるのか?

家族手当、通勤手当、別居手当、子女手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金及び1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(除外賃金)は、残業代の計算において基礎賃金に算入されません。賃金の総額が同じ場合でも、これらの手当が含まれている場合には残業代は少なくなります。

ただし、手当の名称が除外賃金に該当しているだけでは除外賃金とは認められず、実態を伴う必要があります(昭和22.9.13基発17号)。例えば、家族手当が家族の人数に関係なく一律の基準で支払われている場合には、除外賃金には該当しません(昭和22.11.5基発第231号)。このように手当の実質により判断する必要があるため、同じ名前の手当を支給している会社でも、運用方法によって残業代が異なることになります。

また、現実に残業代の額が法的手続で争われる場合には、除外賃金に該当するか否かという点が争点になることも多いです。会社の各種手当の運用に照らして、適切に残業代が計算されているか否かを専門家に聞いてみることも有益です。

なお、上記の除外賃金以外の手当てを基礎賃金から除外する趣旨の就業規則等を定めても無効です(大阪地判平成5.7.28労判642号47頁)。

時間外・休日・深夜労働の割増率

各種残業代について以下の割増率が定められています。なお、一定の中小事業主には、令和5年3月31日までは、60時間を超える場合に残業代を増額するルールは適用されません。

残業代の種類 割増率
時間外労働 25%以上(1か月60時間を超える場合には50%以上)
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上
時間外労働+深夜労働 50%以上(1か月60時間を超える場合には75%以上)
休日労働+深夜労働 60%以上

残業代の計算例(月給制の場合)

(設例)
年間所定休日125日 1日の所定労働時間が8時間
基本給  25万2000円
営業手当 2万円
通勤手当 1万円
家族手当 2万円
対象月の時間外労働時間 30時間 そのうち深夜労働2時間

(計算例)
基礎賃金 25万2000円+2万円(営業手当)=27万2000円
1か月の所定労働時間 (365-125日)×8時間÷12か月=160時間
1時間当たり基礎賃金 27万2000円÷160=1700円

 

時間外労働 30時間×25%×1700円=1万2750円
深夜労働  2時間×25%×1700円=850円

1か月あたりの平均所定労働時間

お盆休み等によって月ごとに所定労働時間数が異なる場合には、1年間の所定労働時間を12(12か月)で除して算定した平均所定労働時間を用いて残業代を計算します。

手待時間や持ち帰り残業の取り扱いについて

残業代を計算する基準となる労働時間は、客観的に労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです(最判平成12.3.9民集54巻3号801頁)。契約書等でどのような記載をしているかという点よりも労働の実態が重視されます。平たく言えば、特定の時間について労働者がコンビニに行ってしばらく時間を潰していてもよいような実態があれば、労働時間には該当しません。

逆に仮に仮眠時間や手待時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には、労働時間に該当し、残業代が発生します(最判平成19.10.19民集61巻7号2555頁、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

他方で、家庭内は使用者の指揮命令下におかれていないため、持ち帰り残業については原則として労働時間に該当しないと考えられています(藤井聖悟「残業代請求事件の実務(中)」判例タイムズ1366号28頁)。しかし、自宅でも業務管理を行うことを可能にするソフトウェアが広く使用されるようになり、各種コミュニケーションツールにより指揮命令を行うことも可能となっている可能性もあるため、この点については今後の裁判例の動向を注視する必要があります。

特殊な労働形態における残業代の考え方

変形労働時間制の場合

変形労働時間制とは、一定期間の所定労働時間を繁閑に応じて弾力化させる制度のことです。例えば、1日当たりの所定労働時間は原則として8時間ですが、変形労働時間制を導入して1日当たり10時間と定めておいた場合には、その日に10時間働いたとしても時間外労働にはなりません。

特定の時期に忙しい業種では、変形労働時間制を導入することにより、残業代が減るケースもあります。ただし、制度を導入する手続を怠っていたり(水戸地判昭和56.11.5労経速報1103号3頁)、十分に変形期間中の労働時間を特定できていない場合には(東京地判平成22.4.7判時2118号142頁)、変形労働時間制に基づく残業代の計算が認められないため注意が必要です。

1か月単位の変形労働時間制を導入した場合に時間外労働となる時間は以下のとおりです(昭和63.1.1基発第1号)。

① 一日については、就業規則その他これに準ずるものにより八時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日は八時間を超えて労働した時間
② 一週間については、就業規則その他これに準ずるものにより四〇時間を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週は四〇時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く。)
③ 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く。)

具体的な計算例は厚生労働省のホームページをご参照下さい。

1か月以内の変形労働時間制

フレックスタイム制の場合

フレックスタイム制とは、労働者が始業と終業の時間を自ら決める制度のことです。例えば、出社時間が決まっていれば子供が急に発熱した場合に困ることがありますが、フレックスタイム制であれば病院に子供を連れて行ってからでも遅刻扱いにならずに出社することが可能なこともあります。また、フレックスタイム制では同じ時間帯に通勤しないことが可能になるため、特に都市部ではコロナウイルス等の感染症の対策として有効である可能性もあります。テレワークとの相性も良いため、今後フレックスタイム制を導入する企業が増えることが予想されます。

フレックスタイム制の場合には、1日単位の所定労働時間はないため、例えば1日10時間働いた日があったとしても時間外労働にはなりません。清算期間の日数に応じて以下のとおり算定される総労働時間を超えた場合に時間外労働になります。

総労働時間=週法定労働時間(40時間又は44時間)×清算期間中の日数÷7日

例えば、週法定労働時間が40時間の事業場で1か月単位のフレックスタイム制を導入した場合には、1か月が30日の月であれば、171.42時間(=40時間×30日÷7日)を超えて働いた場合には時間外労働となります。

なお、フレックスタイム制については、働き方改革により平成31年4月から清算期間を3か月以内とすることが認められています。ただし、清算期間が1か月を超える場合には、週の法定労働時間が44時間とされる事業場であっても、週平均40時間を超えると時間外労働になります。また、期間内の1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超える場合には、超えた部分は時間外労働になります。

フレックスタイム制の導入方法については、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」をご参照下さい。

フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

裁量労働制の場合

裁量労働制とは、法定の専門業務(自然科学の研究等)や企業の企画・立案・調査・分析業務について、実労働時間に関わらず、事前に定めた一定の時間働いたものとみなす制度です。例えば、裁量労働制により1日8時間働いたものとみなすことになっている場合には、1日当たり12時間働いていても、8時間働いたことになるため時間外労働にはなりません。ただし、みなし労働時間と実労働時間が乖離する状況が続くと、裁量労働制の効果が適用されないという考え方もあるため注意が必要です(土田道夫ほか「ウォッチング労働法第3版」122頁)。

定額残業代制による残業代の計算

定額残業代制とは,割増賃金に代えて一定額の手当を支払う制度のことです。割増賃金の支払いであることが認められれば,基礎賃金額が減少するため大幅に残業代が減少することになります。他方で,①通常の労働時間の賃金に対応する部分と割増賃金にあたる部分とを区別することができること,②割増賃金として支払う手当が法律上の割増賃金額以上であることという要件を満たさない場合には,割増賃金の既払いとして認められないケースも多いです(最判平成6.6.13労判653号12頁等)。この場合には当該手当を含めて基礎賃金を計算することになるため,支払額が増えることになります。

以下の例で定額残業代制が有効であると認められた場合の影響を検討してみましょう。

(設例)
年間所定休日125日 1日の所定労働時間が8時間
基本給  25万2000円
営業手当 2万円
時間外労働手当 3万2000円
対象月の時間外労働時間 50時間 そのうち深夜労働10時間

(定額残業代制が有効な場合の計算例)
基礎賃金 25万2000円+2万円(営業手当)=27万2000円
1か月の所定労働時間 (365-125日)×8時間÷12か月=160時間
1時間当たり基礎賃金 27万2000円÷160=1700円
時間外労働の割増賃金 50時間×125%×1700円=2万1250円
深夜労働の割増賃金  10時間×25%×1700円=4250円
時間外労働の基礎賃金 50時間×1700円=8万5000円

総支給額 25万2000円+2万円+3万2000円+2万1250円+4250円+8万5000円=41万4500円

(定額残業代制が有効ではない場合の計算例)
基礎賃金 25万2000円+2万円+3万2000円=30万4000円
1か月の所定労働時間 (365-125日)×8時間÷12か月=160時間
1時間当たり基礎賃金 30万4000円÷160=1900円
時間外労働の割増賃金 50時間×125%×1900円=2万3750円
深夜労働の割増賃金  10時間×25%×1900円=4750円
時間外労働の基礎賃金 50時間×1900円=9万5000円

総支給額 25万2000円+2万円+3万2000円+2万3750円4750円+9万5000円=42万7500円

 

定額残業代制は,多くの企業で導入されていますが,有効であると認められないと大きなリスクが生じることになります。疑問の余地がある場合には専門家に相談しておくべきです。

定額残業代制が否定された場合の三重苦
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残業代の計算方法で不明な点があれば、労働問題に強い弁護士にご相談ください。

残業代の計算は,法律や判例に対する理解が前提となるため,専門性の高い弁護士に相談することが必要な場合があります。社労士の先生は、給与の計算や制度自体には詳しいのですが,労働審判や刑事民事の裁判の場における主張立証責任を意識して見通しを立てることについては弁護士とは大きな差異があります。残業代の計算方法に不明な点があれば労働問題に強い弁護士に相談するべきです。

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