残業代請求対応、未払い賃金対応

未払い賃金・残業代請求のリスク

近年既に退職等した従業員から、過去数年分にわたって積み重なった残業代や未払賃金について高額な請求を受けるという事例が少なくありません。

高額な残業代や未払賃金の請求は、それ自体が企業経営に大きな影響を及ぼすだけでなく、従業員からの通告等により、残業代や給料の(一部)未払いが常態化していることが明るみになれば、労働基準監督署から是正勧告を受けるおそれもあります。そして、労働基準監督署の勧告に従わずに放置し、事態の改善を図る等しなければ、最悪の場合、刑事責任の追及を受けるというリスクもあります。

従業員から残業代や未払賃金についての請求があれば、まず、ただ放置するのではなく、従業員の請求の前提となる事実関係等を確認するため、資料(近年多様化する傾向にあります。)の確認等をしなければなりません。法律上規定された残業代等は支払わなければならないので、従業員からの請求を受けると、企業(使用者)としては圧倒的に不利ですが、従業員からの請求を整理すると、なかには不要な残業等を前提としているものや、そもそも賃金には該当しない費用の請求を行っているものも見受けられます。

賃金の支払いに関する法律上の定め

賃金は、使用者が労働者に労働に対する報酬として支払う対価であり、労働基準法(以下、「労基法」といいます。)においては、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されています(労基法第11条)。

残業代支払いの事前防止策

変形労働時間制の導入

労基法上、一週間の労働時間は40時間、一日の労働時間は8時間とされています(労基法第32条1項)。

変形労働時間制は、この原則を変更する特別の制度であり、一定の単位期間について、労働時間数の平均が法定労働時間内に収まっていれば、週40時間や1日8時間といった労働時間規制を解除することができるものです。この制度は、単位となる期間内における労働時間を平均して、平均の労働時間が週法定労働時間を超えなければ、期間内の一部の日または週において所定労働時間を超えた時があったとしても法定労働時間を超えたという取り扱いをしないというものです。

定額残業制の導入

定額残業制(固定残業代)とは、企業が一定時間の残業を想定し、想定した残業代を月給に固定で記載し、残業時間を計算せずに固定分の残業代を支払うという制度のことです。「みなし残業代」とも言われています。定額残業制では、一定時間の残業代を一律で計算・支給できます。

事業場外、在宅勤務のみなし労働時間制の導入

みなし労働時間制とは、事業場外の業務に従事することで、労働時間の算定が難しい場合に「特定の時間を労働したとみなす」制度のことです。みなし労働時間制が認められるのは、①会社の外で働いていること、②会社が実際の労働時間について算定困難であることの2つ条件を満たす必要があります。

裁量労働制の導入

裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。専門業型裁量労働制は、特定の業務を対象として採用できる制度です。特徴としては、1日8時間週40時間という縛りにとらわれず、あらかじめ労使協定によって定めた時間分労働したとみなすことができるという点です。

企画業務型裁量労働制とは、企業において企画、立案、調査、分析を行う業務に就いている労働者を対象とした制度です。専門型と同様、労働者自身が労働時間の配分を決めていくことになりますが、専門型よりも制度を実施するための手続きが複雑です。労使委員会を作り、企画業務型裁量労働制を実施するための決議をする必要があります。

未払い残業代の支払い義務と罰則

残業時間の立証責任

未払残業代を請求する場合には、労働者側が労働時間の立証を行います。他方で、使用者も労働時間の適正把握義務を負っているため、労働者が個人的な日記等の資料しか証拠として提出できなかったとしても一応の立証がされていると評価されることもあります。そして、使用者が、有効かつ適切な反証ができない場合には、そのような資料によっても労働時間が認定されることがあり注意が必要です。

未払い賃金請求の対応

初動対応の重要性

未払い賃金が請求された場合には、以下のような初動対応として行うべきです。

1.従業員側の主張の検討
従業員が、どのような根拠に基づき、未払い賃金の請求をしているのかを確認する必要があります。その上で、従業員の残業代請求の法的根拠の妥当性、過大請求の有無を確認します。

2.就業規則等の確認
就業規則の有無や内容、36協定等の労使協定の有無、雇用契約書の有無や内容を確認し、どのような場合に残業代の支払い義務が発生するのか確認する必要があります。

3.労働時間の把握
会社側がどのように労働時間を管理・把握しているのか確認する必要があります。

請求を放置した場合のリスク

1.労基法上の罰則
残業代を払わなかったときに使用者には、 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が課される可能性があります(労働基準法37条、119条)。

2.事業主も処罰される
違反行為者だけでなく、事業主も処罰する規定を「両罰規定」と呼び、労基法121条1項に定められています。そのため、違反行為者のみならず、事業主も処罰の対象となります。

3.刑事罰以外の処遇
厚生労働省は、賃金未払いに対して、刑罰だけでなく、賃金未払いなどの違反の疑いで送検した事案を、ホームページで公表しています。

会社側が主張すべき反論

未払い賃金・残業代は発生していない

労働者が主張する残業代の計算方法が、会社が「就業規則」、「賃金規程」で定めている残業代の計算方法と齟齬がないかを検討する必要があります。残業代の計算方法は、労基法で決められているため、これを変えることはできませんが、「月平均所定労働時間」や、賃金にどのような手当が含まれるかは、会社によって異なります。

また、会社側に有利な残業代の計算方法は、「就業規則」や「賃金規程」などの会社規程類に定められていることが一般的です。他方で、「就業規則」や「賃金規程」が適切に労働者に周知されていなければ、労働審判でその有効性を認めてもらうことができないおそれがあります。

会社の許可なく残業をしていた

業務命令に基づくものではなく、労働者の自発的な意思に基づく残業であった場合には、その時間については指揮命令下にないとして、その時間については労働時間ではないと主張していくことになります。

もっとも、残業をしていることを認識しながらそれを放置していた場合には、「黙示の指示」があったと判断されることが多くあります。

管理監督者からの請求である

労働審判で残業代を請求した労働者が、労働基準法に定める「管理監督者」である場合には、残業代は不要となります。「管理監督者」であると認定される事案は少なく、会社で「管理職」、「役職者」であったというだけでは足りません。「管理監督者」の判断要素としては、①経営者と一体的立場にあること、②出退勤に裁量があること、③管理職手当など、残業代がなくても賃金が相当程度であること、④人事、労務管理の権限を有していること等が考慮されます。もっとも、「管理監督者」であっても深夜労働をした場合には、深夜残業割増賃金(深夜手当)が必要となります。

定額残業代として支払い済みである

労働者が、実際の労働時間に基づき時間外手当の請求を行ってきた場合でも定額残業代の制度が適用される労働者の場合には、実労働時間に対応する時間外手当が発生しないことがあります。会社側としては定額残業代があることを主張し、各制度ことに時間外手当の支払義務が発生しない部分については、支払を免れることができます。

消滅時効が成立している

残業代請求権については、労基法により、消滅時効期間は3年間と定められています。従前の労基法は残業代請求権の時効期間を2年と定めていましたが、法律の改正により、時効期間が3年となりました。そのため、請求された日から3年前以前のものについては、消滅時効の援用を主張し、支払いを免れることができます。

未払い賃金請求の和解と注意点

和解とは、争いのある当事者間で互いに譲歩して紛争を終えることを約する契約であり(民法695条)、和解で定められた事項について、各当事者は、和解成立後、それ以上争うことができません(民法696条)。

一方で、労基法では、労働者の生活の安定を保護するため、賃金は、その全額を労働者に直接支払わなければならないと定めています(労基法24条1項)。そのため、和解で賃金債権を放棄する場合には、一定の制約が掛けられています。具体的に、労働者が賃金債権を放棄したと認められるためには、それが自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在している場合にはじめて有効なものとなります。(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)

付加金・遅延損害金の発生

割増賃金、休業手当、年休手当等の未払いについては、労働者が、その支払いを訴訟で請求した場合、未払い金額と同額の付加金の支払いを命じられて、2倍の支払いをしなくてはならない場合があります(労基法114条)。

弁護士に依頼すべき理由

残業代や未払賃金の請求について弁護士に依頼すると、従業員からの残業代等の請求に対して、企業(使用者)の代理人として交渉を行います。法的手続を見越しつつ各種資料を精査し、事実関係を整理し、適正な残業代等を算出したうえで、従業員に反論を実施し、交渉での妥結を目指します。

当事務所では、残業代や未払賃金の請求について、従業員との交渉を行い、当初請求された金額からの大幅な減額を勝ち取った事例等も数多くこなしてきました。また、残業代や未払賃金によるトラブルを未然に防ぐために、就業規則の新設、整備見直しや職場環境の改善等についてのノウハウにも蓄積があります。

弁護士に依頼すれば、弁護士は企業経営者の代理人として、労働環境の整備を実施します。まずお気軽にご相談等してください。

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この記事の監修

弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長弁護士 長田 弘樹
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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