定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応

公開日:2020年9月4日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

定額残業代制については、時間外労働が恒常的に生じている職場において、割増賃金の計算や精算が省略でき、割増賃金を抑制できるとして、使用者側にとって有用な制度であるとされることがありますが、本当にそうでしょうか。最高裁判例を参考にしながら、要件を確認していきましょう。

定額残業代制の導入と懸念事項

定額残業代制を導入するためには、雇用契約締結の際に労働条件として合意の内容とするか、就業規則で定めることが考えられます。

しかし、次に述べる問題点やリスクがあるため、十分な注意が必要です。

未払い残業代請求における問題点

これまでは、定額残業代制を導入することのメリットとして、①時間外労働が恒常化している職場において、割増賃金算定の煩雑さを回避することができ、②基礎賃金を低額にして割増賃金が増大することを防止することができると考えられてきました。

しかし、後に述べるように、最高裁が示す要件である、①定額残業代を超えた部分についての割増賃金の差額を支払う旨の合意、②明確区分性や、下級審の裁判例が示す要件である、③時間外労働の対価としての性質、④合理性の要件を満たした場合に限り定額残業代制が有効と判断され、これらが認められない場合には無効と判断される傾向にあります。そのため、定額残業代制に関しては、使用者側のメリットがあまりないと評価されるようになってきています。

定額残業代が無効とみなされた場合のリスク

定額残業代が無効と判断された場合は、まず当該定額残業代分の割増賃金を支払っていないことになります。そして、無効な定額残業代制ということになれば、支払ったつもりであった定額残業代分と基礎賃金部分を切り分けることができず、基礎賃金から控除できなくなる結果、割増賃金を計算する時間給が増額され、追加で支払う未払い賃金が増大することになります。さらに、無効とされた場合は、訴訟において付加金(労基法114条)が命じられる可能性があります。

定額残業代制が否定された場合の三重苦

定額残業代に関する裁判例

定額残業代に関する最近の最高裁判例として、テック・ジャパン事件(平成21年(受)第1186号・最判平24.3.8労判1060号5頁)があります。

事件の概要

上告人である契約社員が、被上告人である人材派遣会社との間で、月間140時間から180時間までは基本給41万円とし、月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり2560円を基本給に加えて支払い、月間総労働時間が140時間に満たない場合には1時間当たり2920円を基本給から控除する内容の雇用契約を締結していたところ、月間総労働時間が180時間以内の場合の割増賃金が基本給に含まれるか否かが争点となりました。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

最高裁では、東京高裁の原審の判断を是認できないとして、以下のように判断しました。

まず、約定の内容として、基本給を41万円とし、月間総労働時間が180時間を超える場合にはその超えた時間につき1時間あたり一定額を別途支払い、月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき1時間当たり一定額を減額する旨の約定であるとし、この約定によれば、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がされても、基本給自体の金額が増額されないと認定しました。その上で、この約定においては、月額41万円の全体が基本給とされ、その一部が他の部分と区別されて時間外の割増賃金とされていたという事情がうかがわれず、また、月によって勤務すべき日数が異なること等により月間総労働時間が相当大きく変動しうることから、月額41万円の基本給については、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分とを判別できないとしました。したがって、会社は、月額41万円の支払いをしたとしても、その支払いによって月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について割増賃金を支払ったものとすることはできず、月額41万円の基本給とは別に、労基法37条1項の割増賃金を支払う義務があると判断しています。

また、原審の東京高裁が認定した、本件雇用契約の締結当時に上告人である契約社員が時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたと認定した事実については、最高裁は、上告人が毎月の時間外労働時間数を雇用契約締結当時にあらかじめ予測することはできないとし、上告人である契約社員が自由な意思に基づいて時間外手当の請求権を放棄したとはいえないとしました。

重要視される補足意見

上記のテック・ジャパン事件では、櫻井龍子裁判官の補足意見があります。

補足意見では、本件の場合、明確区分性が認められないことに加えて、定額残業代を超えた部分についての割増賃金の差額を精算する旨の合意が認められないだけでなく、精算の実態も認められないため、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても、月額41万円の基本給とは別に、労基法37条1項の割増賃金を支払う義務があるとされています。

ポイントと解説

最高裁が定額残業代制の有効性に関して示す要件は、①定額残業代を超えた部分についての割増賃金の差額を支払う旨の合意と、②通常の労働時間に対する賃金と時間外労働に対する割増賃金が明確に区別されていることです。特に②の明確区分性については、基本給部分と、労基法37条1項を根拠とする使用者が支払うべき賃金とが明確に区別できているかについて検証可能であること重要であり、検証ができない場合には、労基法37条1項に反し当該定額残業代制が無効となります。

定額残業代制が有効となるための要件

定額残業代制の有効性について、最高裁は、①定額残業代を超えた部分についての割増賃金の差額を支払う旨の合意及び、②明確区分性を要件としてあげていますので、まずはこれらの要件を充足しているかを検討すべきです。そして、下級審の裁判例では、これらの要件以外にも、③時間外労働の対価としての性質、④合理性などを要件として重視しているようですので、これらについても配慮すべきでしょう。

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