監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 残業代請求対応、未払い賃金対応
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この記事では、「残業代」について説明をしていきます。そもそも「残業代」とは何を指すのか?世間で「残業代」といわれているものは一体法的にはどのようなものなのでしょうか。「残業代」と【割増賃金】との関係、割増賃金が発生する3つの場合、についてみていきましょう。
目次
「残業代」は法律用語ではない
法律には「残業代」という用語はありません。世間で「残業代」と言われるのはあくまで俗語とでもいうようなもので、法律用語ではないのです。「残業代」とは、
- ア 時間外労働に対する割増賃金(労基法37条1項)
- イ 法内残業に対する賃金
- ウ 深夜労働に対する割増賃金(労基法37条4項)
- エ 法定休日労働に対する割増賃金(労基法37条1項)
を指します。法的に【割増賃金】が生じるのは、このうち3つ、ア・ウ・エの場合です。
割増賃金はどの時点で発生するのか?
原則として、労働者の労働時間は1日8時間、週40時間と法律で定められています。1週間の始まりは、基本的に日曜日とされており、就業規則等で別の定めがあるのであればそれに従うことになります。
ただ、使用者と労働者の間で合意がとれるのであれば、この法定労働時間を超えて労働(時間外・休日労働)させることは可能です。この合意を、36(サブロク)協定と呼びます。つまり、労働者に時間外・休日労働をさせるためには、この協定を結んでおかなければいけません。36協定を締結せずに時間外・休日労働をさせてしまうと、違法残業となりますので注意しましょう。
時間外労働の割増賃金
時間外労働・休日労働に対しては、使用者は労働者に【割増賃金】を支払わなければなりません。たとえ協定を結んでいたとしても、本来的に法定時間を超える特別な労働時間であるため、特別な対価を支払う義務があるのです。
法定内残業には割増賃金が発生しない
「残業」とひとくくりにいっても、法定内残業と時間外労働の2つがあります。使用者は法定労働時間(1日8時間、週40時間)の範囲内であれば自由に労働時間を設定できます。つまり、使用者と労働者の合意があれば労働時間を1日3時間と定めることも自由です。この時間を超えても法定労働時間を超えない労働は、「残業」とはいえ法律の規定を超えない労働時間に該当するため、割増賃金が発生するものではありません。
深夜労働の割増賃金
深夜労働とは、午後10時から午前5時までの時間帯に労働を行うことをいいます。深夜労働に関しては、労働者の心身に与える影響がやはり日中の労働よりは大きいと考えられるため、法律は日中の労働時間よりも割高な賃金とすることを定めています(労基法37条1、2、4項)。その割合は、通常の労働時間の25%増となっています。
なお、時間外労働と深夜労働が重複した場合には割増率は合算され、合計50%以上の割増賃金を支払う義務があります(労基則20条1項)。
法定休日労働の割増賃金
休日についても、法律で毎週1回以上を与えることが義務付けられています(労基法35条1項)。これを法定休日といいます。週休2日と定められていることが多くありますが、つまり法定休日以外に会社が定めている休日、法定外休日が存在することとなります。なお、休日をいつと設定するかは自由ですが、いつに設定するかはきちんと定めておきましょう。
法定休日に労働をさせる場合、本来お休みである日に業務をすることになる以上、労働者の心身に与える影響を考えて、通常の勤務日よりも割高な賃金とすることを定めています(労基法37条1、2項)。その割合は、通常の労働時間の35%増となっています。
なお、法定休日労働に深夜労働を行った場合には、合計60%以上の割増賃金を支払う義務があります(労基則20条1項)。
以下、割増賃金に関する裁判例としてテックジャパン事件(最判平成24年3月8日)をご紹介します。
事件の概要
使用者と労働者の間で締結された契約内容は以下のとおりです。
- ①基本給:月額41万円
- ②1か月あたりの総労働時間が180時間を超えたときは、超えた時間に対して割増賃金を支払う
1か月あたりの総労働時間が140時間に満たないときは、満たない時間分の賃金を控除する
従業員は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働をしていました。上記の契約内容どおり、1か月あたりの労働時間が180時間を超えない月には、割増賃金は支払われませんでした。
従業員は、法定労働時間を超える時間外労働に対しては、割増賃金を支払う義務があると主張して、割増賃金と付加金の支払いを求めて会社を提訴しました。
裁判所の判断(事件番号)
たとえ使用者と労働者との間で、上記のような、月間総労働時間が一定の時間を超えた場合に限って割増賃金を支払うとの契約があったとしても、時間外労働に該当する場合には労働基準法37条1項に従って割増賃金の支払い義務を負うとされました。
ポイントと解説
本件については、原審では、労働者が、180時間以内の時間外労働に対する割増賃金の請求権を放棄したとして労働者の請求は棄却されていました。
しかしながら最高裁は、基本給においてどの部分が通常の労働時間の賃金に当たるのか、割増賃金部分がどの部分なのか不明であり、割増賃金の支払いが無いと判断されました。そのうえで、事実関係上、時間外手当の請求権を放棄したと考えられる事情がなく、労働者の時間外労働時間が大きく変動し得るものであって労働者において時間外労働時間を想定することは困難であるとして、本件で労働者が割増賃金の請求権を放棄したことはないと判断されました。
本件のポイントとしては、基本的な賃金部分と割増賃金部分を明確に分けておくべきこと、そして、裁判所は必ずしも当事者間の契約内容のみに基づいて判断するわけではないこと、といえるでしょう。
割増賃金に関する様々な疑問に弁護士がお答えします。不明点があれば一度ご相談ください。
割増賃金については、そもそも対象となるのか、その計算方法はどのようなものか等、一筋縄ではいかない問題が山積みです。いわゆる未払い残業代請求については、法的な論点が多く、また請求金額も大きくなりやすく、1つの問題が使用者にとって大打撃となるケースも少なくありません。
割増賃金の問題発生に至らないように、普段からの労働者管理はしっかりとしておくべきです。どのような労働者管理の方法が妥当であるのか等、弁護士は様々なノウハウを有していますので一度ご相談ください。また、労働者から割増賃金に関する問題が提起された場合、問題に少しでも早く向き合うことにデメリットは有りませんので、一度ご相談下さい。
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