監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- ハラスメント対応
- 労働審判
会社を経営していく上で、労働者がハラスメントを受けたとして、会社に損害賠償請求がなされる場合があります。その中で、労働者が会社を相手方とする労働審判を申し立てることもあります。
本記事においては、労働者から労働審判が申し立てられた場合に、会社が主張すべき反論内容についてご説明いたします。
目次
- 1 ハラスメントによる労働審判に会社はどう反論すべきか?
- 2 労働審判とはどのような制度か
- 3 ハラスメントで労働審判を申立てられた際にすべきこと
- 4 答弁書作成のポイント
- 5 労働審判において会社側が主張すべき反論とは
- 6 ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐための対策
- 7 よくある質問
- 7.1 労働審判では、必ず代理人を選任しなければならないのでしょうか?
- 7.2 労働審判の代理人を弁護士に依頼した場合、会社関係者は出席しなくても良いのでしょうか?
- 7.3 答弁書に必ず記載しなければならない事項はありますか?
- 7.4 労働者がハラスメントの証拠を持っている場合、会社はどう対処すべきでしょうか?
- 7.5 ハラスメントによる労働審判は、解決までにどれくらいの期間がかかりますか?
- 7.6 労働審判でも合意に至らなかった場合、会社は異議申し立てをすべきでしょうか?
- 7.7 ハラスメントが業務と無関係である場合でも、会社が責任を負うことになりますか?
- 7.8 ハラスメントの原因が被害者側にもあったのですが、この点について主張すべきでしょうか?
- 7.9 答弁書が期日までに提出できない場合、どうしたらいいでしょうか?
- 7.10 精神疾患の発症が、ハラスメントではなく別の原因によるものであった場合、会社は慰謝料を支払う必要がありますか?
- 8 ハラスメントの労働審判において、会社側は可能な限り反論すべきです。答弁書の作成などでお悩みなら弁護士にお任せください。
ハラスメントによる労働審判に会社はどう反論すべきか?
会社側が反論を検討するにあたっては、まず、労働者の労働審判申立書を確認する必要があります。
ハラスメントを原因とする労働審判では、労働者として、①ハラスメントが発生したこと、②損害(治療費や精神的苦痛等)が発生したこと、③②の損害がハラスメントによって生じたことを主張することが考えられます。
そのため、会社側としては、上記労働者の主張を覆す必要があります。具体的には、①労働者の主張する事実(ハラスメントが発生した事実)がないこと、②労働者に損害が発生していないこと、③損害とハラスメントとの間に因果関係がないことを主張していくあります。会社側が上記反論を行うためには、労働者が主張する事実があるかどうかの調査、会社側の主張を裏付ける証拠等の収集が必要となります。
労働審判とはどのような制度か
労働審判の主な流れ
労働審判とは、労働者と会社間の紛争に関して、労働審判委員会(裁判官1名、労働審判員2名)が事件を審理し、調停(話し合い)に解決を試み、調停に至らない場合には、審判(当事者間の主張に照らして裁判所が決定を行う手続き)を行うものであり、原則として、3回以内の期日で審理を終結させる手続きです。
流れとしては、労働者が労働審判の申立て(申立書、証拠書類を提出する)を行い、申立てから40日以内に第1回期日が指定されます。会社としては、労働者の申立てを受け、答弁書及び証拠書類を提出する必要があります。答弁書の提出期限が、裁判所により定められますが、通常、第1回期日の10日前や1週間前と定められることが多いです。
その後、審判期日においては、審判委員会、申立人・申立代理人、相手方・相手方代理人が一堂に会し、主張及び争点の整理を行い、審尋(当事者の聞き取り)、審判委員会から調停の試みがなされることもあります。そして、上述したように3回以内の期日で審理を終結することになり、調停が成立するか、調停が成立しない場合には審判がなされます。 なお、審判に不服がある場合には、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に裁判所に異議を申し立てることができます。
通常の裁判との違い
通常の裁判の違いは、手続きの迅速性にあります。
通常の裁判であれば、第1回期日に原告(訴えた人)の主張に対し、被告が答弁書による具体的な反論が困難な場合には、「(具体的な反論は、)追って主張する。」という反論のみで足りますが、労働審判手続きにおいては、第1回期日までに具体的な反論の提出が求められます。また、通常の裁判では、期日の回数に制限はありませんが、労働審判手続きでは、原則として3回以内の期日で審理を終結する必要があり、その点でも手続きが迅速に進みます。
ハラスメントで労働審判を申立てられた際にすべきこと
労働者の主張を把握する
上述したように、労働審判は、通常の裁判とは異なり、迅速な手続きが求められていることから、申立てを受けた会社としても、早急に反論の準備を進めていく必要があります。
会社の反論を検討してく上で、重要となるのが、労働者がどのような主張をしているのかを把握する必要があります。そのため、労働者の申立書に記載された主張を確認し、申立人が主張する事実関係、証拠関係を把握する必要があります。
会社側の反論を記載した答弁書の作成
答弁書については、①労働者の主張に対する認否(労働者の主張する事実を認めるのか、否認するのか、知らないのか、争うのか)、②会社の反論(労働者の主張に対する会社の反論)を記載する必要があります。上記①②を書き分けることによって、労働者の主張に対する会社の認識、会社の反論内容が明確になります。通常の裁判においては、会社が持っている証拠について、タイミングを見計らって、ある程度の審理が進んだ段階で提出するよう場合もありますが、労働審判においては、迅速な手続きが求められる以上、会社が行う主張や証拠については、できる限り答弁書において記載すべきです。
答弁書の提出期限について
答弁書の提出期限は、裁判所により指示されることになりますが、通常、第1回期日の10日前や1週間前と定められることが多いです。上述したように、労働審判においては、迅速な手続きが求められていることから、時間がない中でも答弁書の記載を充実させる必要があります。
答弁書作成のポイント
パワハラの場合
パワーハラスメント(以下、「パワハラ」といいます。)とは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されることをいいます。
労働者が主張する事実関係や労働者が受けた被害内容を確認し、会社内でパワハラと考えられるような事実がなかったのかを調査する必要があります。調査内容としては、加害者とされる者の業務中の発言や指導方法、メール等のやり取りに問題がなかったのかどうかの確認、本人や他の労働者の聞き取り調査を行う必要があります。その上で、会社として、パワハラがあったことを認めた上で反論するのか、パワハラ自体を否定して反論するのかといった方向性を決めていく必要があります。
セクハラの場合
セクシュアルハラスメント(以下、「セクハラ」といいます。)とは、職場で行われる労働者の意思に反する性的な言動であり、当該言動によって当該労働者が不利益を受けるもの(対価型セクハラ)と当該言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクハラ)をいいます。
セクハラについてもパワハラと同様に、労働者が主張する事実関係や労働者が受けた被害内容を確認し、会社内でセクハラと考えられるような事実がなかったのかを調査する必要があります。加害者とされる者の業務中の発言、メール等に問題がなかったのかの確認、本人や他の労働者の聞き取りを行う必要があります。その上で、会社として、セクハラがあったことを認めた上で反論するのか、セクハラ自体を否定して反論するのかといった方向性を決めていく必要があります。
労働審判において会社側が主張すべき反論とは
被害者が主張するようなハラスメントの事実は存在しない
上述したように、会社としては、労働者(被害者)の主張に対し、会社内で十分な調査を行う必要があります。そして、メール等の客観的な証拠や本人や他の労働者の聞き取り等による主観的な証拠に照らして、調査の結果、被害者が主張するようなハラスメントが存在しない場合には、労働審判手続きの中で、「ハラスメントが存在しないこと」を主張していくべきです。そのためには、被害者の主張を覆すような証拠やハラスメントが存在しないことを示す証拠の収集・提出が求められます。
会社側は法的責任を負わない
労働者が主張するような事実が認められたとしても、すべて会社側が法的な責任を負うわけではありません。
加害者とされる者の発言がパワハラに該当するどうかは、両当事者の職務上の地位・関係、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の総合考慮の上、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らして客観的な見地から見て、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り認めるとする裁判例も存在しています。そのため、会社としては、労働者の主張するような発言があったとしても、それが職務上の地位・権限を逸脱・濫用するようなものではなく、業務上必要かつ相当な範囲であることを主張することも可能です。
ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐための対策
労働者が労働審判を申し立てた場合、会社としても、準備期間が短い中で早急な対応が求めれます。そして、ハラスメントによる労働審判の場合には、反論の準備期間が短いことに加え、会社内での調査が必要になり、業務に多大な影響を及ぼします。そのため、ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐことが非常に重要になります。
そのためには、会社内において、労働者の職場環境改善のために、ハラスメント相談窓口を設けることや会社内でハラスメントを生まないような取り組み(社内外のハラスメント研修への参加、会社内でハラスメントが生じないように周知・啓蒙すること啓発等)によってハラスメント自体を未然に防ぐことが必要となります。
よくある質問
労働審判では、必ず代理人を選任しなければならないのでしょうか?
労働審判においては、必ず代理人を選任する必要はなく、本人(会社)で対応することも可能です。しかしながら、労働審判は迅速かつ柔軟な解決が求められるため、弁護士が代理人として就任することが望ましいといえます。
労働審判の代理人を弁護士に依頼した場合、会社関係者は出席しなくても良いのでしょうか?
期日においては、当事者が提出した書面の確認だけではなく、労働審判委員会から、当事者に対して質問がなされます。それだけではなく、調停(話し合いによる解決)に向けた協議がなされることもあるため、期日当日は、会社関係者の方に出席してもらうこと良いです。
答弁書に必ず記載しなければならない事項はありますか?
答弁書には、申立人の主張に対する反論の骨子の主張(「申立ての趣旨に対する答弁」といいます。)、申立書に記載された事実を認めるのか、否認するのかの確認に関する主張(「申立ての原因に対するする認否」といいます。)、申立人に対する反論を記載する必要があります。
労働者がハラスメントの証拠を持っている場合、会社はどう対処すべきでしょうか?
労働者がハラスメントの証拠を持っている場合には、会社側としてハラスメント自体を否定することは難しい場合があります。ただし、ハラスメントに関する証拠があったとしても、ハラスメントと損害との間に因果関係がないといった主張を行うことも可能です。
ハラスメントによる労働審判は、解決までにどれくらいの期間がかかりますか?
労働審判の審理期間は、申立てから2か月半から3か月程度で終了することが多いです。通常の民事裁判に比べ、審理期間が著しく短いものとなっています。
労働審判でも合意に至らなかった場合、会社は異議申し立てをすべきでしょうか?
労働審判の期日の中で、労働審判委員会から調停(当事者の合意による解決)に至らない場合には、審理の内容を踏まえて、裁判所が審判という形で判断を下します。
会社が裁判所の審判内容に不服がある場合には、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に裁判所に異議を申し立てることができます。
ハラスメントが業務と無関係である場合でも、会社が責任を負うことになりますか?
労働者のハラスメントに対して、会社が損害賠償責任を負う場合とは、「職務に関連する」場合とされています。この職務関連性については、職務執行行為に加え、「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」を含むとされています。そのため、ハラスメントが業務と間連するよう場合には会社が責任を負う場合もあります。
ハラスメントの原因が被害者側にもあったのですが、この点について主張すべきでしょうか?
損害の発生について、被害者にも原因がある場合には、損害の公平な分担という趣旨から、損害の算定にあたって、過失相殺を主張することが可能です。
答弁書が期日までに提出できない場合、どうしたらいいでしょうか?
労働審判手続きの中で、会社側(申立てられた側)にとって答弁書は、反論を具体的に主張することができる非常に重要な書面です。そのため、答弁書は、可能な限り期日までに提出する必要があります。どうしても期日に提出することができない場合には、裁判所に連絡をして、期日を延期できないかを連絡してもよいと考えます。ただし、労働審判手続は、上述したように迅速な手続きが求められている以上、期日を大幅に後ろ倒しすることはできないと考えられます。
精神疾患の発症が、ハラスメントではなく別の原因によるものであった場合、会社は慰謝料を支払う必要がありますか?
労働者の精神疾患の発症がハラスメントだけではなく、他の原因がある場合には、ハラスメントと損害との因果関係が否定されるため、会社が慰謝料の支払う必要はないと考えられます。
ハラスメントの労働審判において、会社側は可能な限り反論すべきです。答弁書の作成などでお悩みなら弁護士にお任せください。
労働者からハラスメントによる労働審判が申し立てられた際には、会社側として、迅速な対応が求められます。労働審判に迅速な対応が求められる以上、会社としては、時間がない中でも、労働者の主張内容を確認し、事実関係の調査、事実を認めるかどうかの判断、労働者に対する反論内容の検討、反論を裏付ける証拠の収集等を行う必要があります。また、より有効な反論を行うためには、相手方の主張を分析して反論していくことが求められます。
労働審判に迅速かつ適切に対応して行くためには、労務問題に精通した弁護士のアドバイスが不可欠です。労働審判にお困りの際には、当法人の弁護士にお任せください。
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