カスタマーハラスメント対応について解説

公開日:2020年9月3日
  • ハラスメント対応

取引先からパワハラをされたり、顧客から著しい迷惑行為をされることをカスタマーハラスメントと言います。 マスク不足の時期にドラッグストアの店員が客から怒鳴られたケースのように、客の理不尽なクレームの事例は後を絶ちません。お客様は神様と言われますが、どこかで線引きをして従業員と会社を守らなければならない場合があります。 本稿ではカスタマーハラスメントについてご説明いたします。

企業にはカスタマーハラスメントから社員を守る義務がある

企業は従業員に対する安全配慮義務を負っています。安全配慮義務の内容として、従業員がカスタマーハラスメントの被害に遭わないように配慮したり、被害に遭った従業員への対応を適切に行うべき義務が認められる可能性があります。 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(以下「パワハラ指針」と言います。)には、企業はカスハラ被害者に対して「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「被害者への配慮のための取組」を行うことが望ましいと記載されています。

厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」25頁には「そもそも、使用者には労働契約に伴って安全配慮義務があり、その具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となるその具体的状況によって異なるものの、一般的には、顧客や取引先など外部の者から著しい迷惑行為があった場合にも、事業者は労働者の心身の健康も含めた生命、身体等の安全に配慮する必要がある場合があることを考えることが重要である。」と記載されています。

また、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律附帯決議(令和元年5月28日参議院厚生労働委員会)」12項には「近年、従業員等に対する悪質クレーム等により就業環境が害される事案が多く発生していることに鑑み、悪質クレームを始めとした顧客からの迷惑行為等に関する実態も踏まえ、その防止に向けた必要な措置を講ずること。また、訪問介護、訪問看護等の介護現場や医療現場におけるハラスメントについても、その対応策について具体的に検討すること。」と記載されています。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

パワハラ指針によると、カスタマーハラスメントとは「取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)」のことを指すと考えられます。

カスハラが増加した背景

カスハラの実数を測定することは難しいですが、一般的にはカスハラは増加傾向にあると言われています。 日本では小規模小売業が多いため、米国のようなマス・マーケティングと比較すると、多様なニーズを持つ顧客との関係性が重視されやすい傾向があると考えられます。また、インターネット上の風評リスクは年々増加していることが明らかです。このような背景事情があるため、企業側が顧客を過剰に神様扱いすることによってカスタマーハラスメントの実数が増加している可能性もあります。 他方で、カスタマーハラスメントという言葉が浸透することで、従来から存在した顧客の迷惑行為が顕在化した可能性もあります。

カスハラとクレームはどう違うのか?

一般的には、カスハラは顧客が理不尽な要求をしたり威圧的言動で苦情を伝えることであると考えられています。これに対して、クレームは適切に要望を伝えることであると考えられているようです。 ただし、カスハラの意味が明確に定まっているわけではありません。「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」参考資料39頁の企業に対するヒアリング結果では、企業側に落ち度がある場合もカスハラの問題として捉えられています。また、同報告書41頁には、事前にカスハラの判断基準を設けることは困難であり、個別に判断するしかないという趣旨の記載があります。 さらに、最初は正当なクレームであっても、著しく不当な方法態様に至った場合には、カスハラと評価されることになります。 結局のところ、①顧客の要望の理由が合理的か否か、②顧客の言動が著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)に至っているか否か、③法的なリスクや経営上のリスクはどの程度あるかという観点から、適切な線引きを個別の事案ごとに行っていく必要があります。

カスタマーハラスメントについて企業が取るべき対応

企業が顧客の個別の行動を予測することは困難ですし、突発的な顧客の迷惑行為を防ぐ方法がない場合も考えられます。したがって、カスハラの発生を予防することにはどうしても限界があります。他方で、カスハラが生じた後の対応や従業員のケアについては、一定の対策を講じることは可能です。

マニュアル・対応フローの作成

企業側の落ち度がカスハラの端緒となっている場合もありますし、相手が顧客であるため、画一的な対応を行うことが難しいこともあります。しかし、一般化が可能な部分もあるため、マニュアルや対応フローを作成するべきです。例えば、以下のような内容が考えられます。

・カスハラの情報を共有する仕組みを作り、従業員に早期に報告するべきであることを明示します。社内の相談窓口や社外部相談窓口を設置することも有益です。
・相手方と誰が直接対応するか決めておきます。トラブルになっている場合には、直接クレームを受けている担当者に対応を委ねるべきではありません。上司が対応するか、本社の従業員が対応するべきです。
・暴言等の証拠を残すことが重要であるため、録音等の記録化の仕組みを作るべきです。録音をすること自体でカスハラを一定程度抑止する効果も期待できます。
・警察、弁護士などを利用するケースについて、誰がどのような場合に判断するか決めておきます。実際には個別の判断が必要です。
・被害者のメンタルケアの仕組み作りをします。

カスハラ対策に関する研修

マネジメント層に対して、カスハラの相手方への対応だけではなく、被害者へのフォローも含めて、ハラスメントに関する研修を定期的に受講させるべきです。現場の担当者にも、著しい迷惑行為があれば報告するべきであることや、メンタルケアの制度があることを周知するために、定期的に研修を行うべきです。

相談窓口の設置

カスハラは相手が顧客であることが特徴です。支店にとっての大口顧客が著しい迷惑行為をしている場合に、担当者が支店の上司に相談しにくい場合も考えられます。社内の相談窓口を設置することによって、カスハラの情報が早期に報告されやすい環境を作るべきです。女性社員に配慮して、女性の相談担当者がいることが望ましいと考えます。 また、事案によっては社内には報告しにくい場合も想定されますので、パワハラ等と併せて外部相談窓口を設置することも有益です。

被害者のストレス対策

独立行政法人労働政策研究研修機構による調査研究によると、いじめ・嫌がらせの被害者(あっせん事案)のうち約35.2%の者がメンタルヘルスに何らかの不調を来たし、うつ病、自律神経失調症、PTSD、パニック障害、不安障害、適応障害等になっていました(JLPT資料シリーズNo154「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態)。カスハラによる精神的苦痛は、従業員の離職や休職、やる気の低下等にもつながるため、企業として対応が必要です。 セルフケアに関する情報提供、職場環境の把握と改善、管理監督者のメンタルヘルス不調者への気付きと対応、休業や職場復帰の支援等ができるようにするべきです。中長期的な計画を定めて、衛生委員会の調査・審議をフィードバックしながら、メンタルヘルスケアを推進するべきです。

カスタマーハラスメントに関する裁判例

近年カスハラに関して注目すべき判決が言い渡されました(甲府地判平成30年11月13日労働判例1202号96頁)。カスハラに対する企業の対応が、社会通念上許容される範囲を超えており違法である場合には、担当者に対する民事上の不法行為として損害賠償請求が認められるという内容です。この裁判例によると、顧客に唯々諾々と従うだけでは企業に法的リスクが生じる場合があることになるため、内容を十分把握しておくことが重要です。今回はカスハラに関連する部分のみご紹介します。

事件の概要

A市市立小学校のB教諭は防災訓練に参加するために移動していたところ、A市市立小学校の生徒Cが飼っている犬に咬まれてしまいました。B教諭は整形外科の医師から犬の飼い主に対して保険加入の有無を聞いてみたらどうかという助言をうけたため、生徒Cの母親に対し「賠償保険という保険に入っていたら使わせていただきたい」と述べました。生徒Cの父母は、保険には加入していなかったのでB教諭の自宅を訪問して謝罪し、治療費の賠償をすることを申し入れました。B教諭は気持ちだけで十分であると述べて治療費の支払を辞退しました。B教諭の妻は生徒Cの父母が帰る際に「学校教員は、教育的なことの中で言いたいことも言えないが、そういうことは理解してほしい」という趣旨の発言をしました。 翌朝生徒Cの父からD校長に対して、犬咬み事故について補償は不要ということで話が収まったのにB教諭がまだ補償を求めており、B教諭から生徒Cの母に対する電話での話が脅迫めいているという抗議がありました。D校長はB教諭に事情を報告させた後に、B教諭が「賠償」という言葉を使ったことを非難しました。 生徒Cの父と祖父が学校を訪問し、B教諭とD校長と面談しました。D校長はB教諭に対して「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」と言って非難し、謝罪するように求めました。B教諭はソファから腰を降ろし、床に膝を着き、頭を下げて、謝罪して辛い思いをしました。さらに、D校長はB教諭に一人で生徒Cの自宅を訪問して、生徒Cの母に謝罪するよう指示しました。 その後、B教諭はうつ病を罹患し傷病休暇を取得しました。しかし、D校長はうつ病罹患に関する災害状況報告書を作成・提出しないことにより、B教諭が公務災害認定請求をすることを妨げました。  B教諭はD校長からパワハラを受けてうつ病に罹患し休業し精神的苦痛を受けたとして、D校長とA市に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行いました。

裁判所の判断

裁判所は、理不尽な要求に屈してD校長がB教諭に謝罪させたことについて不法行為が成立し、損害賠償する義務があると判断しました。 裁判所は、D校長がB教諭に対して「賠償」という言葉を使ったことを非難したことについて、元々B教諭は犬の飼主に賠償請求する権利を有しており、しかもB教諭は賠償責任保険の話をしただけであるため、D校長がB教諭を「一方的に非難したものであって、この行為は、原告に対し、職務上の優位性を背景に、職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を逸脱し、多大な精神的苦痛を与えたものといわざるを得ない。」と判示しました。 また、裁判所は、D校長がB教諭に生徒Cの親に対する謝罪を求めたことについて、「本件児童の父と祖父の理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない。そして、この行為は、原告に対し、職務上の優越性を背景とし、職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり、原告の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えたものといわざるを得ない。」と判示しました。なお、D校長は「客観的に見た場合、話を収めるには、この方法が良いと判断しました。」と主張していますが、裁判所はD校長の主張を認めていません。

ポイントと解説

上記の裁判例は、その場を収めるためにカスハラに対して安易に屈するような対応をすると、従業員に対する不法行為になる場合があると判断しています。他方で、顧客が合理的な要求をしている場合には、然るべき謝罪をしなければ風評リスク等が生じることになります。企業としては難しい判断が求められますが、裁判所が指摘するように「事実関係を冷静に判断して的確に対応」するしかありません。①顧客の要望の理由が合理的か、②顧客の言動が著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)に至っているかという点を考慮しつつ、カスハラに対して毅然と対応することを選択するべき場合もあるでしょう。 また、上記の裁判例のケースは、顧客(生徒の親)側の要求が法的には明らかに不合理なものであるにもかかわらず、上司が担当者に土下座に近い態様で謝罪をさせたという極端な事例です。顧客の合理的な要望に対して部下に謝罪させた場合や、部下が「不快な思いをさせてすいませんでした。」等と口頭で謝罪しただけの事案について、上記の裁判例の射程が及ばない可能性も十分にあります。 さらに、上記の裁判例は、一般論としてパワハラの定義に該当しても「それが直ちに不法行為に該当するものではないと解され、それがいかなる場合に不法行為としての違法性を帯びるかについては、当該行為が業務上の指導等として社会通念上許容される範囲を超えていたか、相手方の人格の尊厳を否定するようなものであった等を考慮して判断するのが相当である。」と判示しており、カスハラに関する判断も同じ枠組みで判断しています。したがって、カスハラに対する対応が不法行為になる場合を限定する裁判例であるという評価も可能です。

職場におけるハラスメントの法改正と企業対応

厚生労働省のカスハラに対する指針

パワハラ指針には、顧客等からの著しい迷惑行為に関して行うことが望ましい取組の内容が記載されています。  なお、労働施策総合推進法30条の2第1項により、令和2年6月1日から(中小事業主は令和4年4月1日から)事業主には、パワーハラスメント防止措置の実施義務があります。労働者からの相談体制の整備や被害者への適切な配慮等は、パワハラに対する対応策として法律上の義務になりますので、カスハラに対する対策も同時に行うことが合理的です。

防止対策の強化に向けて企業が講ずべき措置

パワハラ指針では、①②の取組を行うことが望ましいとされています。また、③の取組も被害防止のために有効であると指摘されています。

① 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 相談担当者や相談の制度を定めたり、外部相談窓口を設置し、カスハラに該当するか否か微妙な事案でも広く相談に応じ、適切に対応することが考えられます。カスハラの情報は経営上必要な情報でもあるので、対応する範囲は広くすることが望ましいと考えます。
② 被害者への配慮のための取組
 被害者のメンタルヘルス不調への相談対応を行うべきです。相手方に対して担当者個人ではなく組織として対応することで精神的苦痛を緩和するべきです。
③ 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組

カスハラ対応のマニュアルを作成したり、研修を行うことが、カスハラ防止に有効であるとされています。

カスタマーハラスメントには毅然とした態度が求められます。ハラスメント問題でお悩みなら、一度弁護士にご相談ください。

カスハラに対して毅然とした対応が必要な場合には、弁護士から相手方に連絡することが極めて有効です。弁護士であれば、企業にとって対応困難な顧客の対応を行うことは比較的容易です。 また、カスハラ等のハラスメント問題の外部相談窓口として弁護士を利用することも考えられます。従業員からすると弁護士であれば適切に対応してもらえるという印象を抱きやすいため、カスハラの情報が集まりやすくなる可能性もあります。 さらに、上記の裁判例(甲府地判平成30年11月13日労働判例1202号96頁)は、法律上正しい見通しを前提として対応することを求めているとも言えるので、カスハラに対する対応を判断するために、弁護士の助言を受ける必要がありそうです。 弁護士への相談も、相談するべきかどうか微妙な事案も含めて、広く相談することが重要です。カスハラでお悩みであったり、企業内の現在の体制では不十分であるとお感じになる場合には、是非弁護士にご相談ください。

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