労務

2022年から中小企業も義務化!パワハラの防止措置義務について

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント対応

昨今、我が国において、様々なハラスメントが社会問題化していますが、その中でも企業にとってパワーハラスメント(パワハラ)への取り組みという点は、非常に重要視されるようになっております。
そのようなパワハラへの対策について中小企業に対しても、規制が加わるようになりました。
本ページではこの点について説明させていただきます。

2022年から中小企業もパワハラの防止措置が義務化

パワハラ対策が必要となる「中小企業」の定義とは?

2022年からパワハラ防止措置の義務が課された中小企業とは以下のような条件に該当する企業あるいは個人となります。

①製造業その他の場合 以下のいずれかに該当する場合
・資本金の額若しくは出資の総額が3億円以下の会社
・常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
②卸売業の場合 以下のいずれかに該当する場合
・資本金の額若しくは出資の総額が1億円以下の会社
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
③小売業の場合 以下のいずれかに該当する場合
・資本金の額若しくは出資の総額が5000万円以下の会社
・常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
④サービス業の場合 以下のいずれかに該当する場合
・資本金の額若しくは出資の総額が5000万円以下の会社
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

どのような行為がパワハラにあたるのか?

パワハラにあたる行為として、労働施策総合推進法は、①優越的な関係を背景にした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、③労働者の就業環境が害されるものと定義しています。
そのため、業務上必要かつ相当な範囲の指導・叱責はパワハラには該当しませんが、暴力や、人格否定などの言動、集団で一人を無視するといった行動はパワハラに該当することになるものと考えられます。

中小企業に課せられるパワハラ防止措置の内容とは?

では、中小企業に課せられるパワハラの防止措置とはどのような内容になるのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。

①事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

まず、企業においてパワハラを行ってはならないという態度を明確化し、従業員に周知・啓発を行うことが必要となります。また、パワハラを行った者に対して、きちんと対処することやその対処の内容について就業規則等に定め、そのような定めを従業員に周知・啓発することが必要となります。
そのため、現状の就業規則に、パワハラを禁止するような規定を設けていないような場合には就業規則の変更を検討する必要があります。

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

従業員からのパワハラに関する相談に対応するための体制を整備する必要があります。
具体的には、相談窓口を設置し、その旨を従業員に周知することや、その窓口担当者が、相談内容等に応じ、適切な対応をすることができるようにしておく必要があります。
相談窓口は社外に設置することでも問題ありませんので、社内で適切な設置を行うことが難しい場合には弁護士等の専門家を窓口とすることも検討対象となります。

③職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応

職場においてパワハラが発生した場合の対応についても定められています。
具体的には以下のような対応が求められます。

パワハラ被害者への対応

パワハラがあったと確認できた場合には、被害者に対する配慮のための措置を行うことが求められます。
具体的には、加害者との関係改善に向けた援助や、加害者と引き離すための配置転換、被害者が労働条件上不利益を受けている場合にはその回復等の措置が考えられます。

パワハラ行為者への対応

パワハラがあった特認できる場合には、加害者に対する措置を適正に行うことも求められることとなります。
具体的には、パワハラについて禁止した就業規則に基づき、必要な懲戒処分等を下すこと、被害者との関係改善に向けた援助や、被害者と引き離すための配置転換等の措置が考えられます。

④①~③とあわせて講ずべき措置

その他講ずべき事項としては、パワハラの相談者や加害者とされる者のプライバシーを保護するための措置を講じ、またそのような措置を講じていることを労働者に周知することや、パワハラの相談をしたことをもって解雇等の不利益な取り扱いをしないことを従業員に周知・啓発すること等が求められています。

中小企業がパワハラ防止対策に取り組むメリット

一般の方がSNSで気軽に情報発信ができる時代となり、有名な大企業でなくても、パワハラ行為があった場合、あっという間に悪評判が広まってしまうようになりました。
そのような悪評判が広まりますと、新規採用が困難になることはもちろんのこと離職率の向上にもつながってしまい、企業にとってデメリットしかありません。
そのようなデメリットを防ぎ、離職率の低下等を図るためにもパワハラ防止対策に取り組むことは重要なものと考えられます。

パワハラの防止措置義務を怠った場合はどうなる?罰則は?

パワハラ防止措置義務を規定した労働施策総合推進法にはこれを破った場合の罰則は定められておりません。ただし、厚生労働大臣より、必要と判断された場合には、助言、指導や、勧告が行われることとなり、特に勧告に従わない場合には企業名を公表されることが規定されています。そのため、パワハラ防止措置義務に違反した場合、会社が被るダメージは大きなものとなることが想定されます。

パワハラだけでなくセクハラ・マタハラ等の対策も必要

ここでは、パワハラの防止措置について取り上げましたが、セクハラ(セクシャルハラスメント)やマタハラ(マタニティハラスメント)に対する対策が十分でなかった場合、企業に損害賠償義務が生じる可能性があることは言うまでもありませんので、これらに対する対策についても考えなければなりません。

職場内でのパワハラに関する裁判例

最後に職場内でのパワハラに関する裁判例をご紹介します。

事件の概要

とある飲食店(C社)の店長のAさんが、上司であるエリアマネージャーBさんから以下のような行為を受け、自殺をしたという事件になります。
BさんはAさんに対し、①Aさんが仕事のミスをすると「馬鹿だな」「使えねえな」と発言して頭や頬を叩き、②Aさんが休日であると認識しながら、他の従業員で対応可能なミスについても呼び出して対応させ、③Aさんの交際相手とも別れさせようとするなどの行為を行っていました。また、Aさんの労働時間は恒常的に1日12時間半以上の長時間労働になっていました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

このような事例につき、東京地方裁判所は平成26年11月4日に以下のような内容の判決を下しました。
すなわち、裁判所は、パワハラを行ったBのみならず、C社及び同社の代表取締役(Dさん)に対しても約5800万円もの損害賠償が認めました。
まず、裁判所は、Bさんの行為を違法なパワハラであると認定した上で、長時間労働と合わせて、Aさんの自殺との関係性を肯定しました。

その上で、C社の責任として、Aさんがパワハラ等により心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)があり、それを怠ったこと、またBさんの使用者としての責任を肯定しました。
さらに、Dさんについても、C社の代表取締役としてC社が安全配慮義務を遵守する体制を整えるべき義務があったことを理由として損害賠償責任を肯定しました。

ポイント・解説

事件の概要を見る限り、Bさんの行為がパワハラに該当し、違法なものであることは皆さんの感覚とも一致するのではないかと思います。しかし、このBさんの行為を基に、会社や代表取締役も約5800万円もの損害賠償責任を負うということまではなかなかイメージできなかったのではないでしょうか。
パワハラは加害者本人が責任を負うことはもちろんのこと、会社においても責任を負うことがあり、かつその責任の金額もかなりの高額になることがあります。
そのことを会社として認識いただき、パワハラ対策の重要性を感じていただくため、本事件を紹介いたしました。

中小企業におけるパワハラ対策でお悩みなら弁護士にご相談ください。

以上のように、中小企業においてもパワハラ対策を行うことは必須なものとなりますが、一方で十分な対策を行うことは決して簡単ではありません。パワハラ対策にお悩みの方は、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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