
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- ハラスメント対応
職場でのハラスメントは、被害者への直接的な被害以外にも、職場環境の悪化による業績悪化、人材流出のリスク、企業イメージの低下など、様々な間接的な被害を生じさせる重大問題です。
そして、そのような間接的な被害の中でも、ハラスメントを見聞きすることで生じる、周囲の従業員に対する負担は、企業として看過し得ない問題の1つです。
そこで本稿では、ハラスメントが生じさせる間接的な被害のうち、周囲の従業員に与える悪影響に特に着目しながら、ハラスメント防止措置の重要性について解説いたします。
目次
- 1 ハラスメントが周囲の従業員に与える悪影響
- 2 退職者の増加により人材不足に陥るリスク
- 3 ハラスメント被害に関する裁判例
- 4 企業が取り組むべきハラスメント防止措置
- 5 ハラスメントに関するQ&A
- 5.1 ハラスメントが多い傾向にある業種を教えて下さい。
- 5.2 ハラスメントの実態を調査するために、従業員にアンケートを実施することは問題ないですか?
- 5.3 ハラスメントを目撃したと相談がありました。当事者ではない従業員からヒアリングする際の注意点を教えて下さい。
- 5.4 部下を叱る際、他の従業員の前で叱るのはパワハラにあたりますか?
- 5.5 ハラスメント行為を見た従業員から、精神的損害による慰謝料を請求されることはありますか?
- 5.6 ハラスメントにより、周囲の従業員がうつ病を発症した場合、会社はどのような対応を取るべきですか?
- 5.7 同僚がハラスメントを受けており、不快に感じると苦情がありました。会社が対応すべきかどうかの判断基準を教えて下さい。
- 5.8 ハラスメントの実態を把握するために、ストレスチェックを実施することは有効ですか?
- 5.9 ハラスメントを見たり聞いたりした従業員には、どのようなケアが必要ですか?
- 6 ハラスメントは周囲の従業員にも大きな影響を与えます。ハラスメント問題でお悩みなら弁護士にご相談ください。
ハラスメントが周囲の従業員に与える悪影響
では、ハラスメントが周囲の従業員に与える影響の具体例には、どのようなものがあるのでしょうか。
以下、順にご紹介いたします。
自分が被害者になるかもしれない不安、勤労意欲やモラルの低下及び生産性の低下
ハラスメントが生じる職場の従業員は、自分が被害者になってしまうかもしれないという不安から、上司からの理不尽な取り扱いを避けるために積極的な言動を控えることを余儀なくされ、これが習慣化することで、勤労意欲の低下を招くことになります。
また、人の言動は環境から大きく影響を受けるところ、ハラスメントが発生する職場では、職場全体のモラルが低下し、連鎖的にハラスメント加害者・被害者が生み出される環境が生じてしまいます。
そして、上記のような勤労意欲の低下やモラルの低下により、職場の生産性は低下していきます。
メンタルヘルス不調を引き起こす可能性
ハラスメントは見聞きするだけでも快くないものであり、直接の被害者でなくともそのメンタルヘルスに不調を引き起こす可能性があります。
また、かかるメンタルヘルスの不調は、業務効率の低下や当該従業員の休職・退職に繋がります。
会社や上司に対して不信感を抱く
ハラスメントが生じる職場では、ハラスメントの防止措置等が十分に定められていない、若しくは実効的に機能していない場合は多く、直接の被害者ではない周囲の従業員は、自らが被害者になったときにも会社や上司が自分を守ってくれないのではないかと不信感を抱きやすいという特徴があります。
退職者の増加により人材不足に陥るリスク
そして、上記のようなハラスメントによる悪影響を受けた従業員らが連鎖的に退職することで、退職者が増加し、人材不足に陥るリスクが生じます。
また、そのような人材不足のフォローに回った管理職さえも、対応に疲弊してしまい、退職・休職に至ってしまうことも少なくありません。
ハラスメント被害に関する裁判例
職場でハラスメント被害が発生した場合、企業自身も、被害者から使用者責任や、職場環境配慮義務違反による債務不履行責任・不法行為責任等の法的責任を追及される場合があります。
以下では、職場でハラスメント被害が生じたケースで、企業の法的責任が肯定された裁判例をご紹介いたします。
事件の概要
本事案は、被告会社Y1の従業員である原告が、長時間労働、原告の上司であり、被告会社の代表取締役社長である被告Y2による暴言、過度の叱責、業務上のミスについての過度な責任追及等のパワーハラスメント、懲罰的な配置転換及びその後の業務上の過重な負荷等によって、うつ病の発症と悪化により、休職を余儀なくされた等と主張し、被告Y1、Y2に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、治療費、休業損害等の損害金の一部支払を求めた事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
大阪地判令和4年4月26日では、被告会Y1社の法的責任について、以下のように判断されました。
被告会社Y1は、うつ病の継続治療が必要な状態で復職した原告に対し、就労について残業等の過重な労働をさせないなどの注意義務に違反したことにより、うつ病を悪化させ、再び休職に至らせたといえるため、被告Y2と連帯して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う
ポイントと解説
裁判所は、ハラスメント発生後の企業の事後対応が不十分であったこと(復職後の従業員の労働負荷に対する配慮義務違反)を根拠として、企業に法的責任を肯定しているところ、企業に求められる、ハラスメント発生後の「適切な対応」に関して判断を示している点で、重要な意味を有しています。
企業が取り組むべきハラスメント防止措置
令和2年6月の法改正(企業にパワーハラスメントの防止措置が義務付けられました。)にみられるように、近年、“企業によるハラスメント防止“に対する社会的要請が高まっています。
企業としては、厚生労働省が示す「パワーハラスメント防止のための指針」を参照しながら以下の措置を実施し、ハラスメントの撲滅を目指していかなければなりません。
- ①ハラスメントに関する企業の方針の明確化及びその周知・啓発
- ②ハラスメント規程の整備
- ③相談窓口、内部通報窓口の設置、従業員らへの周知
- ④ハラスメント発生後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントに関するQ&A
以下では、ハラスメントに関してよくあるご質問とそれらに対する回答について、ご紹介いたします。
ハラスメントが多い傾向にある業種を教えて下さい。
「令和5年度厚生労働省委託事業-職場のハラスメントに関する実態調査報告書-」によると、パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、介護休業等ハラスメントに関しては、以下の業種から、ハラスメントの相談が多い傾向にあるようです。
金融業、保険業/教育、学習支援業/宿泊業、飲食 サービス業/医療、福祉/生活関連サービス業/娯楽業
ハラスメントの実態を調査するために、従業員にアンケートを実施することは問題ないですか?
ハラスメントの実態を調査するためにアンケートを実施すること自体には、問題はありません。
ただし、実態調査に際しては、回答者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を従業員に周知する必要があります。
ハラスメントを目撃したと相談がありました。当事者ではない従業員からヒアリングする際の注意点を教えて下さい。
調査結果が職場内での人間関係による影響を受けないよう、ハラスメントが問題となった部署以外の従業員に対してもヒアリングを実施し、調査結果の公正を確保することが必要です。
部下を叱る際、他の従業員の前で叱るのはパワハラにあたりますか?
他の従業員の前で部下を叱る行為は、他の従業員の前で叱る合理的理由がない限り、パワーハラスメントに該当する可能性が高まります。
パワーハラスメント該当性とは別の問題として、𠮟る対象の従業員の信頼性を失わしめる可能性や、他の従業員の萎縮に繋がる可能性があることからも、他の従業員の前で部下を叱ることは避けるべきです。
ハラスメント行為を見た従業員から、精神的損害による慰謝料を請求されることはありますか?
ハラスメントの直接の被害者でなくとも、ハラスメントを見聞きすることでPTSDを発症するなど、精神的な損害を被ることは十分にあり得ます。
そして企業には、そのような被害を被った従業員から、精神的損害による慰謝料を請求される可能性があります。
ハラスメントにより、周囲の従業員がうつ病を発症した場合、会社はどのような対応を取るべきですか?
企業としては、ハラスメントの直接の被害者と同様の方法で対応すべきです。
具体的には、①事実関係を迅速かつ正確に確認する、②ハラスメントの事実が確認できた場合においては、行為者及び被害者に対する措置を適切に実施したうえで、③再発防止策を適切に実施する必要があります。
なお、うつ病を原因として、当該従業員が自ら労災保険給付の請求手続を行うことができない場合、企業には、同請求手続をサポートする義務が生じます(労災保険法施行規則23条1項)。
同僚がハラスメントを受けており、不快に感じると苦情がありました。会社が対応すべきかどうかの判断基準を教えて下さい。
周囲の従業員からのハラスメントに関する苦情も、企業がハラスメントを探知する契機の1つです。
そして、ハラスメントを探知した企業が適切な防止措置を講じることを怠った場合には、労働契約上の付随義務としての安全配慮義務違反や職場環境配慮義務違反として、不法行為責任又は債務不履行責任を負う可能性があります。
そのため、ハラスメントを内容とする苦情があった場合には、企業として、速やかに正確な事実確認を行う必要があります。
ハラスメントの実態を把握するために、ストレスチェックを実施することは有効ですか?
ストレスチェックの実施は、従業員の検査結果を集団的に分析することで、ハラスメント探知の契機として機能する意味で、実態の把握に有効と考えられます。
ハラスメントを見たり聞いたりした従業員には、どのようなケアが必要ですか?
ハラスメントを見聞きした従業員は、精神的な被害を被っています。
このような従業員に対して企業が取るべきケアとしては、以下のようなものが考えられます。
- 継続的な声掛けによる心身の状態確認
- 企業と契約している医師、カウンセラー等の専門家がいる場合には、専門家に繋げる
- ハラスメントの防止措置を実施し、ハラスメントがない職場づくりに取り組む
ハラスメントは周囲の従業員にも大きな影響を与えます。ハラスメント問題でお悩みなら弁護士にご相談ください。
これまでご紹介させていただいた通り、職場でのハラスメントは、周囲の従業員の心身に対しても、大きな悪影響を与える重大問題です。
そのため企業としては、ハラスメント防止措置を徹底し、従業員が働きやすい環境を整えることが肝要です。
ハラスメントの事前予防、事後対応についてお悩みの場合は、ぜひ、弊所までご相談ください。
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