労務

働き方改革関連法案:(ウ) 第3の柱:雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

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働き方改革第3の柱「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」

「同一労働同一賃金」

「同一労働同一賃金」改革は、正規労働者と非正規労働者との間のさまざまな待遇格差の解消を目指すことによって、雇用形態にかかわらず能力に応じた公正な処遇を受けることができる社会を実現し労働者のモチベーション、生産性を向上させ、さらには、生産性向上を労働者の賃金全体の引き上げにつなげることによって、日本経済の潜在的成長力の底上げを図ることを目的としています。
同一労働同一賃金の実現に向けて、働き方改革では、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法が改正されました。
本記事では、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保についてみていきましょう。

「公正な待遇の確保」の考え方

パートタイム・有期雇用労働法8条、労働者派遣法30条の3に定める不合理な待遇の禁止は、均等待遇及び均衡待遇を目指しています。

均等待遇

まず、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者と通常の労働者の職務内容など前提となる事情が同じ場合には、 同一の待遇が求められます(均等待遇)。

均衡待遇

また、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者と通常の労働者の職務内容など前提となる事情が異なる場合にも、職務内容などの違いに応じた均衡のとれた待遇が求められています(均衡待遇)。

「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の内容

不合理な待遇差を解消するための規定の整備

比較対象となる「通常の労働者」とは?

では、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者と比較される「通常の労働者」とは誰を指すのでしょうか。
まず、比較対象となる「通常の労働者」は「同一の事業主に雇用される」者ですので(パートタイム・有期雇用労働法2条1項)、同一の事業所内だけではなく、同一の使用者内の他の事業所に所属する労働者も比較の対象となりえます。派遣労働者の場合も同様に、派遣先企業の全事業所の労働者が比較対象となりえます。
そして、パートタイム・有期雇用労働法8条では、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、」不合理性の判定を行うとされていますので、ある特定の通常の労働者を決定してその者の待遇全般と比較するわけではなく、問題となる待遇ごとにパートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者側で比較対象となる通常の労働者が選択され、不合理性が判断されることになります。
ですので、使用者としては、例えば一部の正社員に賞与を支給しない体系を採り入れたとしても、それによって直ちにパートタイム労働者の賞与の支給を免れられるわけではありません。

パートタイム労働者・有期雇用労働者

パートタイム労働者、有期雇用労働者について、相違の不合理性は、待遇のそれぞれについて個別に、当該待遇の性質、目的に照らして、適切と認められる事情を考慮して判断されます。
例えば、基本給のうち労働者の能力・経験に応じて支給する職能給の場合、能力・経験を考慮要素として、通常の労働者と同一の能力・経験を有するパートタイム労働者、有期雇用労働者には通常の労働者と同一の職能給を支給しなければならず、能力・経験に一定の相違がある場合、その相違に応じた職能給を支給しなければなりません。

派遣労働者

派遣労働者についても、基本的には、パートタイム労働者、有期雇用労働者同様、派遣先の通常の労働者との間に不合理な待遇の相違がないか、待遇のそれぞれについて個別に、当該待遇の性質、目的に照らして、適切と認められる事情を考慮して判断されることになります。
もっとも、派遣労働者がキャリアを蓄積し派遣先を移動したところ、 派遣先労働者の賃金が移動前の派遣先労働者の賃金よりも低い場合、派遣労働者の賃金も下がるという事態が生じかねません。
そこで、派遣労働者の場合、上記の派遣先労働者との均等・均衡を図る形での公正な待遇の確保のほか、労使協定で一定水準を満たす待遇を決定しそれを遵守する形で公正な待遇を確保することも可能となっています。

労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

事業主には、パートタイム労働者、有期雇用労働者を雇い入れるときに、不合理な待遇の禁止、差別的取扱いの禁止、賃金、教育訓練、福利厚生施設、通常の労働者への転換に関して、事業主が講ずることとしている措置の内容について説明する義務を負っています。
さらに、パートタイム労働者、有期雇用労働者から求めがあったときには、パートタイム労働者、有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容・理由、労働条件に関する文書交付、就業規則作成手続、不合理な待遇の禁止、差別的取扱いの禁止、賃金、教育訓練、福利厚生施設、通常の労働者への転換に関する決定に際して考慮した事項についても説明する義務を負っています。
下線部分が働き方改革によって付加された説明義務です。

職務内容が異なることによる待遇差でも説明責任はあるか?

事業主はパートタイム労働者、有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について、求めがあれば説明する義務を負いますので、職務内容が異なることによる待遇差についても説明義務を負います。
具体的には、 説明を求めたパートタイム労働者、有期雇用労働者と職務内容等が最も近いと事業主が判断する通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由に説明する必要があります。
パートタイム・有期雇用労働法8条が定める不合理な待遇の禁止の比較対象となる「通常の労働者」とは異なることに注意が必要です。

行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

行政による履行確保措置として、パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善等の必要があれば、厚生労働大臣は、事業主に対して、報告を求め、助言、指導、勧告を行うことができます。
紛争当事者は、援助を求めることにより、都道府県労働局長の助言、指導、勧告を受けることができ、また、紛争調整委員会による調停を利用して紛争の解決を図ることもできます。

どのような待遇差が不合理と判断されるのか?

住宅・家族手当の不支給は不合理な待遇差にあたるのか?

当該住宅手当の目的が住宅にかかる費用を補助することにあるのであれば、扶養家族の有無、賃貸住宅か否か等の一定の要件を満たす場合には、通常の労働者であるかパートタイム労働者、有期雇用労働者であるかを問わず、同一の支給をしなければ、不合理な待遇差にあたります。
同様に、当該家族手当の目的が扶養家族の生活を援助することにあるのであれば、扶養家族の年齢、人数、収入等の一定の要件を満たす場合には、通常の労働者であるかパートタイム労働者、有期雇用労働者であるかを問わず、同一の支給をしなければ、不合理な待遇差にあたります。

福利厚生施設の利用を正社員にしか認めていない場合は?

福利厚生施設は当該職場で働く労働者に快適な労働環境を提供することを目的とするものであろうから、同一の事業所で働く労働者であれば、通常の労働者であるかパートタイム労働者、有期雇用労働者であるかを問わず、同一の利用を認めなければ、不合理な待遇差にあたります。

不合理な待遇差を解消するための企業の取り組み

処遇改善に取り組まない会社への罰則規定はあるのか?

上記のとおり、パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善等の必要があれば、厚生労働大臣による報告徴収、助言、指導、勧告が行われる可能性があります。仮に不合理な待遇の相違に対する勧告に従わなかったとしても、その旨を公表されることはなく、また、罰則規定があるわけでもありません。
もっとも、不合理な待遇差を解消せず放置していたら、労働者から損害賠償請求をされる等民事上の責任を追及されるリスクは高まります。

改正法の施行期日

パートタイム・有期雇用労働法、改正労働者派遣法の施行は令和2年4月からで、パートタイム・有期雇用労働法の中小事業主への適用は令和3年4月からです。ここでいう中小事業主とは、資本金・出資総額3億円以下(小売業・サービス業では5000万円以下、卸売業では1億円以下)の事業主及び常時使用労働者数が300人以下(小売業では50人以下、卸売業・サービス業では100人以下)の事業主を指します。

待遇差の合理性が問われた判例

事件の概要

最高裁判所平成30年6月1日判決(民集72巻2号88頁)は、契約社員が、正社員との間の住宅手当、皆勤手当、無事故手当等の賃金についての相違が労働契約法20条(本記事内のパートタイム・有期雇用労働法8条の前身) 違反であると争った事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨であるところ、契約社員は就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員は転居を伴う配点が予定され、契約社員よりも住宅に要する費用が多額になりうるとして、正社員には住宅手当を支給する一方、契約社員には支給しないという相違は、不合理とはいえないと判断されています。
また、皆勤手当、無事故手当については、その目的がそれぞれ、出勤する者を確保することの必要性及び優良ドライバーの育成や安全輸送による顧客の信頼獲得であり、これらは契約社員と正社員の職務内容によって異なるものではないから、正社員には支給する一方、契約社員には支給しないという相違は、不合理であると判断されています。

ポイント・解説

この判例では、待遇差の不合理性について、労働者側が不合理性を基礎づける具体的事実に主張・立証すべきで、使用者側がそれを否定する具体的事実を主張・立証すべきとされています。本改正前の判断ですが、パートタイム・有期雇用労働法8条、労働者派遣法30条の3の待遇佐野不合理性が争点になっている場合も同様に主張立証責任を負います。
パートタイム・有期雇用労働法8条が禁止する不合理な待遇差の判断について、各事案に応じて個別具体的に待遇差を検討することになりますが、各待遇の趣旨・目的の捉え方等については他の事案においても参考にできるのではないかと思います。

正規雇用と非正規雇用の待遇差の解消を目指すなら、企業労務の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

不合理な待遇差の解消を目指すにあたって、企業には負担が大きくなるようにも思えますが、うまく制度を運用することにより、労働者の待遇が改善することで、良い人材が集まり、また育ち、ひいては企業の発展に繋がっていきます。
まずは企業労務を専門とする弁護士にご相談されることをおすすめします。

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大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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