働き方改革関連法案:(イ) 第2の柱:長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等(労働基準法等改正)

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ここでは、働き方改革によって実現されたもののうち、労働時間(その中でも特に長時間労働に関する規制)について述べさせていただきます。

目次

働き方改革の基盤となる3本柱について

働き方改革という言葉は皆さんも聞かれたことがあるかと思います。
この「働き方改革」は大まかに3つの要素に分けることができます。
このページではその中でも長時間労働の是正について、お話しさせていただきます。

「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」について

労働時間に関する制度の見直し(労働基準法・労働安全衛生法)

この度の働き方改革において労働時間の規制について見直されることとなりました。
後述しますように,一方で時間外労働に上限が加えられ長時間労働に一定の歯止めがかけられることとなり,他方で高度プロフェッショナル制度のような,労働基準法等の労働時間の規制に服さない働き方も規定されるようになりました。

時間外労働の上限規制の導入

働き方改革による法改正以前は、時間外労働について、36協定の締結など一定の制限は設けられているものの、特別条項を設けることにより上限なく時間外労働をさせることが可能とされていました。 しかし、この度働き方改革に伴い、罰則付きの上限が設けられることになりました。
そのため、長時間の時間外労働を従業員に課した場合、刑事罰(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)を受ける可能性が生じることになりました。
大企業はもちろんのこと中小企業においても2020年4月1日にから適用されているため、事業主の方においては、速やかにご対応いただく必要があります。

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

現在、大企業においては1か月の法定時間外労働が60時間を上回った場合、割増賃金を計算する際の割増率を50%とすることとされています。
これに対し中小企業においては、当分の間、この規定を適用しないものとされてきましたが、2023(令和5)年4月1日からは中小企業においても適用がされることになりました。
これまでは、25%の割増率であったところが50%になるのですから、何の対策も行わなければ人件費の高騰は免れません。
業務の効率化や代替休暇制度を設けることなど、現時点から対策を練ることが重要となってきます。

一定日数の年次有給休暇の確実な取得

今までの有給休暇制度は,権利としては認められていても、その取得が義務とされることはありませんでした。
しかし、皆様もご存じのとおり、有給休暇の取得率の低さが問題とされていました。
そこでこの度の働き方改革で,有給休暇のうち,毎年5日については取得させることが義務とされるようになりました。
これに違反した場合刑事罰(30万円以下の罰金)が科される可能性がありますので、会社としてはしっかり対応しなければなりません。
ご不安な方は一度専門家に相談してみることをお勧めいたします。

労働時間の状況の把握の実効性確保

このような労働時間についての規定の変化に伴い、使用者による、従業員の労働時間の把握についても意識する必要があります。例えば、きちんと労働時間を把握していなかったことにより、従業員から高額な残業代請求が求められることなどは避けなければなりません。
労働時間把握の具体例としては平成29年1月20日に、厚生労働省が策定・公表した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」をご参照ください。

フレックスタイム制の見直し

フレックスタイム制についても変更が加えられることになりました。
具体的に申しますと、フレックスタイム制を採用する場合清算期間を設定する必要があります。
清算期間とは、その期間を平均して1週間当たりの労働時間が週40時間を超えない範囲で労働させる期間を指します。そのため、清算期間を長く設定すればするほど,繁閑期に応じて柔軟な労働時間を設定することが可能となります。
もともとこの清算期間は1か月を上限としていましたが、働き方改革によって上限が3か月に変更されることになりました。この制度変更により、より柔軟な労働時間の設計が変更になったといえ、使用者及び従業員のいずれにとっても使い勝手が向上したといえるかと思います。

高度プロフェッショナル制度の創設

働き方改革によって「高度プロフェッショナル制度」なる制度が新設されました。
この制度は、高度の専門的知識等を有して、職務の範囲が明確で、一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労働基準法の規定のうち、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度になります。 ざっくり申しますと、この制度の対象となる従業員に対しては、1日8時間の労働時間上限の規制や残業代などの問題が生じないこととなります。
これだけを見れば使用者にとって非常に魅力的な制度ととらえることができますが、対象業務が限られている、年収要件がある(現在は1075万円)、労働委員会の決議や従業員本人の同意、そして健康確保措置が求められるなど導入にあたってのハードルも低いものではありません。
新設されたばかりの制度ということもありますので、当該制度の導入を考えておられる方は一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。

勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)

働き方改革に伴う労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正により、勤務勘インターバルの導入について事業主に努力義務が課されることとなりました。
勤務間インターバル制度とは、前の日の勤務終了時間から、翌日の勤務開始時間まで一定以上の間隔(インターバル)を設ける制度で、これによって長時間労働を防止することを目的としています。
あくまで努力義務であり、またどのような制度を設けるかについて法律が言及していないため、実際に制度導入にあたっての内容は各企業に委ねられることになります。
また、中小企業においては、勤務間インターバル制度の導入に伴う助成金が受けられる場合がありますので、制度導入を検討されている方は専門家等にご相談してみることをお勧めいたします。

産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)

働き方改革に伴う、産業医・産業保健機能が強化されることになりました。
具体的には、産業医への情報提供義務、医師による面接指導、産業医からの勧告の強化などになります。

労働者の健康情報は産業医に報告すべきか?

事業者は、産業医に対し、例えば1か月あたり80時間以上の残業をした氏名や労働時間の情報等、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供する必要があるとされています。

第二の柱において企業が取り組むべき施策

以上のように、働き方改革の第二の柱として、労働時間に関する規制が大きく変わることとなりました。
特に長時間労働に対する規制が見直されたため、各企業においては、時間外労働の見直しや各従業員の労働時間の把握等に取り組む必要があります。

時間外労働の上限を超えて働かせることは違法

上述のように、時間外労働については働き方改革によって刑事罰を伴う上限が設定されることとなりました。
そのため、今後時間外労働の上限を超えて従業員に働かせた場合、それに対する割増賃金(残業代)を支払わなければならないことはもちろんのこと、刑事罰が科せられる可能性があります。
このような事態を避けるためにも事業主としては、各従業員の労働時間を適切に管理した上で、時間外労働が長時間にわたっている場合には何らかの施策を講じなければなりません。

労働時間を適正に管理する方法とは?

大原則として、きちんとした勤怠管理システムが整っていることを確認する必要があります。
例えば、従業員による自己申告で労働時間を管理している場合、後になって多額の割増賃金の請求を受ける可能性もあります。
また、各業務の効率化を図ることでそもそも時間外労働を減らすことを目指しましょう。これによって、人件費の削減にもつながります。

労働時間に関する裁判例

事件の概要

貨物運送等を業とする株式会社に対し、その会社に勤める従業員が、未払いの残業代を請求した事案を紹介します。
当該従業員はトラックの運転手として勤めていたところ、荷物を積む間の待機時間などトラックを運転していない時間も労働時間に含めるべきかどうかという点が主な争点となりました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

このような事案に対し横浜地方裁判所相模原支部は平成26年4月24日、以下のような判決を下しました(平成22年(ワ)第682号)。 すなわち、従業員がトラックを走行させていない待機時間についても労働時間該当すると判断しました。
裁判所は、当該会社に勤めるトラック運転手の日々の業務を細かく認定し(例えば、1回目の配送を終えた後、2回目の配送の伝票発行までの間、工場で待機することとなること、②出荷場においては運転手は、担当する荷物を受け取り、伝票と照合して点検した上で、フォークリフトの作業員に荷物をトラックに積んでもらうこと、③運転手は、トラックの管理のほかに、トラック内の温度管理も厳格に行うことも求められていたことなど)、仮に待機時間中にトイレに行ったり、コンビニに買い物に行くなどしてトラックから離れる時間があったとしても、これは休憩時間にはあたらず労働時間となると認定しました。

ポイント・解説

労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって判断されることとされています。
本件では、トイレやコンビニに行っている事情があるため、使用者の指揮命令下に置かれていない=労働時間ではないとの判断も考えられるところでした。
しかし、裁判所は、運転手がトラックの温度管理なども求められていたことなどを理由に使用者の指揮命令下に置かれていたものと判断しています。
このように、使用者側の認識と裁判所の判断にずれが生じることは裁判例上もままみられるところです。
今後は、時間外労働に刑事罰の伴う上限が設定され、中小企業においても月60時間以上の法定時間外労働の割増率が上昇するなど、労働時間の管理・把握は企業にとってこれまで以上に重要となります。
そこで、労働時間の管理状況についてご不安な経営者におかれては、一度専門家に相談してみることをお勧めいたします。

2023年の割増賃金引き上げに向けて中小企業がすべきこと

上述しましたように、2023年には、中小企業においても月60時間以上の法定時間外労働の割増率が50%になります。これをみすみす放置することは人件費の高騰を生じさせることになります。
そこで、各中小企業においては、生産性を向上させあるいは代替休暇を与えること等により時間外労働を減少させる対策が必須となります。また、時間外労働を把握するために、各従業員の労働時間を把握する体制も整えなければなりません。

働き方改革における「中小企業」の定義

働き方改革における大企業と中小企業の区別は、①資本金あるいは出資の額、②常時使用する労働者の数という2つの視点から判断されます。 具体的には、以下の①②に関する表のいずれかに該当する場合、当該企業は中小企業に該当するものとされています。

①資本金あるいは出資の額
小売業 5000万円以下
サービス業
卸売業 1億円以下
それ以外 3億円以下
②常時使用する労働者の数
小売業 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業
それ以外 300人以下

各改正法の施行期日について

以上のような働き方改革による法規制の変更につきまして,その施行日については以下の通りになります。
時間外労働の罰則付きの上限規制について、大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日からになります(なお、医師などの一部の業種については2024年4月1日からとされています。)。
月60時間を超える残業に対する割増賃金率の引き上げについて中小企業は2023年4月1日から適用とされています。
また、勤務間インターバル制度の導入促進、有給休暇取得の義務化、フレックスタイム制の変更、高度プロフェッショナル制度の導入といった事項については企業の規模にかかわらず2019年4月1日から施行されています。
このように、働き方改革に伴う法改正のほとんどは既に施行されており,各企業におきましては速やかに対応しなければなりません。

働き方改革の実現に向けて、何から取り組んでいいのか分からないとお悩みなら、労務分野に精通した弁護士にご相談下さい。

このように、働き方改革はほとんどの企業の運営に影響を及ぼすものであり、これに違反した場合、場合によっては刑事罰が課されるなど、決して軽視のできないものです。
そこで、どのように取り組めばいいかわからないとお悩みの方におかれましたは、労務分野に精通し、経験豊富な弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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この記事の監修

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長弁護士 長田 弘樹
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

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