労務

【消滅時効の改正】民法改正による人事労務分野への影響と実務対応のポイント

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 法改正

近年の民法改正による影響は、個人間の取引のみならず企業活動にも及ぶところであり、もちろん労働分野においても取扱いが大きく変わることとなりました。

本稿では、民法改正のうち『消滅時効』を中心に、人事労務分野の実務対応における変更点を解説します。

【2020年4月施行】民法改正の概要

消滅時効に関する改正内容

消滅時効とは、権利の不行使が一定期間継続した場合に、権利の消滅を認める制度です。

改正前民法では、一般の債権について時効期間を10年と定め(改正前民法167条1項)、医師や弁護士の報酬債権や建築請負報酬債権等の特定の債権について時効期間を1~3年とする特則を定めていました(改正前民法170~174条)。

改正民法では、短期消滅時効の特則が削除され、時効期間が「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」と「権利を行使することができる時から10年間」に統一されました。

民法改正を受けて労働基準法の消滅時効も改正された

①賃金請求権の消滅時効期間の延長

賃金請求権の消滅時効は、従前、2年間であったところ、労基法の改正により、消滅時効期間が延長されました。

消滅時効期間が延長される対象は、施行日令和2年4月1日以後に支払期日が到来する賃金です(労基法附則2条2項)。消滅時効期間は、賃金請求権の行使することができる時から5年間とされ、当分の間は3年間とする経過措置がとられています(労基法115条、143条3項)。

②賃金台帳等の記録の保存期間の延長

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならないとされ(労基法109条)、保存期間が3年から5年に延長されました。

③付加金の請求期間の延長

また、解雇予告手当や割増賃金等の未払にかかる付加金の請求期間についても、違反のあった時から5年間とされ(労基法114条)、従前の2年から5年に延長されています。

経過措置について

賃金請求権の消滅時効、賃金台帳等の記録の保存期間、割増賃金未払い等にかかる付加金の請求期間は、当分の間3年とする経過措置の定めがおかれています(労基法143条)。

賃金請求権の消滅時効延長による実務への影響

改正労基法の施行日である令和2年4月1日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間が適用されることになります。現在は、経過措置が取られているため、その消滅時効期間は3年です。

残業代請求等がされた場合、3年分の支払が義務付けられることになるため、未払によるリスクが非常に大きくなります。

未払い賃金で企業が受けるペナルティ

未払賃金には遅延損害金が発生します。一般の遅延損害金の利率は3%ですが、退職後の未払期間については利率が年14.6%とされ(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)、未払債務が非常に高額となる可能性があります。

また、使用者は未払賃金のほか、制裁として未払金と同額の付加金の支払が義務付けられることがあります(労基法114条)。

消滅時効の延長で企業に求められる対応

賃金請求権の消滅時効が延長されたことで、労働者から残業代請求された場合のリスクが高くなっています。

使用者としては、労働時間の管理方法を厳格にしたり残業の許可制を導入したりする等、個別の事情に応じた対策をとる必要があります。労務体制を今一度見直してはいかがでしょうか。

人事労務分野へ大きく影響を与えるその他の改正点

雇用契約に関する改正

雇用関係の終了についても、民法改正によって影響があります。
有期雇用については、雇用期間が5年を超えるものについては、使用者が解除しようとするときは3か月前の予告を、労働者が解除しようとするときは2週間前の予告をしなければならないとして、労働者側からの雇用契約解除の予告期間が短縮されました(改正民法626条2項)。

無期雇用については、使用者から解約を申し入れる場合に限り、次期以降につき当期の前半にしなければならないとされ(改正民法627条2項)、労働者側からの解約申入れは2週間前までに行うことで足りるとされました。

身元保証に関する改正

民法の保証契約にかかる改正の効力は、身元保証にも及びます。
具体的には、身元保証をする場合、極度額を定めなければ無効とされることとなりました(改正民法465条の2第2項)。

法定利率に関する改正

改正前民法では、法定利率が年5分とされていましたが、改正後は年3分に金利を引き下げるとともに、3年ごとに金利を見直す変動制が採用されました(改正民法404条)。

法改正への対応でお困りの際は、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい。

労働分野は社会情勢の変化に伴い、次々に法改正や新たな判例が出現する一方で、紛争によって企業に生じる損害が非常に大きい傾向にあります。
人事労務面での実務上の取扱いには細心の注意が必要です。

法改正等への対応でお困りの際には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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