労務

<近時の法改正制度解説>
障害者雇用促法

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 法改正
  • 障害者雇用促法

令和元年6月7日に障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」といいます。)が改正され、同年6月14日、同年9月6日、令和2年4月1日で段階的に施行されることになりました。

以下、改正の概要について解説していきたいと思います。

近時の障害者雇用促進法の改正について

令和元年改正の趣旨は、障害者の雇用を促進するため、事業主に対する短時間労働以外の労働が困難な状況にある障害者の雇入れ及び継続雇用の支援、国及び地方公共団体における障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置を講ずる点にあります。

民間の事業主に対する措置も今回の改正内容に含まれておりますので、改正内容を正確に把握しておくことが重要です。

障害者雇用促進法改正の歴史

平成20年の改正内容とポイント

障害者雇用促進法の平成20年改正のポイントとしては、①障害者雇用給付金制度の適用対象の範囲拡大(適用対象範囲を常用雇用労働者301人から常用雇用労働者101人以上の中小企業に拡大)、②雇用率の算定の特例、③短時間労働に対応した雇用率制度の見直し(障害者の雇用義務の基礎となる労働者及び雇用障害者に短時間労働者を追加)、④企業グループ全体で雇用率を算定するグループ適用制度の創設などがあげられます。

平成25年の改正内容とポイント

障害者雇用促進法の平成25年改正のポイントとしては、①障害者に対する差別的取扱いの禁止、②障害者に対する合理的配慮の提供義務の創設、③障害者からの苦情を事業主が自主的に解決することの努力義務化、④法定雇用率の算定基礎の見直し(法定雇用率の算定基礎に精神障害者を加える)などがあげられます。

2020年4月1日施行「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」

一部令和元年より段階的に施行される改正内容

今回の障害者雇用促進法の改正は、①令和元年6月14日、②令和元年9月6日、③令和2年4月1日の3段階に分けて施行されます。このうち、①及び②の改正内容の概要は以下のとおりです。

  • ①令和元年6月14日に施行される改正内容
    ・国及び地方公共団体に「自ら率先して障害者を雇用する」という努力義務を追加
    ・厚生労働大臣または公共職業安定所長による国及び地方公共団体に対する報告徴収の規定を設ける
  • ②令和元年9月6日に施行される改正内容
    ・国及び地方公共団体に、障害者雇用推進者及び障害者職業生活相談員の選任義務を追加
    ・国及び地方公共団体に、厚生労働大臣に通報した障害者の任免状況の公表義務を追加
    ・国及び地方公共団体に、障害者である職員を免職する場合には公共職業安定所長への届出義務を追加
    ・国及び地方公共団体並びに民間事業主に、障害者雇用率の算定対象となる障害者の確認に関する書類の保存義務を追加
    ・障害者雇用率の算定対象障害者であるかどうかの確認方法の明確化及び厚生労働大臣は必要があると認めるときは、国及び地方公共団体に対して、確認の適正な実施に関し、勧告することができる旨の規定の追加

週20時間未満の短時間労働についても特例給付金を支給

短時間労働者のうち、1週の所定労働時間が厚生労働省令で定める範囲内にある者(特定短時間労働者)を雇用する事業主に対し、特例給付金を支給する仕組みが創設されることになりました(障害者雇用促進法49条1項1号の2)。

上記の特例給付金の対象障害者である特定短時間労働者は、厚生労働省令により1週の所定労働時間が10時間以上20時間未満であることが規定されました。

事業主に向けた特例給付金とは

これまでの障害者雇用率制度においては、週の所定労働時間20時間未満の短時間労働者は対象外とされていました。もっとも、週の所定労働時間が20時間未満であれば就労可能な障害者の方も一定程度いらっしゃいます。

そのため、短時間であれば就労可能な障害者の雇用機会の確保を支援するため、週所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者を雇用する事業主に対して、障害者雇用納付金を財源とする特例給付金を支給することが決まりました。

中小企業を対象とした優良事業主の認定制度を創設

雇用する労働者の数が常時300人以下の中小企業を対象に、障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況等が優良な企業であることを厚生労働大臣が認定する制度が創設されました(障害者雇用促進法77条1項)。

制度の対象となる中小企業とは?

認定制度の対象となる企業は、常時雇用する労働者の数が300人以下の中小事業主です(障害者雇用促進法77条1項)。

認定されることのメリット

障害者雇用優良中小事業主は、以下の商品等に「障害者雇用優良中小事業主認定マーク」を付することができます(出典:厚生労働省『障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)』https://www.mhlw.go.jp/stf/monisu.html)。
  • ・商品
  • ・役務の提供の用に供する物
  • ・商品、役務又は事業主の広告
  • ・商品又は役務の取引に用いる書類又は電磁的記録
  • ・事業主の営業所、事務所その他の事業場
  • ・インターネットを利用する方法により公衆の閲覧に供する情報
  • ・労働者の募集の用に供する広告又は文書

優良な事業主であると認定されるためには

障害者雇用優良中小事業主であると認定されるための、認定基準は以下のとおりです(出典:厚生労働省『障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)』https://www.mhlw.go.jp/stf/monisu.html)。

※以下に記載している以外の要件も存在します。詳細は厚生労働省作成の「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度申請マニュアル」をご参照ください。

  • ① 障害者雇用への取組(アウトプット)、取組の成果(アウトカム)、それらの情報開示(ディスクロージャー)の3項目について、各項目ごとの合格最低点に達しつつ、合計で50点中20点(特例子会社は35点)以上を獲得すること
  • ② 雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上雇用していること
    (特例子会社制度、関係会社特例制度、関係子会社特例制度又は事業協同組合特例制度を利用している親事業主又は事業協同組合等が申請する場合は、これらの制度を適用せずとも、当該親事業主又は事業協同組合等において雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上に雇用していることが必要です。また、特例子会社が申請する場合は、特例子会社制度又は関係会社特例制度により、親事業主も雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上に雇用していることが必要です。)
  • ③ 指定就労支援A型の利用者を除き、雇用率制度の対象障害者を1名以上雇用していること
  • ④ 過去に認定を取り消された場合、取消しの日から起算して3年以上経過していること
  • ⑤ 暴力団関係事業主でないこと
  • ⑥ 風俗営業等関係事業主でないこと
  • ⑦ 雇用関係助成金の不支給措置を受けていないこと
  • ⑧ 重大な労働関係法令違反を行っていないこと

「障害者雇用水増し問題」と再発防止策の強化

2018年、中央省庁や地方公共団体が、実際の障害者雇用数を大幅に水増しして計上していた問題が大きく報道されました。このことを受けて、今回の障害者雇用促進法改正にも、水増し問題に対する再発防止策が新設されています。

一部令和元年より段階的に施行される改正内容に記載したとおり、国及び地方公共団体に障害者の確認に関する書類の保存義務が課されるとともに、厚生労働大臣が国及び地方公共団体に対して、確認の適正な実施に関し、勧告することができる制度などが新設されました。

障害者雇用促進法違反の罰則

障害者雇用促進法で規定された報告義務に違反し、または虚偽報告を行った事業主は、30万円以下の罰金に処せられます(障害者雇用促進法86条5号)。

また、障害者雇用優良中小事業主でないものが、商品等に「障害者雇用優良中小事業主認定マーク」の表示又はこれと紛らわしい表示付した場合、30万円以下の罰金に処せられます(障害者雇用促進法86条の4)。

障害者雇用を促進するには、改正内容について正確に認識する必要があります。不明点があれば弁護士にご相談下さい。

今回の障害者雇用促進法改正は、多くの企業に影響を与えます。改正内容について正確に認識したうえで、企業の状況に応じて適切な対応を取ることが求められます。ご不明点やご心配ごとがあれば、できる限り早期に弁護士に相談されることをおすすめします。

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大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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