監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
交通事故の被害に遭えば、加害者に損害賠償を請求できます。損害賠償は、いわゆる慰謝料や、それ以外にも治療費・入院費、休業損害、逸失利益等を請求できます。また、慰謝料にも種類があり、更にそれぞれについて様々な基準があります。
これらを正しく理解することで、被害に見合った適切な損害賠償を請求することができます。
目次
交通事故の損害賠償とは
交通事故の損害賠償とは、交通事故によって生じた損害の賠償を指し、財産的損害の賠償と精神的損害の賠償に分けられます。財産的損害には、治療費、入通院費、交通費、付添看護費、将来の看護費、装具・器具購入費、家屋改造費、葬儀関係費、休業損害、後遺障害による逸失利益、死亡による逸失利益等が含まれます。
これに対して、慰謝料は交通事故によって生じた精神的損害のことを指し、死亡慰謝料、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の三つに分けられることが多いです。
慰謝料との違い
損害賠償と慰謝料の違いについてはこちらをご覧ください。
交通事故の慰謝料損害賠償の対象になるもの
損害賠償の対象は、交通事故によって生じた損害です。損害賠償の対象を大きく分類すると、財産的損害と精神的損害の二つに分けることができます。これらの損害について下記で説明します。
精神的損害
交通事故の被害者は、交通事故に遭遇したことが原因で様々な精神的苦痛を受けます。この精神的な苦痛を金銭で補償しようとしたものが慰謝料です。慰謝料は主に、死亡慰謝料、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の三つに分けられます。
死亡慰謝料には、死亡した被害者本人に対する慰謝料と近親者に対する慰謝料があります。入通院慰謝料は、怪我をしたことによる精神的損害であり、傷害による肉体的苦痛はもとより、検査・治療のため入通院により時間がとられ行動の自由が制約される煩わしさ・不利益が含まれます。なお、この精神的損害は人身事故の場合にのみ生じるとされており、怪我が生じていない物損事故の場合には、慰謝料請求はできないとされているので注意が必要です。
財産的損害
交通事故の被害者は、上記の精神的苦痛以外にも様々な損害を受けます。財産的損害には積極損害と消極的損害が含まれます。積極損害とは、交通事故によって被害者が実際に支出しなければならなくなった損害のことをいいます。消極的損害には、仕事を休んだことによる損害である休業損害、本来取得できるはずであった利益を失ったことによる損害である逸失利益が含まれます。
積極損害にあたる費目
積極損害には下記の費目が含まれます。
治療費は、交通事故によって生じた損害で、診断料、検査料、入院料、投薬料、手術料、処置費のほか鍼灸、整骨院での施術費等が含まれます。入院雑費とは、被害者が入院期間中に支出した日用雑貨の購入費用、家族・勤務先との連絡に要した費用等をいいます。
交通費には、入通院のための交通費、付添いのための交通費、見舞いのための交通費が含まれます。
付添看護費とは、入院や通院のために付き添ってもらったことによって発生する費用です。将来の介護費は、症状固定(今後治療を続けても、これ以上は症状がよくならない状態)後の介護費用です。
装具・器具購入費とは、車椅子、義足、電動ベッド等の装具・器具の購入費用をいいます。
家屋改造費とは、重度の後遺障害を負った被害者が事故前に居住していた家では日常生活を円滑に送ることができない場合に、日常生活上の困難を回避するためにトイレや浴槽、階段、出入口部分等、家屋を改造し備品を設置するための費用です。
葬儀関係費は、仏壇仏具購入費用、墓碑建立費、遺体処理費用等の葬儀に関係する費用をいいます。
消極損害にあたる費目
休業損害
休業損害とは、交通事故に遭ったことによる治療期間中、被害者が働けなくなったために症状固定時(今後治療を続けても、これ以上は症状がよくならない状態)までに得られたはずの給料や収入などの利益をいいます。休業損害として認められるためには、現実に休業して収入が減っていることが必要です。収入の減額は、基礎収入に休業期間を乗じて判断されます。被害者が家事従事者の場合であっても、家事自体を労働と評価しうることから、休業損害は認められます。無職者であっても、治療が長期にわたる場合で、治療期間中に就職する蓋然性が認められる場合には、休業損害として認められる可能性があります。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ得られていたはずの利益をいいます。もし交通事故に遭わなければ、被害者は将来に何らかの収入を得ている可能性があります。この将来得られたであろう収入等の利益が逸失利益です。逸失利益は、後遺障害逸失利益と、死亡逸失利益とに分類できます。後遺障害逸失利益は、被害者に後遺障害が残存した場合の逸失利益です。後遺障害があれば、本件の死亡逸失利益とは、被害者が死亡した場合の逸失利益です。被害者は死亡したら一切の利益を受けられなくなるため逸失利益が発生します。
物損事故における損害賠償について
物損事故では慰謝料の請求は認められないのが原則です。人身事故と異なり、物の損傷が生じても、一般的には精神的苦痛が生じるとは考えられていないことがその理由です。
その他に、被害車両の修理費用、修理してもなお商品価値の低下が見込まれる場合のその低下分の評価損、被害車両の代わりに使用する代車使用料、休車損害、被害車両のレッカー代等の雑費等が物損事故の損害として認められます。
損害賠償額に相場はある?
損害賠償額の相場を決めることは難しいといわれています。その理由として、上記のように、交通事故の示談には様々な損害項目が含まれていることや、慰謝料についての基準は各保険会社で異なるためです。もっとも、弁護士基準(裁判基準ともいう)における損害賠償額は、慰謝料、休業損害、逸失利益、その他の損害項目について裁判例が積み重なっており、算定が可能な程度に基準化されているため、費目ごとにある程度の相場を算定することは可能です。
使用する算定基準によっても損害賠償額は大きく変わる
交通事故慰謝料には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの算定基準があります。
自賠責基準とは、自賠責保険から支払われる慰謝料の金額を算定するために法律で定められた算定基準をいいます。自賠責保険の保険金は交通事故の被害者の治療費や慰謝料等を最低限填補するために基準等が定められています。
任意保険基準とは、各保険会社で定めている保険会社内部での基準による算定方法です。任意保険基準は、保険会社が被害者に賠償する際に参考にしているものです。会社の内部基準であるため各保険会社によってその額は異なります。
弁護士基準とは、訴訟になった場合に通常認められる基準による算定基準です。
どの基準を用いるかによって賠償額は異なり、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の順番で高額になっていきます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
損害賠償請求の流れ
交通事故慰謝料は、損害賠償請求訴訟を経て受け取ることもありますが、基本的には示談成立を経て被害者に送金されることがほとんどです。では、示談交渉の時期は、いつになるでしょうか。症状が完治した場合には完治後に示談交渉が始まります。症状固定となった場合には、症状固定となった後に後遺障害等級認定を受けて、
初めて被害者の損害の内容が明らかになるため、症状固定後に後遺障害等級認定を受けて示談交渉が始まります。加害者が任意保険に加入していれば示談交渉の相手方は保険会社になりますが、任意保険の利用がない場合(未加入の場合)には加害者が示談交渉の相手になります。
なお、示談交渉においては、慰謝料のみならず、治療費、休業損害、逸失利益等も含めて交渉がされます。自賠責保険に請求する方法
自賠責保険では、被保険者である加害者が被害者に損害賠償をした後、加害者が自賠責保険に対して自己が被害者に支払った額を請求し、この加害者が自賠責保険に請求する方法のことを加害者請求といいます。
しかし、加害者請求では、加害者に賠償の資力がない場合、被害者は加害者から賠償を受けることができません。そこで、被害者が、自賠責保険に対し、賠償金を自己に直接支払うよう請求できる被害者請求という方法が認められています。
損害賠償請求に時効はある?
交通事故の損害賠償請求権は、物損事故で3年、人身事故で5年の消滅時効が規定されています。そのため、事故発生日、症状固定日、の翌日からこの期間の間に示談交渉を行わなければ、損害賠償請求権が時効により消滅してしまう可能性があります。そこで、消滅時効への対策として、損害賠償を請求することによって時効を中断することが考えられます。消滅時効の期間が迫ってきたら、とりあえず賠償金の請求手続をして時効を中断させておきましょう。
損害賠償額の減額要素
過失相殺
過失相殺とは、当事者間の公平を図るために、被害者の過失割合に応じて損害賠償金を減額することです。 交通事故では、被害者にも何らかの過失が認められる場合があります。この両当事者の過失の割合を過失割合といいます。交通事故の過失割合は、多数の裁判例が存在するため、ある程度類型化されています。その事故類型に応じて過失割合というものが定められており、個別の事情によって修正が加えられます。
素因減額
被害者の素因によって慰謝料が減額されることがあります。被害者の素因とは被害者が事故前から有していた心身の状態をいいます。被害者の素因には、既往症等の身体的素因と、うつ病の等の心因的素因があります。これらの素因が事故による損害発生・拡大の原因となっている場合には、慰謝料が減額されることがあります。
加害者が損害賠償を払えない場合
相手が任意保険や自賠責保険に加入していない場合、加害者に直接請求せざるをえません。加害者に資力を確認し、資力がないことが判明したら、自己の負担を軽減するために、健康保険を使用することが多いです。交通事故の治療での保険診療を病院が拒否すれば、第三者行為の傷病届を病院に提出して下さい。これによって健康保険を使用することができます。
弁護士に依頼することによって適正な損害賠償を受け取れる可能性が高まります
当然ながら保険会社は、なるべく保険金を払いたくないと考えています。そのため、弁護士基準ではなく任意保険基準での賠償額をもって示談しようと被害者に持ち掛けてきます。また、保険会社の担当者は、多くの被害に遭われた方と毎日交渉を繰り返しているため、交渉のプロといえます。もし弁護士に依頼しなければ任意保険基準が適正な慰謝料額であると信じてしまい弁護士基準での賠償額よりも少ない額で合意してしまう危険があります。一度示談してしまうと後からこの示談を取り消すことはできません。
このような事態を回避して適切な損害賠償を受けるためには、早期に弁護士をつけておくことが重要です。証拠収集方法や保険会社の交渉に不安がある方や、そもそも手続の流れや慰謝料の基準について知識がない方は、ぜひ弊所にご相談下さい。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)