交通事故の損益相殺について

交通事故

交通事故の損益相殺について

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

損益相殺とは

損益相殺とは、被害者が交通事故に起因して利益を得た場合に損害と同質の利益を二重取りすることになることから損害賠償額から利益相当額を控除する考え方や取扱いをいいます。

損益相殺の対象となるかどうかは、給付の趣旨、給付と損害との同質性の有無、代位や免責の予定など損害賠償との調整規定の有無を総合的に考慮して判断されます。

裁判上控除された給付として遺族厚生年金、障害厚生年金、労災保険上の休業補償給付金・療養補償給付金・障害一時金、遺族補償年金等があり、控除されなかった給付として生活保護の扶助費、労災保険上の特別支給金等、生命保険、搭乗者傷害保険金等があります。

労災保険

通勤途中などで交通事故に遭い怪我をし、労災保険から治療費等が支払われたような場合、保険給付の種類によって異なります。

大きく分けると、特別給付金とそれ以外に分けられ、特別給付金は控除されませんが、それ以外は控除されます。ただし、労災給付金を全て合算して全損害額から引くという大雑把な控除の仕方ではなく、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、傷病補償年金等の費目に分け、原則としては損害費目の治療費、休業損害、後遺障害逸失利益、慰謝料等と対応する費目からのみ控除されると考えられます。参考となる判例として、最判昭和62年7月10日(民集41巻5号1202頁)があります。

健康保険・国民保険等

健康保険法、国民健康保険法等には、いずれも被害者に代位して加害者に求償するという代位規定がありますから(健保法57、国保法64)、損害額から控除されます。また、健康保険から給付があったものについては、控除されると考える下級審の裁判例が多くあります。

ただし、控除されるのは、労災保険給付と同様、損害費目と対応がある範囲で控除されることになります。

公的年金

国民年金、厚生年金等の公的年金制度による将来給付される年金給付については、実際に給付を受けた額及び給付を受けることが確定しているものは控除されますが、いまだ給付を受けることが確定していない額については損害額から控除しないとされています(最大判平成5年3月24日(民集47巻4号3039頁))。

介護保険

介護保険法にも、健康保険等と同様、代位規定がありますので(介保法21)、給付を受けた分については損害額から控除されることになります。

ただし、損害額からの控除対象は、労災保険等と同様、原則的には現実に支払われた金額のみとなります(なお、支払を受けることが確定した分は、未給付であっても控除されます)。

また、損害費目との対応関係のあるものが控除されることになりますので、対応関係のないものについては控除されません。

自賠責保険

自賠責保険から給付を受けた金額は、損害額から控除されることになります。というのも、自賠責保険会社の義務は、判例上、損害賠償義務とされていますから、加害者の損害賠償義務と自賠責保険会社等から支払われることは二重取りになると考えられるからです。

政府保障事業による填補金

政府保障事業制度は、自賠責保険が付保されておらず、自賠責保険からの支払いが行われないような場合に、被害者を救済するためのものです。政府保障事業には代位の規定があり(自賠法76Ⅰ)、政府が被害者に代位して加害者に求償することになっていますから、給付額は損害額から控除されることになります。

独立行政法人自動車事故対策機構法による介護料

独立行政法人自動車事故対策機構法による介護料については、損害額からは控除されません。独立行政法人自動車事故対策機構法による介護料は、自賠責保険制度の運用益をもとにした事業であり、労災保険の特別支給金と性格が似ています。すなわち、自賠責保険契約そのものからの給付ではないので、損害が補填されたわけではないからです。

搭乗者責任保険

最判平成7年1月30日(民集49巻1号211頁)は、搭乗者責任保険から支払われたものについては、損害額から控除できないとしています。その理由としては、搭乗者責任保険というのは、保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗することが多いことから、搭乗者らに定額の保険金を給付することでこれらの者を保護しようとする内容と考えるべきであるからとしています。

自損事故保険

自損事故保険とは、通常加害者がいない事故において任意保険会社から支払われるものですから、そもそも損害賠償請求ということになりません。したがって、一般的には損益相殺の問題になりません。

ただし、自賠法3条以外の賠償義務者がいる場合、例えば道路の設置管理の瑕疵を理由として、国賠法2条に基づき国や地方公共団体に対して損害賠償請求ができる場合にどうなるかですが、やはりその場合でも、損害額からの控除が否定されています(東京高判昭和59年5月31日)。

人身傷害補償保険

人身傷害補償保険は、被害者が付保する任意保険から人身傷害につき填補される保険であって、代位規定もありますから、損害額からの控除がされることになります。

控除されることが前提であるとして、問題となるのは、過失割合が双方に認められる場合で、代位する金額(すなわち填補された後に控除される金額)がどの部分になるのか、という点です。この点につき、これまでは諸説あったのですが、最判平成24年2月20日で、最高裁の立場として訴訟基準差額説を採用することになりました。つまり、人身傷害補償保険からの給付額は過失割合される部分(加害者に対する損害賠償請求が認められない部分)にまず充当され、その金額を超えた額について控除され、代位されるということになります。

なお、この最高裁判例は、加害者から損害賠償金が支払われる前に人身傷害補償保険から保険金の支払いがあった場合ですので、これとは逆の順で支払いがあった場合は別の判断になる可能性があります。

生命保険

最高裁は、生命保険から支払われた保険金について、控除の対象とならないと判断しています(最判昭和39年9月25日(民集18巻7号1528頁)、最判昭和55年5月1日等)。

このように考える理由は、生命保険から支払われた保険金は、被害者が負担した保険料の対価であり、交通事故の原因と関係なく支払われるものだから、としています。

所得補償保険

所得補償から支払われたものについては、最高裁平成元年1月19日は、損害額から控除されると判断しています。

その理由は、所得補償保険が、被保険者が交通事故により傷害を負ったことで就業不能となったことにより実際に被った損害を補填することを目的とした損害保険の一種であるから、旧商法662条1項(保険法25条1項)により、支払った保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する休業損害の賠償請求権を取得し、代位することになるためとしています。

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生活保護給付

生活保護給付については、損害額から控除されないとされています(最判昭和46年6月29日(民集25巻4号650頁))。

これは、生活保護給付は、窮状を救うために仮に支給するものであって、被害者が後日賠償金を受領した場合には返還することが予定されているためです(生保法63条)。

雇用保険給付

失業保険等、雇用保険からの給付については、休業による損害を填補するという性質ではなく、損害賠償請求権の代位規定もないため、損害額から控除されないとされています。

障害者福祉制度による給付

障害者福祉制度から支払われた給付は、社会保障の性質を有する給付といえますので、そもそも損害の填補を目的としておらず、また代位規定などもないので、損害額から控除されると考えられます。

死亡した子の養育費等

最判昭和39年6月24日(民集18巻5号874頁)は、亡くなった子どもの養育費は、損害額から控除しないと判断しています。その理由として、養育費等の支出を免れて利益を得るのは被害者本人(死亡した子ども)ではなく扶養義務者(親権者)であるから、損害額から養育費等を控除するいわれがないとしています。

税金

交通事故により得た損害賠償金は非課税になりますので、この税金について控除されるのではないかと争われた事案がありましたが、最高裁は税金について損害額から控除しないと判断しています。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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