
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
交通事故に見舞われた方にとって、仕事を休んだ分の給与はどうなるのかということは大きな心配事ですよね。勤務中又は通勤中の交通事故により仕事を休んだ場合、一定の条件を満たせば休業補償給付を受け取ることができます。この記事では、休業補償給付の内容や具体的な請求方法について弁護士が詳しく説明していきます。
目次
交通事故の休業補償給付とは
休業補償給付とは、労働者が勤務中又は通勤中の交通事故により怪我や病気をした場合に、その療養のために働くことができず、賃金がもらえない場合に、平均賃金の60%について補償を受けることができる制度をいいます(労働災害補償保険法(以下、「労災法」といいます)14条1項)。
休業補償給付はいつもらえる?
休業補償給付は、休業日の4日目から受け取ることができます。
休業補償給付はいつまでもらえる?
休業補償給付は、①業務上の事由又は通勤による負傷や疾病による療養のため、②労働することができないため、③賃金を受けていない、という要件を満たす限り支給されます。なお、療養開始後1年6ヶ月経過後も怪我や疾病が治らず傷病等級表の傷病等級に該当する程度の障害がある場合は、傷病(補償)等年金を受けることができます。
交通事故の休業補償給付と休業損害の違い
休業補償給付は労災保険から補償を受けるものであるのに対し、休業損害は相手方の保険会社から補償を受けるものであり、両者は別の制度に基づくものです。
そのため、対象となる事故や貰える金額、補償を受けることのできる条件は下記のように異なります。
休業補償給付 | 休業損害 | |
---|---|---|
請求先 | 労災保険 | 相手方保険会社 |
対象となる事故 | 勤務中又は通勤中の交通事故 | 人身事故 |
貰える金額 | 平均賃金の60% | 収入の減少分 |
過失割合の影響 | 受けない | 受ける |
有給休暇の取り扱い | 補償を受けられない | 補償を受けられる |
待機期間 | 3日間 | なし |
いつ貰えるか | 請求から一定期間経過後 | 示談交渉後 |
貰える期間 | 治ゆするまでの間 | 症状固定時まで |
休業補償給付と休業損害はどちらを請求する?
休業補償給付と休業損害は、両方請求することが可能ですが、同一の損害について、休業補償給付と休業損害両方を二重に請求することはできません。つまり、休業補償給付で収入の60%が補償された場合には、相手方の保険会社に請求できるのは残りの40%分のみとなります。
交通事故の休業補償給付の特徴
待機期間がある
休業補償給付には3日間の待機期間があり、給付の対象となるのは療養開始後の4日目以降です。
支払いに過失割合の影響・上限はない
休業補償給付は、休業損害と異なり過失割合の影響や、金額に上限がありません。そのため、交通事故に遭った方に過失があっても、平均賃金の60%全額を受け取ることができます。
自営業者や専業主婦(夫)は対象とならない
休業補償給付の対象となるのは、労災法上の「労働者」(同法14条1項)のみです。労災法上の労働者とは、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」(労働基準法9条)と理解されており、自営業者や専業主婦はここに含まれないため、労災法上の「労働者」にあたらず、休業補償給付を受けることができません。
産休・育休は給与が支給されている場合は対象外
休業補償給付は、労働者が療養のために働くことができずに減少した損害について補償を受けることのできる制度です。
産休・育休中で働いていなくても給料が入る場合、給料の減少という損害が認められないため、休業補償給付制度の対象外となります。
有給休暇を取得した日は対象外
産休・育休中に給与が支給されている場合と同様に、有給を取得した場合にも、給料の減少分が認められないため、休業補償制度の対象外となります。
所定休日は要件を満たせば対象となる
会社が休みの日でも、①勤務中・通勤中の怪我や病気による療養のため、②働くことができないため、③給料がもらえないという要件を満たせば、休業補償給付を受け取ることができます。
交通事故における休業補償給付の計算方法
休業補償給付は、休業1日につき給付基礎日額の60%が支給されます。
給付基礎日額とは、事故が発生した日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額をその期間の暦日数で割った一日当たりの賃金額のことをいいます。なお、臨時的に支払われた賃金や賞与等3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(「賞与等」という)は、この計算に含まれません。
つまり、休業補償給付の計算方法は、
【直前3か月分の収入(賞与等を除く)】÷【暦日数】×0.6ということになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
休業補償給付の請求方法
休業補償給付を受けるためには、「休業補償給付支給請求書」を労働基準監督署長に提出する必要があります。この提出は会社が行ってくれることが多いです。
請求の時効に注意
休業補償給付は、療養のため労働することができないため賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。そのため、その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅する点には注意が必要です。
早く受け取りたい場合は受任者払い制度を利用する
休業補償給付は、請求後に労働基準監督署による調査等が行われるため、実際に給付金が支給されるまでには一定の期間を要します。
そのため、少しでも早く休業補償給付を受け取りたい場合には、「受任者払い制度」のご利用をおすすめします。
この制度では、会社が一時的に休業補償給付を立て替えて労働者本人に支払い、その後、会社が監督署から給付金を受け取る仕組みとなっています。
休業補償給付の請求が認められなかった場合の対処法
労働基準監督署長により休業補償給付の請求が認められなかった場合、審査請求という行政不服申立てを行うことができます。ただし、この不服申立ては決定があったことを知った日の翌日から起算して3月を経過するまでの間に行わなければならないことには注意が必要です。
勤務中・通勤中の交通事故の休業補償給付・休業損害請求は弁護士にご相談ください
休業補償給付は、勤務中・通勤中に交通事故に見舞われた方にとって、経済的に手助けとなる制度です。もっとも、交通事故は突然の出来事で、何から手続きを行えばよいか分からない方も多いかと思います。交通事故による休業でお困りの方は、法律のプロである弁護士に一度ご相談することをお勧めします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)