監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
自賠責保険は契約が義務付けられている強制保険ですが、自賠責保険金の請求の方法の一つとして、被害者請求というものがあります。
被害者請求には、加害者との示談を待たずに賠償金が受け取れるというメリットがありますが、注意すべき点もあります。
この記事では、被害者請求のメリット・デメリットや被害者請求の手続、弁護士に依頼するメリットなどについて、詳しく解説していきます。
目次
交通事故の被害者請求とは
被害者請求とは、自動車損害賠償保障法(自賠法)16条に基づく請求で、被害者が直接、加害者側が契約している自賠責保険会社に対して自賠責保険金を請求するものです。
被害者自身で必要書類を集め、自賠責保険会社に提出することによって、保険金を請求します。
後で述べるとおり、請求できる自賠責保険金額には上限があるため、不足する部分は加害者の任意保険会社に対して請求する必要があります。
加害者請求との違い
加害者請求は、自賠法15条に基づく請求で、加害者が被害者に賠償を行った後に保険金を請求するものです。
加害者請求では、加害者主導で手続を行うため被害者の負担は少ないものの、基本的には示談が成立した後でなければ賠償金を受け取ることができません。
他方で、被害者請求の場合、被害者が手続をとらなければならないという負担はありますが、その反面、加害者との間で争いがあっても早期に賠償を受けることができます。
交通事故で被害者請求できるもの
被害者請求によって自賠責保険会社へ請求できる損害項目は、以下のとおりです。
自賠責保険の補償対象は人身損害のみであり、物的損害への補償はありません。
| 損害賠償項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療費関係 | 治療費、付添看護費、交通費など |
| 文書料 | 交通事故証明書、印鑑登録証明書、住民票などの発行手数料 |
| 休業損害 | 事故による傷害のために減少した収入に対する補償 |
| 入通院慰謝料 | 事故による怪我で入院・通院しなければならなくなった精神的・肉体的苦痛に対する補償 |
| 後遺障害慰謝料 | 事故により後遺障害が残ったことによる精神的・肉体的苦痛に対する補償 |
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害の影響により将来的な収入が減ったことに対する補償 |
| 死亡慰謝料 | 事故で死亡したことによる精神的・肉体的苦痛に対する補償 |
| 死亡逸失利益 | 本人が生きていれば得られた収入から本人の生活費を控除したもの |
| 葬儀費 | 通夜、祭壇、火葬、埋葬、墓石に要する費用 |
請求できる保険金の上限額
自賠責保険の保険金額には、以下のとおり上限が定められています。
以下の上限額は、1つの事故について被害者1名に対するものです。
被害者が複数の場合は、被害者それぞれに限度額までが支払われます。
| 傷害部分 (治療費、入通院慰謝料、休業損害など) |
120万円 |
|---|---|
| 後遺障害部分 (後遺障害慰謝料、逸失利益など) |
後遺障害等級に応じて75万~4000万円 |
| 被害者が死亡した場合 (死亡慰謝料・逸失利益など) |
3000万円 |
被害者請求のメリット
①示談を待たずに賠償金がもらえる
被害者請求のメリットの一つは、加害者との示談を待たずに賠償金がもらえることです。
加害者との間で争いがあり、なかなか示談が成立しない場合でも、被害者請求を行うことにより、示談より先に自賠責保険金の限度内で賠償金を受け取ることができます。
事故後、治療費などの負担が重なると被害者の生活に影響を及ぼすことがあるため、早期の損害填補の策として被害者請求が有益となります。
②後遺障害等級の認定に有利
後遺障害等級が認定されるか否か、また、認定されるとして何級が認定されるかは、加害者側から受け取れる損害賠償金額に大きくかかわってきます。
被害者請求では、後遺障害等級認定の申請手続を被害者主導で行えます。
そのため、被害者自身が、適正な後遺障害診断書が作成されているか否かを確認することや、後遺障害等級認定に関する有利な資料を提出することが可能です。
その結果、妥当な後遺障害の等級認定がなされる可能性が高まります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
被害者請求のデメリット
①手続が煩雑
被害者請求では、被害者自身が必要書類を用意して自賠責保険会社に提出しなければなりません。
複数の書類に情報を記入したり、各方面から書類を取り付けたりすることが必要になるという点で、手続が煩雑です。
②費用がかかる
被害者請求をするに当たり、書類を集めるのに費用がかかった場合には、基本的には被害者自身がその費用を負担することになります。
後遺障害の等級認定がなされた場合には、後遺障害診断書の作成料金は加害者側に負担してもらえます。
被害者請求をした方がいいケース
加害者が任意保険に未加入の場合
加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社がまず被害者に対して賠償金の支払を行い、その後、任意保険会社が自賠責保険会社に対して自賠責負担部分を請求することになります。
しかし、加害者が任意保険に加入していない場合はこのような流れにはならず、加害者が資力に乏しいときなど、加害者本人から十分な補償が受けられない可能性があります。
そのため、加害者が任意保険に未加入の場合には被害者請求を行うことを検討すべきです。
示談交渉が長引く可能性がある場合
通常、賠償金が支払われるのは示談が成立した後であり、示談交渉が長引けば長引くほど、賠償金を受け取れるタイミングも遅くなってしまいます。
そこで、示談交渉が長引く可能性がある場合には被害者請求を検討すべきです。
上記3.1のとおり、被害者請求の場合には示談を待たずに賠償金を受け取ることが可能だからです。
損害額が自賠責保険金の上限額を超える場合には、後で超過分を加害者側に請求することができます。
後遺障害等級認定の申請をする場合
上記3.2のとおり、被害者請求の場合、後遺障害等級認定の申請手続を被害者主導で行えるため、後遺障害等級の認定に有利です。
そのため、後遺障害等級認定の申請をする場合には、被害者請求を行うことを検討すべきです。
後遺障害の等級認定がなされるかどうかは、提出する資料の内容や質に左右されるため、被害者側で事前に後遺障害診断書の内容を確認するなどした上で、後遺障害等級認定の申請を行うことが望ましいのです。
被害者の過失割合が大きい場合
被害者に過失がある場合、加害者に対しては自分の過失分の損害賠償を請求できません(過失相殺)。
他方で、自賠責保険に対する請求では、被害者の過失割合が7割未満であれば、保険金が減額されることはありません。
そのため、被害者の過失割合が大きい場合には、加害者の任意保険会社に対して請求するよりも、自賠責保険会社に対して請求する方が適切な賠償を受けられることがあります。
被害者請求の手続方法・流れ
被害者請求の流れは次のようになります。
被害者の動きとしては、⑴から⑷までとなります。
- ⑴ 加害者が加入している自賠責保険会社を特定する
- ⑵ 自賠責保険会社などから書類を取り寄せる
- ⑶ 支払請求書などの書類に記入する
- ⑷ 書類一式を自賠責保険会社に提出する
- ⑸ 自賠責保険会社が書類を損害保険料率算出機構へ送付する
- ⑹ 損害保険料率算出機構が事故に関する調査や後遺障害の有無・等級の認定を行う
- ⑺ 損害保険料率算出機構が事故発生状況や損害額などを自賠責保険会社に報告する
- ⑻ 自賠責保険会社から被害者側へ保険金が支払われる
被害者請求に必要な書類
被害者請求に必要な書類は、以下のとおりです(下線部は必要に応じて提出するもの)。
- 支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 後遺障害診断書(後遺障害のある場合)
- 診療報酬明細書
- 付添看護料領収証又は付添看護自認書
- 通院交通費明細書
- 休業損害証明書
- 領収証など(加害者の支払を立証するもの)
- 請求者の印鑑証明
- 委任状・委任者の印鑑証明(委任を受けて請求する場合)
- 住民票又は戸籍抄本(請求権者が未成年の場合)
- 標識交付証明書(写)(契約車両が原動機付自転車の場合)
- 軽自動車届出済書(写)(契約車両が軽二輪車の場合)
なお、被害者が死亡した場合には、診断書に代えて死亡診断書又は死体検案書、及び戸籍(除籍)謄本が必要となります。
保険会社や病院など関係各所から書類を取り付ける必要がある上、自分で記入しなければならないものもあるため、書類の準備が被害者にとって最も負担の大きい作業といえます。
支払われるまでの期間はどれくらい?
被害者請求を行ってから保険金が支払われるまでの期間は、1か月以内であることが通常です。
ただし、書類に不備があった場合や、後遺障害等級認定の申請手続を伴う場合には、支払までに時間がかかることがあります。
なるべく早く保険金を受け取るためには、必要書類を早めに集め、かつ、不備のないよう入念に準備することが重要です。
後ほど述べますが、被害者にとって負担の大きいこの作業を弁護士に任せることで、より早く適正額の保険金を獲得することにつながります。
加害者の保険会社がわからない場合
加害者の保険会社がわからない場合は、交通事故証明書を確認しましょう。
交通事故証明書には、各当事者について「自賠責保険関係」という欄があり、そこに保険会社名が書かれています。
しかし、交通事故証明書に書かれている情報が誤っている場合もあります。
その場合、弁護士であれば弁護士会照会(23条照会)を行うことができ、自賠責保険会社を特定することができます。
被害者請求には時効がある
被害者請求には、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求とは別に、以下のような時効があります。この期間を過ぎると、被害者請求権が消滅する可能性があります。
- 傷害による損害:事故の翌日から3年
- 後遺障害による損害:症状固定日の翌日から3年
- 死亡による損害:死亡の翌日から3年
ただし、①被害者請求に対する自賠責保険金の支払、②自賠責保険からの支払不能通知、又は③自賠責保険の時効更新承認があれば、時効の進行はリセットされ、新たに3年の時効が進行します。
被害者請求を弁護士に依頼するメリット
①必要書類を自分で集める手間が省ける
上記6.1のとおり、被害者請求を行うに当たってはたくさんの書類を集めなければならず、被害者本人で全てを準備するとなるとかなりの負担になります。
弁護士に依頼していただければ、弁護士側で必要書類を集めるため、本人の手間を省くことができます。
また、弁護士は被害者請求に慣れているため、書類の準備に関して不備やミスが発生する可能性も低くなります。
②後遺障害等級認定の可能性が高まる
先ほども述べたとおり、後遺障害等級が認定されるかどうかは、加害者側から受け取れる損害賠償金額に大きくかかわってきます。
そのため、後遺障害等級の認定申請においては、提出書類の質を上げることが重要です。
交通事故に詳しい弁護士であれば、等級認定に必要となる資料のポイントを的確に押さえた上で申請できるため、適正な等級が認定される可能性が高まります。
③示談交渉を任せられる
被害者請求によって獲得できる賠償金は、自賠責基準での最低補償額にとどまります。
これを超える分を請求するためには、加害者の任意保険会社との示談交渉が必要となります。
弁護士に依頼していただければ、自賠責基準よりも高額な裁判基準で慰謝料などを請求できるほか、被害者本人が加害者側と交渉を行うというストレスから解放されます。
交通事故の被害者請求は弁護士にお任せください
これまで説明してきたとおり、被害者請求には、示談を待たずに賠償金を受け取れたり、後遺障害等級の認定に有利であるというメリットがあります。
しかし、被害者請求の手続を自分で行う場合、多くの書類を集めなければならないなどの負担があります。
弁護士に依頼していただくことで、そのような負担から解放されるだけでなく、適切な後遺障害等級が認定される可能性も高まります。
弁護士法人ALGには交通事故に詳しい弁護士が多数在籍していますので、ぜひ弊所へご相談ください。

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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
