労務

不当解雇の労働審判で会社側が主張すべき反論、答弁書のポイント

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 労働審判

従業員から不当解雇を理由に労働審判を申し立てられた会社は、第1回期日までに主張と証拠を準備する必要があります。この記事では、会社側の反論として想定される主張と答弁書作成のポイントを、判例を交えて解説します。

不当解雇の労働審判で会社側が主張すべき反論とは?

会社側が主張すべき反論としては、主に以下の3つの主張が想定されます。

  • ① 申立人(不当解雇を主張している従業員等)が、「労働者」に該当しない
  • ② 解雇ではなく自主退職又は合意退職である
  • ③ 退職の合意がなかったとしても解雇は有効である

以下ではこの3つの主張について解説いたします。
このうち③については、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇に分けて解説します。

① 「労働者」に該当しない

そもそも、解雇の効力を制限し、労働者を保護しているのは、労働契約法をはじめとする労働関係法令です。労働契約法16条は、解雇について以下のように定めています。

【労働契約法16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。これは、「解雇権濫用法理」と呼ばれる考え方(客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない解雇を無効とする考え方を明文化したものですが、あくまで労働契約が存在することを前提とした規定です。
そして、同法2条1項では、「労働者」を次のように定義しています。

【労働契約法2条1項】
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。したがって、申立人が「労働者」に当たらないのであれば、そもそも同法16条の適用はなく、解雇の有効性は問題になりません。そのため、会社側からの根本的な反論として「申立人は労働者に該当しない」という主張をすることが考えられます。

労働者性の判断基準

業務委託や請負という名称で契約していても、後から「実態は労働者であった」として不当解雇を主張されるトラブルは少なくありません。

法律上の「労働者」に当たるかどうかは、契約書の名称ではなく、就労の実態を総合的に考慮の上で判断されるためです。具体的には以下の事情が考慮されます。

  • 仕事の依頼を断る自由があったか
  • 業務の進め方について、具体的な指揮監督が及んでいたか
  • 業務時間や業務場所の拘束があったか
  • 業務を他人に代わってもらえたか
  • 報酬が、業務時間そのものに対する対価として支払われていたか

会社側としては、契約書の記載にとどまらず、これらの事情に即して使用従属関係がなかったことを具体的に主張する必要があります。

② 自主退職・合意退職

次に、会社側としては、本件労働契約の終了原因は、解雇ではなく自主退職または合意退職であったと主張することが考えられます。自主退職と合意退職の違いは以下の表のとおりです。

種類 定義 撤回の可否
自主退職 労働者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させるもの。 使用者に到達した時点で効力を生じ、以後は撤回することができない。
合意退職 労働者と使用者双方の合意によって終了させるもの。 使用者が承諾するまでは、原則として撤回することができる。

労働者の意思表示が、自主退職・合意退職のいずれかが判然としない場合には、労働者保護の観点から合意退職の申込みと解するのが相当とされています。

したがって、会社側としては申立人の合意退職の申込みに対する承諾の意思が、「いつ」、「誰によって」表示されたのかを具体的に主張し、それが申立人による撤回よりも先であったことを明らかにする必要があります。

③ 普通解雇

普通解雇は、民法627条1項前段に基づく使用者からの解約の申入れに当たります。
そして、普通解雇の事由として会社側が主張する代表的なものとしては、労働者の労務提供が不能であること(病気等)、勤務成績・態度の不良、規律違反行為等が挙げられます。

しかし、これらの事由があれば当然に解雇が有効と評価されるわけではありません。
解雇が有効なものとして評価されるためには、労働契約法16条で規定されているとおり、会社側が主張するこれらの事由が、客観的に合理的な理由であり、かつ、社会通念上相当と認められる必要があります。

そのため、答弁書では、解雇事由に当たる事実があったことを単に述べるだけでは足りません。
その事実が業務にどのような支障を生じさせたのか、会社側が改善を求める指導や配置転換等の解雇回避努力をどこまで行ったのか、それでも改善がみられなかったのはなぜかという経過について、具体的に主張する必要があります。

③ 整理解雇

整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいいます。
普通解雇の一種として扱われ、労働契約法16条に基づき、その有効性が判断されますが、労働者側に非がない会社の都合による解雇であるため、他の解雇に比べて、その有効性は極めて厳格に判断されます。

整理解雇の4要件

整理解雇の有効性については、㋐人員削減の必要性、㋑解雇回避努力、㋒被解雇者の選定の合理性、㋓手続の妥当性という4要素が総合的にみたしているかといった観点から判断されます。

要素 審査のポイント
㋐人員削減の必要性 倒産必至や債務超過までの危機的状況は要求されず、経営合理化のための人員削減も肯定される例が多い一方、人員削減と矛盾する新規採用活動を行っていれば、必要性が否定される傾向にあります。
㋑解雇回避努力 解雇を回避するための手段(役員報酬のカット、希望退職者の募集、配置転換など)を尽くしたかが問われます。考え得る全ての措置を一律に求めるのではなく、企業の規模や業種に照らして実現可能な措置が尽くされたかが検討されます。
㋒人選の合理性 被解雇者の選定において、客観的で公平かつ合理的な基準設定され、それが適正に運用されたことが要請されます。
㋓手続の妥当性 就業規則等に手続の定めがなくても、労働組合や労働者に対して、整理解雇の必要性や時期・規模などについて十分な協議・説明を尽くしたことが要求されます。

特に㋑と㋒の要素については厳格に判断される傾向があります。答弁書においても、これらの点について十分な主張・立証を尽くすことが、申立人による不当解雇の主張を退けるための重要なポイントとなります。

③ 懲戒解雇

懲戒解雇とは、企業秩序違反に対する制裁として行われる解雇であり、普通解雇とは有効要件が異なります。

懲戒解雇が有効となるためには、㋐就業規則に懲戒の種別と事由の定めがあり、その内容が周知されていること、㋑当該事由に該当する事実が客観的に存在すること、㋒懲戒権の濫用に当たらないこと(労働契約法15条)が必要です。

㋑については、処分当時に会社が認識していなかった非違行為を、後になってから追加の懲戒事由として主張することは、原則として認められません。
また、㋒については、行為の性質や態様、勤務歴などに照らして客観的に合理的な理由を欠き、懲戒解雇という処分に社会通念上の相当性があると認められない場合には、懲戒解雇は無効となります。

さらに、懲戒解雇に先んじて弁明の機会を与えていない場合にも、会社側に著しく不利に働きます。

不当解雇の労働審判における答弁書の重要性

労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終結させる極めて迅速な手続です。
そのため、第1回期日までに双方の主張と証拠が出そろっていることが事実上の前提となります。

実際の運用としても、第1回期日に書証の取調べや、当事者・関係人に対する審尋(事情聴取)が集中して行われます。労働審判委員会は、この第1回期日で得た心証をもとに調停(話し合いによる解決)を試みるのが一般的です。

第2回期日以降の証拠調べはあくまで補充的なものにとどまることがほとんどです。

したがって、会社側が提出する答弁書の重要性は極めて高いといえます。第1回期日までに、以下に説得力のある主張・証拠を答弁書に盛り込めるかが、労働審判の結果を大きく左右します。

労働審判(不当解雇)の答弁書を作成する際のポイント

金銭解決が可能であることを記載する

労働審判やその後の訴訟において解雇が無効と判断された場合、会社は解雇時から復職までの間の賃金(いわゆるバックペイ)を遡って支払わなければなりません。
紛争が長期化すればするほど会社の経済的負担は雪だるま式に膨らみます。
そのため、早期解決を図ることには会社側にとって大きな利益となります。

したがって答弁書では、あくまで解雇は有効であるとの主張を明確にしたうえで、早期解決の手段として、会社として金銭解決の選択肢を用意している旨を記載しておくことが考えられます。

解決金が減額されるケースとは

労働審判において支払う解決金の水準は、解雇の有効性に関する労働審判委員会の心証を反映して決まります。

つまり、答弁書や証拠をもって、労働審判委員会に解雇が有効である可能性が高いという事情を説得力を持って示せるほど、会社が支払う解決金の額を減額できる可能性が高まります。

会社側の反論を裏付ける証拠を提出する

以上の点を答弁書で事実として主張するだけでは足りず、これを裏付ける証拠を提出する必要があります。会社側としては、解雇前から不当解雇と争われた場合に備えて解雇事由を裏付ける証拠を収集しておき、労働審判において不足なく提出することが大切です。

不当解雇について争われた判例

最後に、解雇が有効であると認められるためのハードルが高いことを示す判例を紹介します。

事件の概要(高知放送事件・最高裁第二小法廷判決昭和52年1月31日)

放送局のアナウンサーが、宿直勤務中に寝過ごし、定時のラジオニュースを放送できないという事故を起こしました。その約2週間後にも同様の事故を起こし、さらに2度目の事故については上司に報告せず、事実と異なる虚偽の事故報告書を提出しました(以下、これらの行為を「本件行為」と表記します。)。

会社は、本件行為が就業規則上の懲戒事由に当たるとしつつも、当該アナウンサーの再就職への影響を考慮し、温情として普通解雇としました。
これに対し、当該アナウンサーが解雇の無効と従業員としての地位確認を求めて争った事案です。

裁判所の判断

最高裁は、本件行為は就業規則の普通解雇事由に該当するとしながらも、解雇が著しく不合理で社会通念上相当と是認できないときは解雇権の濫用として無効になると判示し、解雇を無効とした原審の判断を維持しました。

ポイント・解説

注目されるのは、最高裁が労働者の落ち度を認めたうえで、なお解雇を無効とした点です。

すなわち、最高裁は、労働者の落ち度として、会社の信用を失墜させたこと、短期間内に同じ態様の事故を繰り返したこと、事故直後に素直に非を認めなかったことを指摘したうえで、なお、次のような事情から、解雇は苛酷にすぎると判断しました。

  • 事故が寝過ごしによる過失にとどまること
  • 本来アナウンサーを起こす役割の担当者も寝過ごしていたこと
  • その担当者はけん責処分にとどまったこと

このように、客観的に解雇事由に当たる事実があり、実際に業務へ支障が生じている事案であっても、会社側の落ち度や他の従業員との処分の均衡が審査され、解雇が無効となることがあります。

解雇権濫用法理のもとで解雇が有効と認められるハードルの高さがうかがえる判例といえます。

労働者から不当解雇を訴えられたら、お早めに弁護士までご相談下さい。

以上のとおり、解雇が有効と認められるための法的ハードルは非常に高く、会社側の主張を通すためには、答弁書の内容と証拠の裏付けをいずれも的確に整える必要があります。
しかし、労働審判は早期の解決を図る手続であり、準備に充てられる時間は極めて限られています。

従業員から不当解雇を主張され、労働審判を起こされた場合、あるいはその予兆がある場合には、できる限り早い段階で弁護士へご相談ください。

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監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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