監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
「セックスレスを理由にして離婚しても良いのだろうか?」、「自分が我慢すれば良いのではないか?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。セックスレスを理由に離婚したいと考えることは決して珍しいことではありません。今後の人生を後悔せずに歩んでいくためにも、セックスレスの場合にできることについて解説していきたいと思います。
目次
セックスレスとは
そもそもセックスレスとはどのような状態のことをいうのでしょうか?
日本性科学会が1994年に発表した定義によると、セックスレスとは、特別な事情がないのに性的な触れ合いが1ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される状態とされています。
一方で、セックスレスについて、法律上の明確な定義はありません。
もっとも、一般的な夫婦関係に照らし、長期にわたって極端に性交渉が少ない場合であれば、セックスレスの状態にあるといえるでしょう。
セックスレスは離婚原因として認められるのか
それでは、セックスレスを理由に離婚することはできるのでしょうか?
夫婦間の話し合いにより、双方が合意すればセックスレスを理由に離婚することは可能です。
もっとも、合意に至らずに裁判になった場合、以下の法定離婚事由(民法770条1項各号)のいずれかに該当しなければ、離婚は認められません。
①配偶者に不貞行為があったとき(1号)
②配偶者から悪意で遺棄されたとき(2号)
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(3号)
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号)
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)
セックスレスが当てはまる可能性があるのは、このうち「⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)」です。
セックスレスでの離婚率
性交渉を行うことは円満な夫婦生活を送っていく上で、非常に重要なことです。
「セックスレスを理由に離婚して良いのだろうか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、相手から性交渉を拒まれ続けた場合、離婚を考えるのも無理はありません。
令和2年度の司法統計によると、家庭裁判所に離婚調停等を申し立てた人のうち、その理由として「性的不調和」を挙げている人は4557人もいます。そのため、セックスレスを理由に離婚したいと思うことは、けっして珍しいことではないのです。
セックスレス離婚の慰謝料
セックスレスを理由に離婚する場合に、その責任が相手方にあれば、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できる可能性があります。
例えば、正当な理由なく性交渉を長期間にわたって拒まれ続けたことが原因で離婚するに至った場合は慰謝料を請求することができます。
慰謝料の相場
セックスレスが原因で離婚するに至った場合、慰謝料の相場は50~200万円程度となっています。もっとも、慰謝料の額は、セックスレスを含む夫婦間の様々な事情によって判断されます。そのため、個別事情によっては、より高額な慰謝料が認められることもあります。
請求方法
セックスレスを理由に離婚する場合に、慰謝料を請求する方法としては以下の3つが考えられます。
交渉
まずは、交渉により、こちらの希望する慰謝料を払ってもらうよう相手方に求めることが考えられます。
調停
交渉で相手方が慰謝料の支払に応じない場合、離婚調停を申し立て、調停の中で慰謝料請求をする方法が考えられます。
訴訟
調停での話し合いが上手く行かず、不成立となった場合、離婚訴訟を提起して慰謝料を請求する方法が考えられます。
離婚慰謝料請求の方法について、詳しくは「離婚慰謝料請求」のページをご参照ください。
離婚慰謝料を請求できる条件や方法についてセックスレス離婚の切り出し方
セックスレスを理由に離婚したい場合、まずは離婚したい意思を告げた上で、セックスレスについての自身の正直な気持ちを相手に切り出してみましょう。そして、相手の意見も聞いてみましょう。もしかしたら、相手は貴方がセックスレスで苦しんでいることに気づけておらず、話し合うことによって状況が好転するかもしれません。
離婚したくないと言われた場合
一方で、話し合っても状況が好転せず、離婚を拒否される場合も考えられます。
離婚を拒否された場合、セックスレスであることを証明するための証拠を収集していくことをおすすめします。相手がセックスレスの事実は存在しないと主張してきた場合、相手を説得したり、裁判所に離婚を認めてもらうためにセックスレスの証拠が必要となります。
また、セックスレスのみを理由に離婚が認められるのはそう簡単なことでありません。そのため、できるだけ早い段階で別居し、裁判所に婚姻関係が破綻していると認めてもらいやすくすることも考えられます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
セックスレス離婚に必要な証拠
前述のとおり、相手を説得したり、裁判所に離婚を認めてもらうためには、セックスレスの証拠が重要となります。もっとも、夫婦間というプライベートの問題であることから、セックスレスの証明は、けっして容易ではありません。そこで、以下の証拠を組み合わせて主張していくことが考えられます。
夫婦の生活時間帯などがわかる表
夫婦の生活時間帯などが分かる表を作成し、証拠とすることが考えられます。
上記の表を作成することで、夫婦の生活時間がずれていないことを明らかにし、性交渉をする時間があるにもかかわらず、正当な理由なく性交渉を拒まれていると主張することが可能となります。起床・帰宅・就寝時刻等の生活サイクルが分かればよく、あまりにも詳細なものを作成する必要はありません。
セックスレスについて夫婦で話した会話の録音
相手が性交渉を拒んでいる発言やセックスレスの期間などについての夫婦間の会話を録音したものは有力な証拠となる可能性があります。また、録音だけではなく、メールやLINEであってもセックスレスについてのやり取りが記載されていれば、有力な証拠となる可能性があります。
セックスレスのことが書かれた日記
セックスレスの証拠としては、夫婦のセックスレスのことが書かれた日記が証拠として用いられることが多いです。
「自らに都合の良いように記載を書き換えた」と相手に反論されないために、継続的にセックスレスの事実について記載することをおすすめします。
また、日記には、セックスレスによって精神的苦痛を受けたことを主張するためにも、自らの感情についても記載することをおすすめします。
セックスレスでの離婚でよくある質問
セックスレスで離婚した場合、子供の親権はどちらになりますか?
子供の親権者を決める際に重視されるのは、夫婦のいずれが主として子供の監護養育を行っていたかどうかであり、セックスレスについてはほとんど考慮されません。そのため、セックスレスで離婚する場合であっても、子供の親権者については、夫婦のうち主として子供の監護養育を行っていた者となると考えられます。
セックスレスを理由に不倫された場合は離婚慰謝料を請求することはできますか?
セックスレスであっても婚姻関係が破綻していない場合には、相手に離婚慰謝料を請求することが可能です。
もっとも、不貞された時点で夫婦間の婚姻関係が破綻していれば離婚慰謝料は認められません。セックスレスであったことは、夫婦の婚姻関係が既に破綻状態にあったことを示す事情として用いられることがあります。
妊娠中のセックスレスでも離婚できますか?
妊娠中の女性は体調を崩していることが多く、母体への負担の点からそもそも性交渉をすることが難しい場合があります。
そのため、上記のような場合は性交渉を拒んだとしても正当な理由があるとされる可能性が高く、セックスレスを理由に離婚することは難しいと考えられます。
セックスレスにより離婚する場合は弁護士にご相談ください
今回は、セックスレスを理由に離婚することや慰謝料を請求することができるのかについて解説しました。とはいえ、セックスレスのみを理由に離婚が認められることはそう簡単なことではありません。セックスレスについての証拠を収集するのと同時に、できるだけ早い段階で別居もすることにより、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められやすくすることが望ましいです。
セックスレスを理由に離婚したい場合は綿密な戦略を立てた上で行動していく必要があります。そのため、少しでも早く弁護士に相談することをおすすめします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)