
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 賃金
人を雇う立場にある方であれば、「最低賃金制度」という言葉を一度は耳にされたことがあるかもしれません。
この制度は、労働者の生活を最低限保障するために設けられたもので、事業主にとっても遵守が強く求められる重要なルールです。仮に制度を理解せずに違反してしまった場合、労働基準監督署から是正を求められることがあります。
うっかり違反を防ぐためにも、最低賃金制度の基本と、違反時の行政対応についてあらためて確認しておきましょう。
目次
最低賃金制度の概要
最低賃金には、大きく分けて2種類あります。
1つは、全国の都道府県ごとに決められている「地域別最低賃金」、もう1つは、特定の産業で働く人を対象にした「特定(産業別)最低賃金」です。
もし、どちらの最低賃金も適用される場合には、金額が高い方を基準にして、使用者は賃金を支払わなければなりません。
地域別最低賃金
「地域別最低賃金」は、各都道府県ごとに定められている最低賃金です。この「地域別最低賃金」は、産業や職種を問わず、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に対して適用されます。
特定最低賃金
「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業で働く人を対象に定められた最低賃金です。
労働者に対して「地域別最低賃金」よりも高い金額を設定する必要があると認められた産業について、適用されます。
最低賃金の減額特例について
①精神・身体の障害により著しく労働能力の低い者、②試用期間中の者、③基礎的な認定職業訓練を受講中の者、④簡易な業務・断続的労働に従事する者については、最低賃金の減額特例制度が設けられています。使用者は①から④のいずれかに該当するときは、労基署長を経由して都道府県労働局長に申請し、許可を受けた場合は、その者について減額された最低賃金が適用されます。
使用者から労基署長に申請があると、都道府県労働局長がその労働者の労働能力、労働実態等に見合った、最低賃金金額よりも減額された賃金額を決定します。
最低賃金法に違反した場合のリスク・罰則とは?
地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった使用者は、50万円以下の罰金に処せられます(最低賃金法第9条、第40条)。
また、特定(産業別)最低賃金が適用される場合に、同賃金額以上の賃金を支払わなかった使用者は、同賃金額との差額が未払いであるとして、賃金全額払い原則(労働基準法24条1項)に違反し、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第120条)。
最低賃金制度に違反した場合の労基署対応
労働基準監督署による立ち入り調査
労働基準監督官は、最低賃金が適切に守られているかどうかを確認するため、使用者の事業場に立ち入ることができます。
また、帳簿や書類などを検査したり、関係者に対して質問を行ったりすることも認められています(最低賃金法32条1項)。
立ち入り調査(臨検監督)の種類
労働基準監督官による立入検査の種類には大きく分けて4種類あります。
- ①定期監督
労基署が監督指導の必要性の高い事業場を選んで行う定期的な立入検査、改善指導です。 - ②申告監督
労働者等から会社が労基法等に違反していると申告があった場合に、同申告に基づいて実施される立入検査、改善指導です。 - ③災害調査・災害時監督
労働災害によりその事業場で労働者が死傷した場合などに、その実態、原因、安衛法違反の有無を確認するとともに、再発防止のために緊急対策を行うための立入検査、改善指導です。
④再監督
①から③の立入検査の際に、労機監督官が是正勧告をした法違反がその後、実際に改善されたかどうかを確認する必要がある場合に行われる立入検査です。
立ち入り調査でやってはいけない対応とは?
労基監督官による立入検査を拒否したり、これを妨害したり、質問に答えなかったり、虚偽の回答をした場合は、30万円以下の罰金に処せられるため、注意が必要です(最低賃金法40条3号)。
弁護士の立ち会いを依頼すべき理由
立入検査の際に弁護士に立ち会ってもらうことで、労働基準監督署による不当な調査を防ぐことができます。また、提出を求められる資料について事前に準備を整えることができるため、手続きを円滑かつ迅速に進めることが可能になります。
違反が認められた場合の是正勧告書の交付
労基監督官が法違反を発見した場合、是正勧告書を交付します。是正勧告書には、違反している法律の該当条項、違反事項、是正期日が記載されています。
是正報告書の作成・提出
是正勧告書を交付された場合、是正勧告書に記載された事項の趣旨にしたがって、是正期日までに是正措置を講じて、労基監督署長に是正報告書を提出する必要があります。
指導票を交付された場合の対応は?
また、法違反には該当しないものの改善した方が好ましい点がある場合や法違反までは認定できない場合、法違反に該当することになるおそれがありそれを未然に防止する必要がある場合には、指導票が交付されます。指導票が交付された場合にも是正措置を講じ、是正報告書を提出しなければなりません。
逮捕・送検のおそれ
また、行政手続にとどまらず、違反の程度が著しく、被害が重大で悪質と判断される場合には、逮捕や送検といった刑事手続に発展する可能性があります。
最低賃金制度に違反しないために企業がとるべき対策
最低賃金を下回っていないか確認する方法
最新の地域別最低賃金及び特定(産業別)最低賃金は厚生労働省のホームページで確認することができます。
地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省 特定(産業別)最低賃金全国一覧 |厚生労働省最低賃金にまつわる裁判例
事件の概要
タクシー会社Yの乗務員Xら30名が、支払われた賃金が最低賃金を下回っていたとして、その差額分の賃金や付加金の支払を求めた事案です。
裁判所の判断
【平成23(ワ)825・平成25年3月26日・奈良地裁・判決】
(ア) 被告は、就業時間中に原告らが組合活動を行っていた時間については、所定労働時間の実数から控除すべきである旨主張する。
(イ) この点、争いのない事実並びに証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、組合との間で、就業時間中に組合活動を行った場合について、労働時間から控除しない旨の合意をしており、実際に、本件請求期間中、原告ら乗務員が組合活動を行う旨の届出を行った場合でも、労働時間から控除しないという取扱いをしてきたことが認められる。
(ウ) そうすると、最低賃金の計算に当たり、所定労働時間の実数から組合活動時間を控除すべきである旨の被告の主張は理由がない。
ポイント・解説
Yは、最低賃金の計算に当たり、所定労働時間の実数から組合活動時間を控除すべきである旨の主張を行っていましたが、①Xらが組合との間で、就業時間中に組合活動を行った場合について、労働時間から控除しない旨の合意をしていたこと、②実際に、原告ら乗務員が組合活動を行う旨の届出を行った場合でも、労働時間から控除しないという慣行があったことを理由に、組合活動時間も最低賃金の計算の基礎に含まれるとした点にポイントがあります。
労働基準監督署への対応でお困りなら弁護士にご相談ください。
日頃から、最低賃金を下回ることのないよう、就業規則をしっかりと整えておくことが重要です。
万が一、知らないうちに最低賃金を下回っていた場合には、労働基準監督署による立入検査や是正報告書の提出が求められる可能性があります。
そのような事態に備えるためにも、早い段階で弁護士に相談し、対応の方針を確認しておくことをおすすめします。
-
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)