監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 団体交渉
子会社の従業員が団体交渉を申し入れる場合、直接の雇用主である子会社に対して行うのが通常です。
しかし、子会社相手では埒が明かないとして、親会社に対しても団体交渉を申し入れるという事態が起こり得ます。
この場合、親会社は子会社の従業員からの団体交渉に対応しなければならないのでしょうか。
以下では、
- 親会社と子会社の関係
- 子会社の従業員からの団体交渉に親会社は応じる義務があるか
- 子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応
について、弁護士が解説します。
目次
「親会社」と「子会社」の関係とは?
「親会社」とは、「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」をいいます(会社法2条4号、会社法施行規則3条2項)。
「子会社」とは、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」をいいます(会社法2条3号、会社法施行規則3条1項)。
すなわち、A社がB社の総株主の議決権の過半数を保有するなどしてB社の経営を支配している場合、A社が「親会社」、B社が「子会社」となります。
もっとも、親会社と子会社は、それぞれ独立した法人格を有する別会社となります。
子会社の従業員からの団体交渉に親会社は応じる義務があるか?
子会社の従業員からの団体交渉申入れに親会社が応じる義務は、原則としてありません。
労働組合法においては、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むこと」が禁止されています(労働組合法7条2号)。
上述のとおり、親会社と子会社は法的には別の法人格ですので、子会社の従業員からの団体交渉申入れは、当該従業員にとっての「使用者」である子会社が誠実に対応すれば足ります。
親会社が子会社の従業員からの団体交渉申入れに応じる義務を負うのは、親会社が当該従業員の労働組合法上の「使用者」に該当するという例外的な場合に限られます。
労働組合法における親会社の「使用者性」
労働組合法における「使用者」とは、形式的に雇用契約を締結している雇用主には限られません。
労働組合法は、労働者の団結権や団体交渉権を実効的に保障することを目的としているため、従業員と雇用契約を締結していなくても、実質的に労働条件等を支配、決定している事業主は、「使用者」に該当し得ると解されています。
①労働組合法上の使用者性が肯定された裁判例
労働組合法上の使用者性が肯定された事例として、朝日放送事件を紹介します。
事件の概要
朝日放送が、テレビの番組制作の業務につき請負契約を締結していた会社の従業員で組織された労働組合から団体交渉を申し入れられたところ、当該従業員の使用者でないことを理由として申入れを拒否したことが不当労働行為に当たるとして争われた事件です。
裁判所の判断
「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条(労働組合法7条)の『使用者』に当たるものと解するのが相当である。」
(最3小判平成7年2月28日民集49巻2号559頁 朝日放送事件)
ポイント・解説
労働契約関係にない労働者を受け入れて業務に従事させている事業主は、その労働者が組織している労働組合との関係で、不当労働行為責任が問われる使用者となることがあるか否かが問題となりました。
本判決は、上記の判断基準を示したうえで、朝日放送は、実質的に見て請負会社からの従業員の勤務時間の割振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたので、これらの従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものとして、そのかぎりにおいて、労働組合法7条の使用者に当たると判断しています。
②親会社及び持ち株会社の使用者性が否定された裁判例
親会社及び持株会社の使用者性が否定された事例として、高見澤電機製作所外2社事件を紹介します。
事件の概要
従業員の同意なく行われた人事異動に関して、親会社及び当該人事異動後に設立された持株会社に対して子会社の従業員が団体交渉を申し入れたところ、親会社及び持株会社が、当該従業員の使用者でないことを理由として申入れを拒否したことが不当労働行為に当たるとして争われた事件です。
裁判所の判断
裁判所は、上記の朝日放送事件の規範を引用し、親会社及び持株会社は子会社の経営について一定の支配力を有していたと言えるが、労働者の基本的な労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと言える根拠はないとして、労働組合法上の使用者には当たらないと判断しました。
(平成21年(行ウ)第295号 東京地方裁判所 平成23年5月12日判決)
ポイント・解説
企業グループを形成している場合、親会社が子会社の経営に対して一定の支配力を有していることは当然ですが、その程度が労働組合法上の使用者に当たるといえるほどの強度か否かが問題となりました。
本判決は、
- 親会社の関与がグループ企業の経営戦略的観点から行う管理・監督の域を超えたものであると認めるだけの証拠はない
- 親会社が子会社の労働者の賃金、労働時間等の基本的な労働条件に対して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠はない として、親会社の使用者性を否定しました。
企業グループの頂点に立つ会社は子会社の経営に対して一定の支配力を有しているものの、それだけでは労働組合法上の使用者には当たらず、それを超えて労働者の労働条件について現実的かつ具体的に決定していると認められる程度の支配力が及んでいなければ使用者には当たらないと判断しています。
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応
上述のとおり、親会社が子会社の従業員からの団体交渉の申入れに応じなければならない場合がありますので、「当該従業員の雇用主ではないから」という理由のみで拒絶しないよう注意が必要です。
団体交渉の議題を精査し、議題の中に親会社が実質的に決定している労働条件等が含まれることが判明したのであれば、その範囲内で団体交渉の申入れに応じる必要があります。
雇用関係がなくても誠実に対応する
使用者は、労働組合との団体交渉に対して誠実に応じる「誠実交渉義務」を負っています。
誠実交渉義務に違反しているか否かは、団体交渉における使用者の言動や態度を総合的に考慮して判断されます。
主な判断基準として、以下の点が挙げられます。
- ① 労働組合側の合意を求める努力の有無・程度
- ② 労働組合側の要求の具体性や追及の程度
- ③ ①②に応じた使用者側の回答又は反論の提示の有無・程度
- ④ ③の回答又は反論の具体的根拠についての説明の有無・程度
- ⑤ 必要な資料の提示の有無・程度
誠実交渉義務に違反した場合、不当労働行為となります。
不当労働行為は、労働委員会における救済命令の対象となり、損害賠償が命じられるおそれがあります。
そのため、親会社が子会社の従業員から団体交渉を申し入れられた場合には、直接の雇用関係にないことを理由に即座に拒絶するのではなく、前述のように使用者性が認められる余地が無いか等を慎重に検討する必要があります。
団体交渉の議題を十分に精査する
子会社の従業員から申し入れられた団体交渉の議題に、親会社が実質的に決定している労働条件等が含まれている場合には、その範囲内で親会社に申入れに応じる必要があります。
まずは、労働組合から送付された「団体交渉申入書」や「要求書」などの書面を確認し、十分に内容を精査しましょう。
親会社の決定権・影響力を調査する
次に、子会社の従業員から申し入れられた団体交渉の議題について、親会社として具体的にどのように関わってきたのかを調査しましょう。
当該議題について、親会社が具体的に決定していたのか、それとも子会社が具体的に決定し親会社はその報告を受けていただけなのかなど決定権の有無や影響力の程度を調査します。
また、資本や役職人事など労務に関する方針について強い支配関係がある場合には、親会社が労働組合法上の使用者であると判断される可能性があります。
そのため、持株割合や、子会社の役員や管理職の中に親会社から派遣されている者がいるか否か等も調査しましょう。
子会社の従業員からの団体交渉でお困り際は弁護士にご相談下さい。
子会社の従業員からの団体交渉の申入れを、直接の雇用主ではないとして拒絶してしまうと、不当労働行為として損害賠償が命じられるおそれがあるため、慎重な検討が必要です。
団体交渉に応じるべきか否か、どの程度まで応じるべきか等の判断は専門性が高く容易ではありません。
子会社の従業員からの団体交渉の対応でお困りの場合は、ぜひ一度、労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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