監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
婚姻費用とは夫婦が婚姻して同居生活を営むための費用です。夫婦には、同居し、互いに協力し扶助する義務があるため(民法752条)、婚姻費用を分担する義務があります。したがって、婚姻費用の支払義務を負っている者(義務者といいます。)は婚姻費用を支払わなければなりません。
義務者から支払いを拒否された場合の対処法について、以下説明していきます。
目次
婚姻費用の支払いを拒否された場合の対処法
婚姻費用の支払を拒否された場合には、以下の通り、大きく分けて3つの手段が考えられます。
内容証明郵便の送付による支払いの催促、婚姻費用分担請求調停・審判、調停前の仮処分・審判前の保全処分が考えられます。
内容証明郵便の送付
当事者間のやり取りでは婚姻費用を支払ってくれない場合や、そもそも義務者と連絡を取り合うことができない場合には、弁護士に依頼し、義務者に対して内容証明郵便を送付することが考えられます。
内容証明郵便を送付しても、支払いの強制力はありませんが、義務者が任意に支払いに応じてくれる場合もあります。また、実務上婚姻費用は請求してから義務者に支払い義務があると考えらえているため、婚姻費用分担請求調停より前の段階で請求しておくことも今後有利になる可能性があります。
婚姻費用分担請求調停・審判
当事者間のやり取りや、内容証明郵便の送付でも、義務者が支払いに応じない場合には、婚姻費用分担調停を申し立てる必要があります。
婚姻費用の支払いを求める者(権利者といいます。)が生活に困っており、速やかに婚姻費用の支払いを実現したい場合には、当事者間のやり取りや内容証明郵便の送付がなく、いきなり婚姻費用分担請求調停をすることもよくあります。調停では、調停委員を交えて当事者や弁護士が話し合います。
婚姻費用分担請求調停の話し合いがまとまらず、調停が成立しなかった場合には、裁判官が婚姻費用の分担について審判します。
調停前の仮処分・審判前の保全処分
・調停前の仮処分
調停前の仮処分は婚姻費用の分担請求の調停が継続している間にすることができます。
調停前の仮処分は執行力を有しませんが、正当な理由なくこれに従わない場合には10万円以下の過料に処せられますので、間接的に婚姻費用の支払いを促すことができます。
・審判前の保全処分
審判前の保全処分は、審判の決定までの間にすることができます。
調停前の仮処分と比べると、審判前の保全処分による仮払仮処分では審判前に婚姻費用の支払いを得ることができます。
したがって、婚姻費用の支払いがないと生活がままならない場合には、審判前の保全処分をすることが考えられます。
婚姻費用の支払いの強制執行
婚姻費用の支払いの強制執行の方法としては、①直接強制と②間接強制とがあります。①直接強制では、すでに確定期限の到来した部分については、義務者の預金、給与、財産を、今後確定期限が到来する将来分については、給与を差し押さえ、取り立てることができます。
②間接強制では、義務者に対して、婚姻費用を支払わない場合に一定の額の金銭を支払うことを命じることによって心理的な強制を与え、支払いを促すことができます。
もっとも、強制執行を行うためには、債務名義(調停や審判の結果や、強制執行認諾文言付きの公正証書など)が必要です。
婚姻費用の支払いに対する遅延損害金の請求
婚姻費用が支払い期限までに支払われない場合には、遅延損害金を請求することができます。遅延損害金とは、支払い義務者が支払い期限を遅れた場合に請求できる損害賠償のことです。遅延損害金については、何ら定めがない場合、法定利率である年3%(令和2年4月1日以前は年5%)が適用され、その利率の遅延損害金を請求することができます。
婚姻費用の支払い拒否が認められるケース
上述した通り、婚姻費用は夫婦の同居協力扶助義務を根拠としているため、同居協力扶助義務に著しく違反している場合(権利者がなんら理由なく家を出て別居した場合や、権利者の不貞が露見したため別居した場合など)は婚姻費用の支払いの拒否が認められることがあります。
もっとも、子どもは同居協力扶助義務に違反したとはいえないため、婚姻費用における子どもの養育費部分については支払いを免れることはできません。
婚姻費用を拒否された場合のQ&A
時効を理由に婚姻費用の支払いを拒否されました。諦めるしかないのでしょうか?
過去の婚姻費用については、基本的には時効の期間が5年、調停や審判により決められているものでその時点で支払い期限が到来している部分については、時効の期間が10年です。
また、相手方が時効により消滅していると主張していても、時効の更新(時効の完成が延期している場合)などもあります。時効期間を経過していると考えられる場合でも、あきらめずに弁護士に相談してみましょう。
別居中です。夫が家を出ていき、私は夫名義の家に住んでいます。この家の住宅ローンを支払っているからと婚姻費用の支払いを拒否されましたが、払ってもらえないのでしょうか?
婚姻費用からローンの支払い全額を控除してしまうと、生活保持義務より資産形成を優先させてしまうことになるため、妥当ではありません。もっとも、住宅ローンの支払いは権利者である妻の住居の確保に寄与している部分もあります。
そこで、住宅ローンの支払いをしている部分については婚姻費用を一定割合控除したうえで、生活費の支払いを求めることが考えられます。したがって、婚姻費用の支払いを拒否されている場合には、一定額の支払いを求めていくことになります。
相手の浮気が原因で別居していますが、「勝手に出て行った」として婚姻費用の支払いを拒否されています。請求はできないのでしょうか。
確かに、同居協力扶助義務に著しく反している場合には、婚姻費用を分担しなくても、生活保持義務に反しないと考えられます。別居の理由が何の理由もなく行われたものであれば、婚姻費用を分担する必要がないと判断される可能性もあります。
しかし相手の浮気を原因として別居している場合には、同居協力扶助義務に著しく違反したとは言えないので、婚姻費用の支払いを請求していくべきでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
婚姻費用の支払いを拒否されてしまったら、一度弁護士へご相談ください。
婚姻費用の支払いは、別居中の生活のために必要なものです。相手方から婚姻費用の支払いを拒否されることで生活を送ることが困難な場合もあると思います。当事者同士での交渉が困難な場合でも、弁護士が交渉することで相手方が支払いに応じる場合もあります。
また、弁護士が介入することで、婚姻費用の分担の調停などを申し立て、できるだけ速やかに婚姻費用の支払いを求めることができます。
婚姻費用の支払いを拒否されてしまったら、一度弁護士へご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)