監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 賃金
同一労働同一賃金における福利厚生等の待遇差に関する判断要素とは?
という内容で以下の項目に繋がるような冒頭文をお願いします。
同一労働同一賃金は、正社員と、非正規雇用労働者との間の福利厚生等の待遇差についても要求されることとなっています。
そして、どういった場合に、待遇差が不合理と判断されるのかは難しい問題です。
以下では、待遇差がいかなる場合に違反となるのか、違反となった場合のリスクなどについて解説していきます。
目次
そもそも同一労働同一賃金とは?
そもそも同一労働同一賃金とは、正社員と、非正規雇用労働者(有期雇用の労働者、パートタイム労働者、派遣労働者等)との間において、不合理な待遇の差を置くことを禁止する制度です。
同一労働同一賃金の対象には福利厚生等も含まれる
同一労働同一賃金という名称ではあるものの、その対象は賃金に限られるわけではなく、本稿において説明するような福利厚生など、あらゆる待遇について不合理な待遇の差を設けてはならないものとされています。
ガイドラインで示されている福利厚生
同一労働同一賃金については、厚労省よりガイドラインが作成されています。
同ガイドラインにおいて、福利厚生に関しては、以下の点が掲げられています。
- 福利厚生施設
正社員と同一の事業所で働く労働者には、正社員と同一の給食施設、休憩室及び更衣室の利用を認めなければなりません。 - 転勤者用社宅
転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額などについて、正社員と同一の支給要件を満たす労働者については、正社員と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければなりません。 - 慶弔休暇や健康診断の勤務免除、有給の保障
正社員と同一の慶弔休暇や健康診断の勤務免除、有給の保障を行わなければなりません。 - 病気休職
正社員と同一の病気休職の取得を認めなければなりません。期限の定めのある労働者についても、終了までの期間を踏まえて、病気休職の取得を認める必要があります。 - 法定外の有給の休暇やその他法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)のうち、勤続期間に応じて取得を認めているもの
正社員と同一の勤続期間である労働者については、正社員と同一の法定外の有給の休暇やその他法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)を付与しなければなりません。
この際、労働契約を更新している場合には、最初の労働契約が開始した時点から通算して、勤続期間を評価する必要があります。
福利厚生等の待遇差に関する判断要素とは?裁判ではどう判断された?
では、福利厚生等の待遇差について、裁判ではどのように判断されたのでしょうか。
福利厚生等の待遇差について争われた判例
福利厚生等の待遇差に関して争われた判例として、最高裁令和2年10月15日判決を紹介します。
同判決では、種々の労働条件に関する待遇差が問題となっていましたが、本稿では、特に福利厚生に関する規定への最高裁の判断について、解説していきます。
事件の概要
この判決では、3つの事件について、待遇の差が不合理なものかどうかが判断されました。いずれの事件も、日本郵便株式会社と、有期労働契約を締結して働いていた社員(以下、「本件契約社員」といいます。)と、無期労働契約を締結していた社員(以下、「正社員」といいます。)との間で、労働条件に差があり、この点が、改正前労働契約法20条に違反するものであるとして、不法行為に基づく損害賠償等が請求された事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
最小一判令和2年10月15日
①夏期冬期休暇の有無について
判決は、夏期冬期休暇について、「労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的」があるとした上で、本件契約社員が「繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている」として、夏期冬期休暇を与える趣旨が本件契約社員にも妥当するとして、正社員との待遇差が不合理であると判断しました。
②病気休暇としての有給休暇の有無について
判決は、病気休暇について、「継続的な雇用を確保するという目的」を有するとし、使用者側で、長期雇用を前提とする労働者にのみ適用するという制度設計は経営判断として尊重し得るとした上で、本件の契約社員は、「相応に継続的な雇用が見込まれている」として、正社員との待遇差が不合理であると判断しました。
ポイント・解説
判決のポイントとしては、福利厚生等に関する規定について、その趣旨を判断した上で、一般的な非正規雇用労働者ではなく、当該職場で働く非正規雇用労働者の実際の労働条件からして、正社員と同様に、福利厚生等の適用をすべきかどうかを判断していることが挙げられます。
この判決からすれば、福利厚生等の待遇差が不合理であるか否かは、各社の実態に応じて、個別具体的に判断されるものと言えます。
労働契約法20条違反の判断要素
改正前労働契約法20条は、同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者との間に、有期であることによる労働条件の相違がある場合、当該相違が①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものかを判断するとしていました。
2021年4月1日より、同条の規定は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律に移行し、同法8条から10条において待遇差の不合理性に関する判断基準につき規定されることとなりました。
同一労働同一賃金ガイドラインの考え方
改正前労働契約法やその判断方法について明示した裁判例等をふまえて、同一労働同一賃金ガイドラインは作成されました。同ガイドラインにおいては、どのような待遇差が不合理となるのか項目ごとに例示されています。
福利厚生等の待遇差に関して企業に求められる対応
福利厚生等について、待遇差がある場合、企業にはその点に関する説明義務があります。
そのため、非正規雇用労働者から、待遇に関する説明を求められた場合、企業は、これに応じなければなりません。
また、雇用する際には、有期雇用労働者に対して、待遇の説明をすることが義務付けられています。
労働者に対する待遇差の説明義務について
労働者から、待遇差に関する説明を求められた場合など、待遇差に関する説明をする際には、その待遇差の内容や差を設けた合理的な理由について、説明する必要があります。
福利厚生の観点から言えば、当該労働者について、正社員と比べて、どういった要件を満たしていないから、福利厚生の利用が制限されているというような説明をすることが考えられます。
同一労働同一賃金に違反した場合の企業リスク
同一労働同一賃金に違反した場合、企業に対する刑事罰はありません。厚労省による同一労働同一賃金ガイドラインには法的拘束力もありません。
もっとも、違反の内容が悪質な場合や待遇差に関する説明が不十分であった場合には、行政による助言、指導、勧告等が行われ、それらに従わなかった場合、企業名が公表される可能性もあります。
また、労働者から民事訴訟(損害賠償請求)を提起される可能性もあります。
福利厚生など同一労働同一賃金で不安なことがあれば弁護士にご相談下さい。
同一労働同一賃金における待遇差の判断は、それぞれの事案によって考慮すべき事情も異なり、その合理性の判断は困難です。正社員と、非正規雇用労働者において待遇差が存在する場合、その待遇差が合理的なものなのかなど労働条件に関するその他ご不安な点があれば、是非一度弁護士にご相談下さい。
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