監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- うつ病
近年、従業員がストレスにより、うつ病等のメンタルヘルス不調を訴えることが多くなってきています。そのような中で、従業員がうつ病で休職した場合に、会社として従業員にどのように接するかは非常に難しい問題です。休職中の対応や休職後に復職させる場合についても、判断に迷うことが多いと思います。本記事においては、従業員がうつ病で休職した場合の会社の対応についてご説明いたします。
目次
- 1 うつ病で休職した従業員への正しい接し方とは
- 2 休職命令の根拠となる就業規則
- 3 うつ病で休職させる際の対応
- 4 休職中の従業員との接し方
- 5 メンタルヘルス不調と職場復帰支援の有効活用
- 6 復職した従業員に接する際の注意点
- 7 うつ病と休職に関する裁判例
- 8 よくある質問
- 8.1 うつ病で休職と復職を繰り返す従業員への対処法を教えて下さい。
- 8.2 休職期間を満了しても復職できない場合、解雇とすることは可能ですか?
- 8.3 うつ病を発症した従業員に対して、言ってはいけない言葉はありますか?
- 8.4 職場におけるうつ病の兆候にはどのようなものがありますか?
- 8.5 うつ病を発症した従業員を放置した場合、会社は賠償責任を負うのでしょうか?
- 8.6 復職可能かどうか判断するため、休職者の家族からヒアリングすることは可能ですか?
- 8.7 復職する従業員を受け入れる際、会社にはどのような配慮が必要でしょうか?
- 8.8 うつ病で休職した従業員が復職した後も、面談は実施すべきでしょうか?
- 8.9 従業員の復職後すぐに残業させても問題ないでしょうか?
- 8.10 職場におけるメンタルヘルス不調を防止するには、どのような対策が有効ですか?
- 9 うつ病による休職者への対応でお困りなら、一度弁護士に相談することをお勧めします。
うつ病で休職した従業員への正しい接し方とは
メンタルヘルス不調による休職について
上述したように、近年はストレスにより、うつ病等によるメンタルヘルス不調を訴えるが多くなってきています。うつ病は、早期に発見して対応することが重要と言われています。職場でみられるうつ病の兆候としては、①遅刻や欠勤が増えてきたこと、②口数が減ってきたこと、③表情が曇りがちになってきたことと等が挙げられます。従業員に上述した兆候が見られた場合には、会社として、従業員に対して個別面談を行い、従業員の抱えている問題や状況を把握することが求められます。場合によっては、心療内科や精神科の受診を促すことも検討すべきです。
休職命令の根拠となる就業規則
従業員との個別面談や心療内科・精神科の受診により、うつ病と診断された場合には、会社としては、当該従業員に対して、休職命令を出すことを検討する必要があります。休職とは、会社が労働者に対して労務提供を一定期間猶予するものであり、労働者を解雇から保護する機能(解雇猶予措置)を有しています。
そして、休職制度は、労働基準法上の設置義務があるわけではなく、休職制度を設けることやいかなる場合に休職命令を出すことができるかについては、会社に委ねられており、休職制度を設ける場合には、休職命令の根拠として就業規則に定めておく必要があります。
うつ病で休職させる際の対応
休職制度について十分な説明が必要
会社の就業規則において、休職制度を設けていたとしても、従業員が休職制度を理解していない場合もあるため、改めて休職制度の趣旨(①休職が従業員から解雇から保護する機能を有していること、②労務提供を免除し、治療に専念して回復に努めるべきこと、③当該従業員に対して会社から休職命令を出す理由)を従業員に十分に説明した上で、従業員に理解を得ておく必要があります。従業員に十分な説明をせずに、会社が一方的に休職命令を出してしまうと、従業員との間でトラブルになる可能性がありますので、十分な説明を心がけましょう。
休職者の業務引継ぎにおける注意点
会社が従業員に命令を出した場合には、当該従業員(休職者)は、労務提供義務を一定期間免れることになります。しかしながら、労務提供を免れるといっても、他の従業員に対する業務の引継ぎについては、休職者においてできる範囲で行ってもらう必要があります。もっとも、休職者は、メンタルヘルス不調に陥っている状況に照らし、くれぐれも無理のない範囲で行ってもらうようにしましょう。
休職中の従業員との接し方
休職中の病状報告義務について
休職制度は、従業員に対して、労務提供を一定期間猶予し、労働者を解雇から保護する解雇猶予措置であるため、会社としても、復職の可能性を判断する上で、休職者の病状を定期的に把握しておく必要があります。そのため、会社から従業員に対して、休職期間中の病状を報告させること自体は可能と考えられます。
もっとも、休職者は、メンタルヘルス不調により、業務ができない状況にあるため、毎日の報告を求めるといった過度な報告を求めるのではなく、合理的な範囲で報告をさせるべきです。
メンタルヘルス不調と職場復帰支援の有効活用
メンタルヘルス不調による休職者に対して、安全でスムーズな職場復帰を支援するために、会社としては、①従業員から必要な情報収集(労働者の復帰の意思、産業医の意見等)を行い、②職場復帰の可否について判断し、③職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰日の選定、管理監督者による就業上の配慮、人事労務管理上の対応(人員配置、異動の有無)、産業医の助言)を作成します。
このような職場復帰支援を行うことで、メンタルヘルス不調による従業員が少しでも職場復帰が可能となるように会社として支援していく必要があります。
復職した従業員に接する際の注意点
復職時の声かけが重要
復職が実現した場合には、病気の再発や復職によって新たな問題が生じていないかといった状況を把握に努める必要があります。そのためにも、従業員に気を配り、声掛けを行い、さらに定期的に面談を実施して、復職後に従業員が配属された部署で安定して勤務ができているのか、本人の能力に見合っているのかを確認する必要があります。
配慮し過ぎると逆効果になることも
一方で、復職した従業員は、周囲の従業員に負い目を感じていたり、過度に特別扱いすることを嫌う方もいます。そのため、そのような従業員に対して、過度に復帰を祝ったり、「頑張れよ」「応援している」等の声掛けを行うことで、逆に精神的な負担が大きくなる危険性もあります。そのため、従業員に負担にならないかどうかを常に確認しつつ、本人の能力に応じて業務を与えていく必要があります。
うつ病と休職に関する裁判例
事件の概要
原告である会社の従業員が適応障害を発症し、被告である会社から私傷病休職を命じられ、休職期間の満了により自然退職とされました。従業員としては、自身が会社の復職要件を満たしていたと主張し、従業員としての地位確認と雇用契約に基づく賃金請求を求めた事案です。
なお、当該従業員に関しては、休職期間満了前に産業医から復職可能との判断を受けていたものの、会社は、従業員自身の能力不足や、双方向のコミュニケーションが成立しない場面が多いこと等を挙げ、復職を不可と判断しました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、結論として休職期間満了による自然退職を無効であると判断し、休職期間満了日以降も従業員の地位があるとして、会社に対して賃金の支払を命じました。
裁判所は、会社の復職の要件である「休職の理由が消滅した」とは、原則として「従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合」であることを示した上で、本件では、休職期間満了時には、適応障害の症状のために生じていた従前の職務を通常の程度に行うことのできないような健康状態の悪化は解消されており、会社が列挙した復職を不可とした各事由については休職理由とは別であり、このことは、解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了により退職という効果を生じさせるに等しく許されないと判断し、会社による自然退職を無効と判断しました(横浜地判令和3年12月23日)。
ポイントと解説
本裁判例によれば、休職者が「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復した」場合には、他の要因により、業務に支障があった場合であったとしても、会社として、復職を認めなければならないことになります。会社が産業医の意見等に反して、復職を認めず退職を進めることになると、退職処分自体が無効となる可能性があります。
そのため、会社としては、従業員が復帰する場合も念頭に置き、いかなる理由で休職命令を出すのかを、産業医等からも情報収集した上で、休職命令を出す必要があります。復帰する場合についても、産業医からの情報収集の上で従前の職務を行えることができるのかを確認しておく必要があります。
よくある質問
うつ病で休職と復職を繰り返す従業員への対処法を教えて下さい。
会社が就業規則の中で、休職制度を設け、休職期間が満了時に復職困難な場合に、自然退職とすることが定められている場合には、会社おいて、復職困難な従業員に対し、退職を求めていくことができます。ただし、従業員が、会社の退職処分を争う可能性がありますので、会社としては、退職処分を行うにしても、従業員との面談を行い、会社の規程や産業医の意見を踏まえた説明や通知を行い、会社が一方的な判断で退職処分をしたわけではないことを証拠化しておく必要があります。
他方で、従業員が復職を求め、会社側としても復職を認める場合には、上述したような職場復帰支援を行い、従業員との協議の上で再発予防に努め、従業員が再び休職に至らないように配慮していく必要があります。
休職期間を満了しても復職できない場合、解雇とすることは可能ですか?
会社が就業規則の中で、休職制度を設け、休職期間が満了時に従業員が復職困難な場合に、自然退職とすることが定められている場合には、会社が当該就業規則に従って休職命令を出し、休職期間が満了時に復職が困難である場合には、自然退職とすることができます。
仮に、自然退職とすることができず、従業員を解雇する場合には、以下の点に注意する必要があります。①休職原因が、業務に由来する傷病である場合には、解雇が制限されるため、傷病の原因を確認する必要があります。②休職期間が満了後に解雇したとしても、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効と判断される可能性があるため、解雇する場合には、解雇の理由に合理性があるのかどうか、解雇という処分が相当なものかを検討する必要があります。
うつ病を発症した従業員に対して、言ってはいけない言葉はありますか?
- 「頑張れ」、「努力しろ」などの励ます言葉
- 「甘えるな」、「怠けるな」などの厳しい言葉
- 「大丈夫?」、「心配しているよ」などの過度な心配の言葉
- 「いつ直るの?」「早く治してね」などの焦らせる言葉
この中でも、特に励ます言葉や心配する言葉は、うつ病の方にとってプレッシャーになってしまう可能性があるため、注意が必要です。あくまでも、相手に共感する姿勢を忘れない接し方をしましょう。
職場におけるうつ病の兆候にはどのようなものがありますか?
うつ病の兆候としては、以下のようなものがあげられます。
- 突発的な遅刻や欠勤が増加してきたこと
- ケアレスミスや些細なミスが多くなったこと
- 集中力を欠き、表情も曇りがちになってきたこと
うつ病を発症した従業員を放置した場合、会社は賠償責任を負うのでしょうか?
職場に関連するストレスが原因でうつ病を発症した従業員に対して、会社が行うべき適切な対応を行うことを怠った場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
復職可能かどうか判断するため、休職者の家族からヒアリングすることは可能ですか?
休職者からの同意があれば、休職者の家族から状況をヒアリングすることは可能です。
もっとも、上述したように、うつ病の場合には、家族にヒアリングすることで従業員の焦りを誘発することも危惧されるため注意が必要です。
復職する従業員を受け入れる際、会社にはどのような配慮が必要でしょうか?
会社としては、復職した従業員が、病気の再発や復職によって新たな問題が生じていないかといった状況を把握に努める必要があります。
うつ病で休職した従業員が復職した後も、面談は実施すべきでしょうか?
会社としては、復職した従業員が、病気の再発や復職によって新たな問題が生じていないかどうかを把握する必要があり、そのためにも、従業員と定期的に面談を実施して、復職後に従業員が配属された部署で安定して勤務ができているのか、本人の能力に見合っているのかを確認する必要があります。
従業員の復職後すぐに残業させても問題ないでしょうか?
うつ病の原因としては、長時間労働に過労の影響も考えられるため、復職後すぐには、残業はできる限り控えるべきです。復帰直後は、本人の能力に応じた業務を与えていくべきと考えます。
職場におけるメンタルヘルス不調を防止するには、どのような対策が有効ですか?
メンタルヘルス不調の原因として挙げられているのは、①長時間労働による過労、②仕事の失敗や責任によるストレス、③対人関係やハラスメントによるストレス等と言われています。
そのため、会社としては、上記の原因をできる限り緩和していくことが求められます。①長時間労働が発生しないように、従業員の労働時間の把握に努め、適切に人員を配置していくこと、②仕事の失敗や責任を一人に押し付けるのではなく、仕事を分担した上で適切に業務を分業すること、③ハラスメント対策の研修や窓口を設置し、予防に努めることが求められます。
うつ病による休職者への対応でお困りなら、一度弁護士に相談することをお勧めします。
うつ病等のメンタルヘルス不調による休職者に対する対応は、非常に繊細な対応が求められ、会社が対応を一歩間違えれば、従業員と会社間でトラブルが発生する要因となります。そのため、会社として、うつ病等の休職者に対しては、適切かつ柔軟な対応が求めれます。
当法人においては、このような会社と従業員とのトラブルや労務案件を多数取り扱っており、労務問題に精通している弁護士が多数在籍しておりますので、お困り際には、いつでもご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
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- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
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- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
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