労務

テレワークで会社が行うメンタルヘルス対策とは

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • メンタルヘルス

新型コロナウイルス感染症の問題を契機に、テレワークを実施する民間企業が増えています。
テレワークは、インターネットなどのICTを活用することで、働く時間や場所を有効に活用できる働き方であり、就業環境のみならず私生活にも様々な影響をもたらします。
テレワークの導入に伴い、会社が行うべきメンタルヘルス対策も変化しています。

テレワークにおいてもメンタルヘルス対策が必要な理由

労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と使用者の安全配慮義務を定めています。
ここでいう「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれており、会社は、労働者の心の健康を確保することが義務付けられています。
テレワークの導入・運用により、これまでの働き方とは異なる、新たなストレス要因が生じることになるので、変化に応じたメンタルヘルス対策が必要です。

テレワークにおけるメンタルヘルス不調の現状

テレワークを導入・運用することで、労働者にとっては、通勤による心身の負担軽減や育児・介護と仕事の両立がしやすいといったメリットがあります。結果として、ストレスの軽減など、メンタルヘルスに良い影響をもたらすこともあります。
他方で、長時間労働になりやすい、コミュニケーションがとりづらい等、テレワークならではの問題が生じやすくなっています。

テレワークでメンタルヘルス不調が起きる主な要因

一般に、ストレス要因は、職場のストレス要因・職場以外の要因・個人的な要因に分けられますが、テレワーク実施によるストレス要因としては、主に以下のものが考えられます。

コミュニケーション不足になりやすい

上司や同僚等との何気ない会話や相談がしづらくなり、悩みを抱え込んだり、コミュニケーション不足による孤独感を感じたりする労働者が多くなっています。
また、一人暮らしの場合、より疎外感や孤独感等を感じやすい傾向があります。

仕事とプライベートの切り替えが難しい

通勤がなく、いつまでも業務を行うことができるため、仕事とプライベートの区別があいまいになってしまうことも、ストレスの要因として挙げられます。

上司からの評価に不安がある

テレワークで働く労働者とそうでない労働者の処遇や評価について、不公平感を感じたり、不安を抱いたりすることがあります。

作業環境が整っていない

自宅等の作業環境が整っていないため、仕事に集中できなかったり、作業効率が低下したりすることもストレスの要因となります。

運動不足になりやすい

通勤や外出等が無くなることで運動不足に陥りやすく、また、働き方が変わることで生活リズムが崩れやすくなっています。

従業員のメンタルヘルス不調を知らせるサインとは?

テレワークの実施により、従業員の様子が見えづらく、メンタルヘルス不調の予兆に気付きにくくなっています。
ストレスチェック制度やオンラインでの面談を活用しながら、従業員の心身の状況を確認しましょう。

テレワークで会社が行うメンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策では、①職場環境等の改善によりメンタルヘルス不調を未然に防止すること、②メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を行うこと、③メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行うことが重要です。

定期的にオンライン面談を行う

テレワーク下では、上司等が労働者を現認できないことから、労働者の状況が把握しづらくなってしまいます。
定期的にオンライン面談を行うなど、労働者の心身の状況や変化を把握できるような仕組みの整備が望ましいでしょう。

健康に関する相談窓口を設置する

人事評価等を気にせず、働き方や心身の健康などの相談ができる対応窓口を整備することも、従業員のメンタルヘルス不調を早期発見するのに有用です。

ストレスチェックを実施する

ストレスチェック制度を整備しましょう。
ストレスチェックの集団分析結果を活用することで、職場環境の実態把握とともに改善につなげやすくなります。

メンタルヘルスに関する教育研修を実施する

メンタルヘルスに関する教育研修を実施し、従業員の関心を持ってもらうことも重要です。
特に、従業員自身によるセルフケアは、心身の健康を確保するのに非常に有用です。研修等を通じて周知しておきましょう。

労働時間の管理を徹底する

テレワークの場合における労働時間の管理を明確にしておくとともに、労務管理や業務管理を的確に行うことができるようにすることが望まれます。
ツールを有効活用し、労働時間の見える化等の取組みを進めるなど、上司による労働時間管理や業務管理を促進しましょう。

テレワークに適した作業環境に整備する

作業環境が整っていないこともストレスの要因になります。
シェアオフィス等、自宅以外での作業場所を用意したり、作業環境を整えるために必要な費用の一部若しくは全部を会社が負担したりするなどして、労働者の作業環境を整えましょう。

必要に応じて産業医と連携を図る

メンタルヘルス不調の早期発見や、メンタルヘルス不調の従業員へ適切な対応をするためには、必要に応じて産業医と連携をとることも重要です。

メンタルヘルスと使用者の安全配慮義務に関する判例

メンタルヘルスに関する裁判例として、電通事件(最判平成12年3月24日、民集54巻3号1155頁)を紹介します。

事件の概要

大手広告代理店に入社したBは、入社2ケ月後から長時間に及ぶ残業が常態化した。Bは、業務過多による長時間労働が継続することで睡眠不足に陥り、結果、心身共に疲労困憊した状態になり、うつ病にり患した。その後、Bはうつ病によるうつ状態が深まって、突発的に自殺するに至った。
上記事情のもとBが自殺したことにつき、Bの相続人が、会社に対し、使用者責任に基づく損害賠償を求めた事案。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」
「原審は、右経過に加えて、うつ病の発症等に関する前記の知見を考慮し、Bの業務の遂行とそのうつ病り患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、Bの上司であるD及びEには、Bが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告の民法七一五条に基づく損害賠償責任を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる。」

ポイント・解説

本判決は、労働者の過労自殺につき会社の責任を認めた、初の最高裁判決です。
最高裁は、使用者の安全配慮義務には、その内容として「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」が含まれることを明確にするとともに、労働者の業務量や労働時間等に関する使用者の管理責任を厳格に捉え、企業の賠償責任を認めました。

テレワーク下でのメンタルヘルス対策は、弁護士への相談をおすすめします。

働き方の多様化に伴い、会社が行うメンタルヘルス対策も変化しています。
会社の労務管理の上でも、労働者の心の健康を確保することの重要性は高まっており、社会的・法的に適切な制度や体制の整備が求められています。
新たに従業員のメンタルヘルス対策をお考えの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
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