監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 不当労働行為
支配介入に該当した場合には、労働委員会による救済命令の発令や、不法行為に基づく損害賠償請求を受けるリスクが生じます。こうしたリスクは、単なる財産的損害にとどまりません。
不当労働行為と認定されると、企業名等が公表される場合があり、それによるレピュテーション(企業名声)の低下は、時として想定外の損害をもたらします。
そのため、本記事では、「支配介入の不当労働行為と適切な対策」についてわかりやすく解説します。
目次
不当労働行為の「支配介入」とは?
労組法7条3号において、「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを使用者が支配し、若しくはこれに介入すること」を禁止しています。また、「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」も一律に禁止しています。
支配介入の主体は、法人代表者(社長)に限定されず、管理職や従業員等による行為も含まれます。
このような規定の趣旨は、労働組合の自主性・独立性を確保し、その団結力を維持・強化することにあると考えられております。
この趣旨から、支配介入とは、「労働組合の自主的な運営・活動に対して使用者が干渉・妨害するなどして労働組合を弱体化する行為」を指すと解され、「組合弱体化行為」とも呼ばれます。
支配介入の不当労働行為に該当した場合のペナルティ
支配介入に該当した場合の不利益(ペナルティ)は、大きく分けて労働委員会による「救済命令」と、裁判所における「民事責任」の2つがあります。
まず、労働委員会による「救済命令」では、支配介入行為を具体的に特定して禁止する命令に加え、今度同様の行為を行わない旨の誓約する文書を事業場内に掲示する「ポスト・ノーティス」や、同内容の文書を組合へ交付すること等が命じられます。
なお、確定した救済命令に違反した場合は、50万円以下の過料に処せられることがあります。
次に、裁判所における「民事責任」では、支配介入が不法行為(民法709条)に該当するとして、慰謝料等の支払いが命じられる場合があります。
どのような行為が支配介入の不当労働行為にあたるのか?
支配介入として禁止される行為には、主に以下のようなものが挙げられます。
- ① 組合の組織・運営に対する批判的言動
- ② 労働組合の運営経費に対する支出などの経理的援助
- ③ 合理的な理由のない便宜供与の中止・拒否
- ④ 正当な組合活動に対する損害賠償請求
①組合を批判する言動
労働組合の結成に対する非難や、正当な組合活動への妨害・誹謗中傷は、不当労働行為(支配介入)に該当する可能性があります。
裁判例では、以下のようなケースで支配介入が肯定されています。
- 物理的な妨害行為のケース:
学校法人が運営する専門学校の校舎正門前において、組合員により行われていたビラ配布を、法人が2回にわたり妨害した事案(学校法人文際学園(非常勤講師)事件・東京高判令和元・8・8)。 - 過重な懲戒処分による組合弱体化:
正当な組合活動とはいえない場合であっても、その組合活動に対する懲戒処分が懲戒事由に比して著しく過重で、かつ使用者の「組合嫌悪」の感情に基づいてなされたと認められる場合には、組合弱体化を目的とした支配介入に該当しうると判断されています(JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・最一小決平成11・11・11、医療法人光仁会事件・東京高判平成21・8・19)。
②経費援助
経費援助に該当するものとしては、従業員の身分を残したまま、組合員としての活動に専念する者(在籍専従者)の給与を負担すること、労働時間中の組合活動に対して給与を支払うこと、組合事務所の水道光熱費や電話料金を負担すること等が挙げられます。
一方で、会社が給与を支払わない形での在籍専従や、組合員に代わって会社が賃金から組合費を天引きし、組合に引き渡す、いわゆるチェック・オフ等は、経費援助に該当しないため、不当労働行為にはあたらないと解されています。
③便宜供与の中止や拒否
長年継続してきた労使慣行を使用者が一方的に破棄することは、不当労働行為のリスクを伴います。
慣行を解消する際には、労働組合に対して正当な理由を示し、ルール変更に向けた誠実な交渉を行うことが強く要請されます。
近時の裁判例においても、手続的配慮を欠く慣行の廃止について、厳しい判断がなされています。
- 長年無償で実施してきたチェック・オフを有償に切り替えたうえで、それに対し支払いに応じなかった労働組合に対するチェック・オフを一方的に中止し、それに関する団体交渉も拒絶したことは、団交拒否および支配介入に該当すると判断されました(泉佐野市(チェック・オフ)事件・大阪高判平成28・12・22)。
- チェック・オフを廃止せざるを得ない相当な理由が認められず、また、労働組合への事前説明、十分な猶予期間の設定といった手続的配慮も欠いたチェック・オフの廃止は、支配介入に該当すると判断されています(大阪市(チェック・オフ事件)・東京高判平成30・8・30)。
④組合活動に対する損害賠償請求
正当な組合活動に対して、損害賠償請求を行うことは、支配介入(不当労働行為)に該当する可能性があります。
この点について、組合が法人の関連医療機関等(約50箇所)へ要請文を配布した行為に対し、法人が名誉毀損等を理由に損害賠償訴訟を提起した事案があります。
労働委員会は、裁判所へ訴えを提起する権利を制限することには慎重であるべきとしつつも、特段の事情がある場合には支配介入にあたると判断しました(大阪府労委 令和2年(不)第27号)。
支配介入として不当労働行為にならないための対策
以上の内容を踏まえ、管理者が支配介入(不当労働行為)を回避するために遵守すべき重要なポイントは、次の5点に集約されます。
- ① 組合結成に対する中立性の維持:
労働組合の結成そのものを否定・非難する言動を避け、憲法および法律で認められた権利であることを尊重する。 - ② 正当な組合活動の受容:
ビラ配布や団体交渉などの正当な活動に対し、誹謗中傷や非難の声を浴びせない。 - ③ 組合運営に対する不当な干渉の禁止:
物理的な妨害はもちろん、役員選挙への介入や、組合員に心理的圧力を与えるような「組合離れ」を促す言動を控える。 - ④ 労使慣行の変更における誠実なプロセス:
掲示板の使用やチェック・オフなど、長年の慣行を変更・廃止する場合は、一方的な通告を避け、組合と誠実な協議・交渉を行う。 - ⑤ 組合間の中立保持(複数組合併存時の平等):
特定の組合に対してのみ便宜を供与したり、逆に特定の組合を冷遇したりするなど、組合間の勢力関係に影響を与えるような差別的取扱いをしない。
支配介入が成立する要件を理解しておく
以下では、支配介入の成立要件について、「主体」「意思」「態様」「結果」という4つの観点から詳しく解説していきます。具体的には、以下の項目が不当労働行為の要件として必要とされるのか、また実務上どのように判断されるのかを深掘りします。
- ① 主体の問題:誰による行為が支配介入となるのか
- ② 意思の問題:どのような目的や意図(反組合的意図など)が必要か
- ③ 態様の問題:どのような性質・形態の行為が禁止されるのか
- ④ 結果の問題:実際に組合の弱体化などの事態が生じる必要があるのか
支配介入の主体
支配介入の主体は、必ずしも法人自身や代表者に限定されません。役員、管理職、さらには一般従業員や第三者による行為であっても、一定の要件を満たせば「使用者の行為」とみなされます。
行為者の立場に応じた判断基準の類型は以下の通りです。
- ① 会社役員(社長、取締役など)
判断:原則としてすべて「使用者」の行為となります。 - ② 上級管理職(部長、課長など)
判断:個人的な動機による例外的な場合を除き、その言動は「使用者」の行為とみなされます。 - ③ 現場管理者(係長、班長など)
判断:職務上の権限や責任に基づいて行われた場合、あるいはその立場を利用して行われた場合は、「使用者」の行為となります。 - ④ 一般従業員
判断:使用者(会社側)の具体的な指示や要請に基づいて行われた場合には、「使用者」の行為となります。
支配介入の意思
そもそも、支配介入の成立に「意思」が必要か否かについては、古くから議論があります。
実務上の通説的な見解によれば、労働組合を弱体化させようとする「積極的な意図(企図)」までは必要とされませんが、少なくとも自身の言動が組合の組織・運営に影響を及ぼすという「反組合的な認識」(組合への非難や嫌悪など)は、要件として必要であると考えられています。
支配介入の態様
支配介入の態様は、前述の通り多種多様です。また、これらは独立した類型ではなく、「不利益取扱い(7条1号)」や「団体交渉拒否(7条2号)」に該当する行為が、同時に「支配介入(7条3号)」を構成することも少なくありません。
例えば、賃上げ・一時金・昇格等において、合理的な理由なく組合員と非組合員との間に格差を設ける行為は、個々の労働者に対する「不利益取扱い」であると同時に、組合の組織力を削ぐ「支配介入」にも該当します。
支配介入の結果
支配介入の成立にあたって、組合の結成が実際に妨害されたり、組織が弱体化したりといった「具体的な結果」が生じる必要があるかが問題となります。
この点について、実務上、現実の結果が発生することは支配介入の要件ではないと考えられています。
弁護士のアドバイスを受ける
これまで述べてきた通り、支配介入に該当した場合は、労働委員会による救済命令を受ける大きなリスクがあります。
特に留意すべきは、不当労働行為と認定された場合、労働委員会の年報等で企業名や事件の概要が公表される点です。これは、レピュテーション(評価)低下を招き、想定外の損害につながりかねません。
しかしながら、支配介入の判断基準は極めて広範かつ抽象的であり、会社側が「正当な業務命令」と考えていた行為が、法的には不当労働行為とみなされるケースも少なくありません。
こうした事態を未然に防ぐためには、日頃から労務顧問などを通じて、弁護士に即時相談できる体制を整えておくことが重要かつ有益です。
社内に複数の労働組合がある場合の注意点
職場内に複数の労働組合が併存する場合、使用者はそれぞれの組合に対して平等に接し、「中立保持義務」を遵守しなければなりません。
もし使用者が特定の組合を優遇したり、逆に特定の組合に対して冷遇や差別的な取扱いを行ったりした場合は、中立保持義務違反となります。こうした行為は、当該組合に対する「支配介入」や、組合員に対する「不利益取扱い」として、不当労働行為に該当する可能性があります。
支配介入の不当労働行為について争われた裁判例
労働協約に基づき設置された組合掲示板については、「掲示物が会社の信用を毀損し、個人を誹謗中傷し、あるいは事実に反して職場秩序を乱すものである場合」などに、使用者がそれを撤去できる旨の規定(撤去規定)が設けられるのが一般的です。
こうした撤去規定の行使を巡っては、使用者の行為が正当な施設管理権の範囲内か、あるいは組合活動を不当に抑制する「支配介入」にあたるのかが争点となる事案が多く存在します。
事件の概要
労働協約に基づき使用が認められていた掲示板に掲示物を掲出したところ、会社側から「協約上の撤去要件に該当する」として撤去された事例。
裁判所の判断
裁判所は、利用条件の違反を判断するに際しては、当該掲示物が全体として何を訴えようとしているのか中心として実質的に判断すべきであり、掲示物の記載内容のうち細部によって判断すべきではなく、このような見地から当該労使関係の状況、掲示の経緯、掲示物の内容が会社の信用や業務遂行に与える影響などを考慮して、当該掲示物の掲示が正当な組合活動として許容される範囲を逸脱していないと認められれば、使用者による掲示物の撤去は組合活動に対する妨害として、支配介入に該当すると判断しました。
(JR東海(大一両・掲示物撤去第1)事件・東京高判平成19・8・28)
(JR東海(大一両・掲示物撤去第2)事件・東京高判平成19・5・30)
ポイントと解説
上記判決の一審判決は、利用条件は文言通りに解釈されるべきであり、掲示物の内容が細部においてであっても利用条件の文言に抵触する場合には、組合側が「特段の事情」を立証できない限り、撤去は支配介入には当たらないとの判断を示しました。
すなわち、一審は利用条件を形式的に解釈し、それに違反する掲示物の撤去は原則として支配介入に該当しないと判断しました。
これに対し、控訴審は、掲示物の記載内容のうち一部の表現のみをとらえて判断すべきではなく、当該掲示が全体として何を訴えようとしているのかを中心に据えて実質的に判断すべきであるとしました。
その上で、労使関係の状況や掲示の経緯、会社の信用・業務遂行への影響などを総合的に考慮し、掲示行為が正当な組合活動の範囲を逸脱していないと認められる場合には、使用者による撤去は組合活動に対する妨害として支配介入に該当すると判示し、一審判決を覆しました。
なお、本件における掲示物の撤去の可否は、労働協約に基づく組合の利用権を前提とした利用条件(撤去要件)の解釈をめぐる争いです。したがって、そもそも利用権自体が存在しない状況での利用行為に関する事案とは、事案の性質を異にします。
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