監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 労働者派遣法
近時の労働者派遣法の大きな労働者派遣法の改正といえば、2020年改正(平成30年)改正が挙げられるでしょう。
本稿では、2020年労働者派遣法改正の概要と、改正によって求められる派遣元・派遣先企業の対応という観点を中心として労働者派遣法における近時の法改正制度を解説します。
目次
労働者派遣法の近時の改正内容とは?
近時の労働者派遣法改正においては、以下で説明いたしますように「同一労働同一賃金」の理念が強く表れた改正内容となっています。
「同一労働同一賃金」の推進を目的とした2020年の法改正
「同一労働同一賃金」とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の待遇格差の解消を目指すものです。
「同一労働同一賃金」の内容は、『均等待遇』と『均衡待遇』に分けられるものとされています。 『均等待遇』とは、職務内容及び職務内容と配置の変更範囲が同一であれば、その待遇を均等にしなければならないという意味です。
『均衡待遇』とは、待遇差が認められる場合であっても、諸般の事情を考慮して不合理と認められる待遇差であってはならないという意味です。
2020年の労働者派遣法改正も、これらを満たすことを目指した改正となっています。
2020年の改正内容と3つのポイント
2020年における改正内容は、大きく分けると①待遇を決定する際の規定の整備、②派遣元企業から派遣労働者に対する説明義務の強化、③裁判外紛争解決手続(行政ADR)規定の整備の3つに分けられます。
①待遇を決定する際の規定の整備
派遣労働者と派遣先の労働者との不合理な待遇差の解消を目的として、派遣労働者の待遇につき、A【派遣先均等・均衡方式】もしくは、B【労使協定方式】のいずれかの待遇決定方式を採らなければならないことが義務化されました。
A【派遣先均等・均衡方式】を採用する場合、派遣労働者につき、派遣先の通常の労働者との関係でⅰ職務内容及び職務内容と配置の変更範囲が同じ場合には同一の待遇としなければならず、ⅱこれらが異なる場合でも事情の違いを考慮して合理的な待遇差の範囲内にとどめなければなりません。
これに対し、B【労使協定方式】を採用した場合には、労使協定で決定された待遇については、派遣先の労働者との均等均衡待遇は求められません。ただし、過半数労働組合又は過半数代表者と派遣元企業との間で派遣労働者の保護が十分図られるとされる要件を満たしている労使協定を書面で締結し、この労使協定で定めた事項を遵守する必要があります。
また、労使協定が一定の事項を満たしていない場合、労使協定で定めた事項を遵守していない場合には、B【労使協定方式】ではなく、A【派遣先均等・均衡方式】を採用したものと扱われますので注意が必要です。
派遣先企業から派遣元企業への情報提供義務について
A【派遣先均等・均衡方式】B【労使協定方式】のいずれを採用する場合でも、派遣先企業は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ派遣元企業に対して、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者(本稿では細かい定義は割愛いたしますが、派遣労働者と職務の内容等が同じ労働者等を指します。)の賃金等の待遇に関する情報を提供することが必要になりました。
派遣先企業が提供する「待遇に関する情報」とは?
派遣先企業が派遣元企業に提供する「待遇に関する情報」の内容は、A【派遣先均等・均衡方式】と、B【労使協定方式】のいずれを採用しているかによって異なります。
を採用する場合には、比較対象労働者の①職務内容、②配置変更の範囲、③雇用形態、④選定理由、⑤待遇の内容・性質・目的・考慮した事項に関する情報の提供が必要となります。
これに対し、B【労使協定方式】を採用する場合には、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に、①業務遂行上必要な能力を習得させるために実施する教育訓練、給食施設、休憩室、更衣室に関する情報の提供が必要となります。
②派遣元企業から派遣労働者に対する説明義務の強化
2020年労働者派遣法改正により、派遣元企業が派遣労働者に対して行うべき説明義務が強化されました。具体的には、以下の説明が必要となります。
雇い入れや派遣する際の説明
派遣元企業は派遣労働者を雇い入れる際、労基法15条1項による労働条件明示義務に加えて、派遣労働者にとって重要である労働条件に関する事項の明示及び不合理な待遇差を解消するために講じている措置の内容についての説明が必要となりました。
また、A【派遣先均等・均衡方式】を採用する場合には派遣元企業は派遣労働者を派遣する際、労派遣法34条1項の就業条件明示義務に加えて、労働条件に関する事項の明示及び不合理な待遇差を解消するために講じている措置の内容についての説明が必要となりました。
なお、B【労使協定方式】を採用する場合には、派遣時の労働条件明示に関しては、労派遣法34条1項のほかは、労使協定対象の派遣労働者か否か(対象である場合には労使協定の終期)の明示で足ります。
派遣労働者から求められた際の説明
派遣元企業は、派遣労働者から求めがあった場合には、派遣先企業から提供された待遇等に関する情報に基づいて、派遣労働者と派遣先の比較対象労働者との待遇の相違の内容及び理由等について説明することが必要となります。
具体的には、A【派遣先均等・均衡方式】を採用している場合は、①派遣労働者及び比較対象労働者の待遇決定に当たって考慮した事項の相違の有無、②派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容、または、派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の実施基準についての説明が必要となります。
これに対して、B【労使協定方式】を採用している場合は、労働者の賃金につき、①派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均賃金額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの、②労使協定に定めた公正な評価、これらに基づいて決定されていることについて説明する必要があります。
③裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
派遣労働者に関する紛争の早期解決を図るべく、裁判によらずに解決する手続である行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)が整備されることとなりました。
行政ADRの対象となる派遣労働者に関する紛争については、都道府県労働局長による助言・指導・勧告や調停会議による調停による解決が可能となりました。
改正で追加された派遣先企業の義務項目とは?
本改正によって、上記以外にも派遣先企業が新たにしなければならない措置が追加されています。上記で紹介したものも含めると、追加された派遣先企業の義務項目は以下のとおりとなっています。
(1)派遣元企業に対する比較対象労働者の待遇に関する情報の提供の義務
(2)派遣料金につき、待遇改善に関する配慮義務
(3)労働者派遣契約における必要的記載事項の追加
(4)派遣先管理台帳における必要的記載事項の追加
(5)一定の派遣労働者に対する教育訓練の実施義務
(6)派遣労働者に対するは派遣先労働者利用の給食施設、休憩室及び更衣室の利用機会付与の義務
(7)適正な就業環境の維持及び派遣先が設置運営し、派遣先労働者が通常利用している各種施設の利用に関する便宜の付与に関する配慮義務
(8)派遣元企業の説明が適切に講じられるようにするための情報提供に関する配慮義務
2020年労働者派遣法改正における罰則規定
2020年労働者派遣法改正によって、罰則や違反に対する処分の規定も変わっています。
(1)事業報告書への労使協定書の不添付の場合
2020年労働者派遣法改正によって、B【労使協定方式】を採用している派遣元企業は、事業報告書に労使協定書を添付して提出する義務が追加されました。
この添付がない場合には、労派遣法50条に基づく報告を求められることになりますが、これに従わない場合には30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります。
(2)派遣先企業が比較対象労働者の情報を提供しなかった場合、派遣元企業が提供された情報が3年間保存しなかった場合
2020年派遣法改正によって、派遣先企業が派遣元企業に対して比較対象労働者の情報を提供する義務が追加されました。
これに反した場合には勧告がなされ、さらにこれに従わなかった場合には公表されることがあります。
また、派遣元企業が、比較対象労働者の情報の提供に係る書面につき3年間保管する義務に反した場合、許可取り消し、事業停止命令及び改善命令の対象となります。
(3)不合理な待遇の禁止等に関する規定に違反した場合
2020年労働者派遣法改正によって、A【派遣先均等・均衡方式】もしくはB【労使協定方式】のいずれかによる派遣労働者の待遇確保が義務化されました。
派遣元企業がA【派遣先均等・均衡方式】を採用しているにもかかわらず、不合理な待遇の禁止等に関する規定に反した場合には、許可取り消し、事業停止及び改善命令の対象となります。
(4)待遇に関する事項等の説明義務違反の場合
2020年労働者派遣法改正によって、派遣元企業の派遣労働者に対する説明義務が強化されました。
かかる説明義務違反がある場合には、許可取り消し、事業停止及び改善命令の対象となります。
A【派遣先均等・均衡方式】の場合には、B【労使協定方式】と比べて説明しなければならない事項が多くなるため、一層の注意が必要となります。
(5)紛争解決に向けて援助を求めたことを理由として派遣労働者に不利益取扱いを行った場合
2020年労働者派遣法改正によって、行政ADRが利用できるようになりました。
派遣労働者が行政ADRを利用したことなどを理由として、派遣元企業が解雇等の不利益な取り扱いをした場合には、許可の取り消し、事業停止及び改善命令の対象となります。
労働者派遣法改正の歴史
労働者派遣法は昭和61年7月1日に施行されて以来、多くの改正を経てきました。
2020年改正が重きを置いている派遣労働者の均衡待遇の確保ですが、これは2012年改正によって明文化され、それ以来改正を経るごとに取り組みが強化されています。
これまでの改正経緯は以下のようになっております。
2012年施行の改正内容
2012年の改正では、①関係派遣先への労働者派遣の報告規制・割合制限、②日雇派遣の原則禁止、③離職労働者についての労働者派遣禁止、④労働契約申込みみなし制度を中心とした改正でした。
この改正では、派遣労働者の均衡待遇確保のための規定として、均衡待遇の配慮義務、派遣元企業の派遣労働者に対する待遇に関する説明義務の規定が設けられました。
2015年施行の改正内容
2015年の改正では、①労働者派遣事業の許可制一本化、②派遣期間の規制緩和、③雇用安定措置、④キャリアアップ措置、⑤均衡待遇の推進を中心とした改正でした。
特に、⑤均衡待遇の推進としては、派遣元企業の派遣労働者日に対する説明事項の追加、派遣先企業による一定の教育訓練、施設の利用及び情報提供等に関する配慮義務が追加されました。
労働者派遣法の改正で求められる企業の対応
均衡待遇の推進はこれまでの改正でもなされてきましたが、2020年の改正では本稿で紹介したように「同一賃金同一労働」の理念の下、これまで以上に大きな変更がなされています。
2020年労働者派遣法改正によって、A【均等・均衡方式】かB【労使協定方式】のいずれかを採用しなければなりません。
A【均等・均衡方式】であれば、派遣労働者と派遣先労働者との待遇の相違を整理した上で、派遣先に応じて勤務体系や賃金規程の見直しを検討する必要があり、B【労使協定方式】であれば、派遣労働者保護の観点から一定の水準を超える労使協定を適正な手続で締結することが必要となります。
また、行政は義務の不履行を指摘しやすい情報提供、明示、説明義務違反についての行政指導から格差是正への介入を行うことが予測されることからすると、これら義務を履行できるよう十分な準備が必要となります。
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このように、2020年労働者派遣法改正によって派遣元・派遣先企業が対応しなければならない事項は多岐にわたります。
そして、これら対応に失敗した際には、行政による介入も想定されるところであり、かかるリスクを避けるには企業法務に精通した弁護士の協力が必要となります。
弁護士法人ALG&Associatesには企業法務に精通した弁護士が多数在籍しています。 労働者派遣法改正に伴う対応でお悩みでしたら、我々にご相談下さい。
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