労務

対象となる労働者の範囲と清算期間

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • フレックスタイム

本項では,フレックスタイム制を採る場合の対象となる労働者の範囲と清算期間についてご紹介させていただきます。
フレックスタイム制の導入を考えている企業様におかれましては一読いただけますと幸いです。

フレックスタイム制の対象となる労働者とは

まずは,フレックスタイム制を採ることとした場合,具体的にどの労働者に制度の適用がなされるのか。この点を見誤ってしまいますと,会社の思惑とは違った運用となりかねませんので,きちんとチェックすることが必要です。

パートやアルバイトも対象となるのか?

フレックスタイム制において正社員のみが対象とされているわけではありませんので,パート・アルバイトについてもフレックス制の対象にすることもできますし,正社員のみを対象とすることもできます。

特定の部署や個人ごとに適用させることは可能か?

フレックスタイム制を設ける場合,事業場の労使協定において,対象となる労働者の範囲を定める必要があるとされています。この労働者の範囲において,特定の部署や特定の個人のみを対象とすれば,フレックスタイム制をその者のみに適用することは可能となります。

フレックスタイム制の適用除外について

上述のように,フレックスタイム制は,全従業員ではなく,部署ごとや特定の個人のみに適用することが出来る制度です。そのため,フレックスタイム制を導入するにあたっては,不適格と思われる従業員は,制度の適用外としておくことが考えられます。このようにフレックスタイム制を採るに際しては,対象とする従業員の範囲についてしっかり検討することが重要となります。

フレックスタイム制の「清算期間」とは

フレックスタイム制を採るにあたっては,清算期間を決める必要があります。
清算期間とは,労働者が働く総時間の基準となる期間であり,労働者はその清算期間中に〇〇時間働くというような形になります。

清算期間の長さと起算日は会社が決定する

清算期間の長さや,いつを清算期間の初日にするかについては会社がこれを決定し,労使協定の中に盛り込むことになります。

部署ごとに清算期間を設定することも可能

清算期間については必ずしも統一的に定める必要はなく,労使協定において明記すれば,部署ごとや個人ごとに変えた取り扱いをすることも可能となります。

法改正により清算期間の上限が「3か月」に延長

元来,清算期間の上限は1か月とされていたのですが,平成30年の法改正により,清算期間の上限が3か月に延長することとなりました。
これにより,以下の通りこれまでより柔軟な運用が可能になりました。

清算期間が延長されると何が変わるのか?

清算期間が3か月まで延びることにより,これまで1か月の中でしかできなかった労働時間の調整が月をまたいで行うことが出来ることになりました。これまでより繁忙期への対応等が柔軟にできるようになり,従業員においても,より長いスパンで自身の都合による労働時間の調整ができるようになりました。

清算期間中に昇給があった場合

清算期間の途中で昇給があった場合には,昇給があった月以降の賃金支払い日については,昇給後の給与を支払う必要があります。また,残業等による割増賃金についても,昇給後の金額を前提として計算しなければなりません。

清算期間を変更する手続きについて

清算期間を変更する場合,フレックスタイム制を導入した際と同じように,労使協定の締結及び就業規則の変更が必要になります。

また,仮に清算期間を変更し,3か月単位のフレックスタイム制を採ることとなった場合,その労使協定については労基監督署長への届け出が必要になりますので,注意が必要です。

清算期間における総労働時間と時間外労働

次に,フレックスタイム制を採った場合の時間外労働の考え方について説明させていただきます。

フレックスタイム制でも残業代は発生するのか?

フレックスタイム制でも一定の場合には残業代が発生することとなります。
例えば清算期間を1か月以内とする場合のフレックスタイム制の場合,1日や1週の労働時間が法定労働時間を超えることがあったとしても,清算期間を平均して法定労働時間(週40時間)を超えないのであれば残業代は発生しません。

しかし,清算期間の労働時間の合計がその期間の法定労働時間合計を超えた場合には,時間外労働となり,それに対して,残業代が発生することとなります。

残業代が発生するタイミングとは?

フレックスタイム制を採用していない場合,仮に1日に10時間労働をした場合,1日の法定労働時間は8時間とされていますので,この時点で2時間分の残業代が発生することとなります。

しかし,フレックスタイム制における残業は,清算期間ごとにその有無や時間数を判断することになるため,たとえ10時間労働を行う日があったとしても,清算期間で平均して法定労働時間内に収まっていれば,残業代は発生しないことになります。

なお,3か月単位のフレックスタイム制を採る場合,1か月で平均週50時間を超えた時間についてはその月の残業代として支払わなければならない点に注意が必要です(また清算期間の最後にも超過した部分については残業代の支払いが必要となります。)。

実労働時間が総労働時間に満たない場合はどうなる?

従業員が実際に働いた実労働時間が,フレックスタイム制で設けた清算期間中(清算期間①とします)の総労働時間に満たず,不足時間が生じている場合,次の清算期間(清算期間②とします。)の総労働時間にその不足時間を加算することは適法とされています。また,この場合,清算期間②に足された不足時間は,清算期間②の残業時間計算に当たって,参入する必要はありません(ただし,不足時間があった清算期間①においても給与を全額払っていることが必要です。)。

就業規則に規定する必要性について

フレックスタイム制を採る場合の要件としては①労使協定締結の他,②フレックスタイム制の対象となる労働者につき,始業・終業時刻を欠く労働者の決定に委ねる旨の内容を就業規則に定める必要があります。
そのため,フレックスタイム制を採用する場合には,就業規則も作成ないし変更の手続が必要となることにご留意ください。

後々のトラブルに発展しないよう、対象者や清算期間についてしっかりと定めておく必要があります。フレックスタイム制に関するお悩みは弁護士にご相談下さい。

フレックスタイム制は,使い方によっては有益であるものの,使い方を誤ると,従業員の生産性が低下したり,労使間のトラブルに発展しかねない制度になります。

そのため,フレックスタイム制の採用や運用についてお悩みを持たれている方は,ぜひ専門家たる弁護士にご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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