労務

離職票の離職理由に関する異議申し立ての対応

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 退職・解雇

離職理由によっては、退職後の待遇に差が生じることがあります。
この離職理由の判断要素のなかで特に大きな影響力をもつものが、離職票に記載されている離職理由です。そのため、離職票の離職理由に不服のある労働者から、異議申し立てをされることがあり、これに対する適切な対応を知っておく必要があります。

離職理由に関する労働者からの「異議申し立て」とは

離職理由に関して事実と異なると考える労働者は、その理由等を記載してハローワークに判断を求めることができます。この手続を、離職理由に関する異議申し立てといいます。

なぜ離職票の離職理由に関するトラブルが多いのか?

離職票の離職理由について、労働者の自己都合退職とするか会社都合退職とするかは、以下のように、労働者と会社にとって相反する関係にあります。そのため、労働者と会社との間でトラブルを引き起こす原因になりやすいといえます。

離職理由は失業給付の金額や支給期間に影響する

失業給付の金額や支給期間は、自己都合退職か会社都合退職かによって変動します。
労働者に帰責性のない会社都合退職の方が、労働者は手厚い保護を受けられることになります。

会社が受給する助成金との関係

会社が労働者を会社都合で退職させた場合、一定の期間受給できなくなる助成金が多く存在します。
このため、労働者側から会社都合退職にしてほしい等という要望があったとしても安易に応じるべきでないでしょう。

離職票の離職理由に異議を申し立てられたらどう対応すべき?

離職票の離職理由に対する異議申し立ては労働者がハローワークに対して行います。
ハローワークが労働者・会社双方の意見を聞いて判断を下すことになるため、会社は基本的にはハローワークの判断のために必要な協力をすれば足りるでしょう。

離職理由の訂正には必ず応じなければならないのか?

離職理由に異議申し立てがなされた段階では、離職理由の訂正には必ずしも応じる必要はありません。
離職理由が正当と考える理由を、根拠とともにハローワークに主張しましょう。

訂正する場合は離職票の再発行が必要

離職票を訂正する必要がある場合は、訂正届に訂正内容を証明する書類を添付して訂正を行います。

ハローワークによる調査の対応について

ハローワークは、双方の主張を正確に把握し、具体的な事実を調査していきます。
ハローワークの適切な判断を仰ぐためには、具体的な事実の把握に必要な調査に対して、協力すべき部分は協力する姿勢を持つのが妥当であるといえます。

会社が準備しておくべきものとは?

当該紛争の経緯や問題となっている退職理由の根拠となる資料などを必要に応じてまとめておくべきでしょう。

調査に応じなかった場合はどうなる?

ハローワークは双方の主張を確認します。会社側が調査に応じなかった場合、従業員の主張が一方的に行われることになり、会社側に不利な判断が下される可能性は高くなるでしょう。

離職理由を正しく選択するためには

離職理由で紛争が生じるのは、会社と従業員との間に、離職に至った経緯や離職に至った直接の原因と離職そのものとの間の因果関係などについて認識の違いがあるためです。離職までの経緯のなかで不明瞭な点や記録に残らないやり取りについて、具体的に書面などの資料に残し、双方の認識の齟齬がないようにすることが重要です。

離職理由の判断基準

離職理由は、離職票にどのように記載されているかが重視されます。
その記載内容に異議が申し立てられた場合、離職の経緯や根拠となる資料などから、実質的な判断が行われます。

特定受給資格者・特定理由離職者における注意点

特定受給資格者とは、会社が倒産した場合や解雇されてしまった労働者であり、自分の意思とは別の理由で離職を余儀なくされた者がこれにあたります。
他方で、特定理由離職者とは、特定受給資格者以外の者で、契約の更新がなされなかった労働者や、正当な理由による自己都合退職者などのことをいいます。
いずれも厚生労働省により要件が定められており、当該要件を満たさなければ失業給付などの優遇措置を受けることはできません。

会社が虚偽の離職理由を記載するとどうなる?

離職票に虚偽の記載をした場合、事業主には、6月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される可能性があります(雇用保険法83条参照)。
会社が虚偽の離職理由を記載し、それにより労働者が損害を被った場合、労働者から損害賠償請求をされるおそれがあります。特に、離職理由は失業給付等の優遇措置に関して影響力を持っているため、そのようなトラブルは避けがたいでしょう。
また、会社が助成金の申請を受けていた場合、虚偽の離職理由であることが判明すると返金を求められます。

離職理由の異議申し立てがなされた判例

離職理由について争いになった事案として以下のものがあります。 

事件の概要

この事案は、離職理由に自己都合退職と書かれた労働者が、退職金及び失業給付の面で経済的不利益を被ったとして会社に損害賠償請求を行ったものです。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

大阪地裁平成19年6月15日判決
裁判所は、当該労働者の退職は、退職に至る経緯や退職時の労働者の生活状況からすると、自己都合退職であると評価するのは妥当ではなく、むしろ会社が懲戒解雇等の処分に代えて退職を促した結果、労働者が退職届を提出したにすぎないと判断し、本件は会社都合退職であると結論づけました。

ポイント・解説

本件は、労働者が退職届を会社に提出していた事案ですが、退職届を提出するに至った経緯や、その当時の労働者の生活状況などから、実質的には労働者が退職届を出さざるをえない状況であった事情を裁判所が考慮し、会社都合退職と判断したことがポイントです。

離職理由について異議を申し立てられたら、弁護士に解決を委ねることが得策です。まずは一度ご相談下さい。

離職理由は、先に述べたように、失業給付等の優遇措置に大きな影響を及ぼし、金銭的な紛争を招きやすいものといえます。離職理由について異議が申し立てられた場合、会社としてはそれまでの経緯などを適切な根拠のもとに主張していく必要があります。
どのような処理を行うべきかは、事案によって様々です。処理方針に疑問が生じた場合には、ぜひ一度弁護士へご相談ください。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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