労務

内定取消しが許される合理的理由とは

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 内定取消

採用内定を出したものの、経営状況の悪化、面接時に把握していなかった事情の発覚等により、内定取消しを検討されることは比較的よくあることだと思います。
もっとも、内定取消しは無制限に行うことができるわけではなく、合理的理由が必要とされています。
以下では、内定取消しを行う際の注意点などについて、具体的に説明したいと思います。

なぜ内定取消しには合理的理由が必要なのか?

内定取消しは「解雇」と同等に扱われる

判例上、採用内定の法的性質は、「始期付解約権留保付労働契約」とされています(最二小判昭和54年7月20日、最二小判昭和55年5月30日)。
そのため、内定取消しは、すでに成立した労働契約を解約するということになるため、解雇の場合と同様に(労働契約法16条参照)、内定取消しを行う合理的な理由が必要ということになります。

内定取消しが許される「合理的理由」とは?

内定取消しが許される合理的理由については、単に内定通知書等に記載された取消事由に該当するということだけでは足りず、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」ことが必要です(前記最高裁判例)。
以下では、内定者側の事情によるもの、企業側の事情によるものにわけて説明します。

内定者側の事情によるもの

履歴書等に虚偽の記載があった

履歴書等に虚偽の記載があったとしても、全てのケースで内定取消しが認められるわけではありません。虚偽記載の内容や程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性が明らかになったといえることが必要となります。

学校を卒業できなかった

新卒者に内定を出す場合、企業側は学校を卒業することを前提に内定を出しているため、内定者が学校を卒業できなかった場合、当然に解約権を行使して内定取消しを行うことができると考えられます。

健康状態が著しく悪化した

健康診断などで業務に耐えられない程度の著しい健康異常が発見された場合も、内定取消しを行うことができると考えられます。
逆に言えば、業務に耐えられない程度とはいえないような健康異常の場合、内定取消しが認められない場合がありますので、注意が必要です。

重大な犯罪行為を行った

内定者が重大な犯罪行為を行ったことが判明し、それによって従業員としての不適格性が明らかになったといえる場合、内定取消しを行うことができる可能性があります。犯罪行為であれば内定取消しが認められるということではないため、慎重な判断を要します。

企業側の事情によるもの

整理解雇の4要素が参考にされる

企業側の経営状況の悪化を理由に内定取消しが行われる場合、整理解雇と同様の状況にあるといえますので、いわゆる「整理解雇の4要素」が参考にされます。整理解雇についてはこちら(URL)をご参照ください。

不当とみなされる内定取消し事由とは?

不当な内定取消しをするとどうなるか?

合理性を欠く内定取消しを行った場合、内定取消しによる労働契約の解約は無効となります。
そのため、内定者は裁判所に対して、内定取消しが無効であることを前提に、労働契約上の地位確認を求めることができます。また、内定取消しが無効となった場合、内定が取り消されなければ支払う必要があった賃金の支払や慰謝料の支払を命じられる可能性もあります。

内定取消しによるトラブルを回避するためには

内定通知書や誓約書への取消事由の明記

企業側としては、想定される内定取消しの事由について、内定通知書や誓約書などにできる限り具体的に明記すべきです。内定取消しは、労働契約に留保された解約権の行使のため、どのような解約権が具体的に留保されているかは、内定通知書や誓約書に記載された「取消事由」を手がかりとして判断されるからです。
取消事由の明記がない場合でも、内定取消しが認められることもありますが、企業側として想定される取消事由については具体的に記載しておくのがリスク回避につながります。
なお、取消事由として記載された事由が発生したとしても、常に内定取消しが認められるわけではないため、その点は注意が必要です。

内定取消し事由の正当性が問われた裁判例

事件の概要

Y社はXに対して中途採用者として内定を出していたところ、Xの前職時代に「悪い噂」があったという話をY社の従業員から聞いたため、一旦採用内定を留保していましたが、調査や再面接を行った結果、再度Xに対して採用内定を出しました。ところが、Xの「悪い噂」を他の従業員から聞くなどしたことから、Y社としてはXを受け入れることができないものと考え、内定取消しを行ったという事案です。
Xは内定取消しが無効であるとして、未払給与・慰謝料等の支払を求めました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

東京地判平成16年6月23日労判877号13頁

まず、裁判所は、採用内定を一旦留保し、調査、再面接後、再度、採用内定をした経過を考慮し、「本件採用内定取消しが適法になるためには、原告(X)の能力、性格、識見等に問題があることについて、採用内定後新たな事実が見つかったこと、当該事実は確実な証拠に基づく等の事由が存在する必要がある」旨判示しました。
そのうえで、Y社が採用内定取消しに用いた情報は、「あくまで伝聞に過ぎず、噂の域をでないものばかりであり、当該噂が真実であると認めるに足りる証拠は存在しない」と判示し、Y社による内定取消しは無効であると判断しました。
Y社に対しては、未払賃金の支払のほか、慰謝料100万円の支払も命じられています。

ポイント・解説

上記裁判例は、採用内定取消しの事由について、単なる「悪い噂」では認められず、客観的な証拠・資料に基づくことが必要であると判断した点にポイントがあります。
企業側が内定取消しを行うに際しては、どのような事由が客観的な証拠・資料から認定できるのか、認定された事由は労働者の不適格性を裏付ける程度の重大なものであるか、という両方の観点からの判断が必要となります。

内定取消しに関するトラブルを回避するためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

このように、内定取消しは無制限に認められるわけではなく、合理的な理由が必要とされていることから、内定取消しを行うにあたって、慎重な検討を要します。
また、内定通知書や誓約書に内定取消しの事由を具体的に定めることも重要です。
内定取消しに関するトラブルを回避するためにも、是非弁護士に相談されることをおすすめします。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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