労働条件明示の改正概要についてYouTubeで配信しています。
2024年4月1日以降、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要となります。加えて、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を明示することも必要となります。
動画では、このような無期転換申込権に関する改正内容について解説しています。
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 労働契約
本記事では、労働者の無期転換ルールについて解説させていただきます。
そのような話は聞いたことがあるけど、具体的にどのようなことをすればいいのかわからないという経営者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか、そのような方は本記事をご参考いただければと思います。
目次
「無期期転換ルール」とは?
無期転換ルールとは、簡単に言えば、元々有期として契約されていた労働契約が、企業の意思に関係なく、期間の定めのない無期契約に転換してしまうというものです。
具体的な要件としては、①同じ使用者との間で2以上の有期契約が存すること、②契約の通算期間が5年を超えること(5年以上ではない点に注意が必要です。)、③有期契約の期間満了までの間に労働者から無期契約の申し込みがなされること、といったものとなります(わかりやすさを重視するため、厳密な要件は省略しておりますので、詳細は専門家にお問い合わせください。)。
つまり、このような要件を満たした場合、企業において、その従業員を無期契約にはしたくないと考えていても、半ば強制的に無期契約となってしまう制度となります。
問題社員の無期転換を拒否することは可能か?
無期転換ルールは上述したような要件が充足された場合に、企業が転換を拒みたいような従業員との間でも無期契約に転換してしまうルールとなります。
そのため、企業において「成績が悪いから」「勤務態度が悪いから」等の理由で無期転換を拒否することはできません。
無期転換回避を目的とした雇止めは有効か?
そのため、そのような問題のある社員の無期転換を防ぐための方法として、契約期間が5年を超える前に、契約更新を止めるという方法が考えられます。
このような雇止めにつきましては、①実質的には無期労働契約と同視できる場合や、②更新を期待することに合理的な理由があるといった場合には、契約の更新が実質的に強制される可能性がある点に注意が必要です。
懲戒処分に値する行為があった場合は?
従業員が懲戒処分に値する行為があったとしても、無期転換ルールの利用自体を回避することはできません。そのため、無期転換とは別に、懲戒解雇などの労働契約を終了させる手段を執ることについて検討することとなります。
問題社員の無期転換を回避するには
それでは、無期契約とすることに問題がありそうな社員について無期転換となることを防ぐためにはどのような点に気を付ければよいでしょうか。
初めから5年の有期契約社員として採用する
無期転換はあくまで、①同一の使用者との間で2以上の有期契約が存在すること(つまり一度は更新がなされていること)、②契約の通算期間が5年を超えること(5年ちょうどでは足りない)が要件となっておりますので、5年の有期契約とし、更新をせずに契約を終了させることで、無期転換ルールの適用を回避することができます。
この場合、契約期間を5年としていても、その他の従業員に対する運用などから、契約を更新することが期待されているとして、契約期間の延長が認められる(=無期転換ルールの採用がされてしまう)可能性がありますので、事前の十分な検討が必要となります。
クーリング期間について
無期転換にはクーリング期間という制度があります。これは、労働契約の通算期間を判断する際に、ある有期契約とある有期契約の間に一定期間の経過があれば、これまでの通算期間がリセットされるとする制度です。
例えば、1年の有期契約が終了した後、6か月以上契約の空きが生じた場合には、その後4年を超えて契約が継続したとしても、最初の1年については期間がリセットされているため、通算期間が5年を超える契約とはなっておらず無期転換の要件は満たしていないこととなります。
具体的なクーリング期間については、その直前の契約期間によって変わってきますので、気になる方は専門家にお問い合わせされることをお勧めいたします。
企業が無期転換の対応を取らないことのリスク
起業が無期転換の対応を取らなかった場合のリスクとしてはどのようなものが考えられるでしょうか。
以下に主に考えられるものを記載いたしますので、ご参考ください。
無期転換ルールに違反した場合の罰則
もし企業が無期転換ルールを無視し、要件を満たす従業員の無期転換を認めなかったとしても、何かしらの刑事罰が科されるわけではありません。しかし、その措置は無効とされ、無期転換が認められた上で、従業員からの損害賠償請求も認められてしまう可能性があるので、無期転換ルールを無視することは決して得策ではありません。
無期転換後の労働条件に関する注意点
無期転換した後の労働条件については、特別な規則を設けていない限り、労働機関以外の条件は従前の通りになるというようにされています。
このような場合何か不都合なことが生じるでしょうか。
就業規則を整備する必要性について
この場合、有期契約の従業員と、無期転換した元有期契約の従業員には同じ規則が適用されることになります(例えばパート規則が無期転換した従業員にも適用される。)。
それにより労務の管理が煩雑になり、あるいはその規則は有期契約を前提としているため、無期契約の従業員にも適用すると不都合が生じる場合もあります。
そうすると、無期転換の従業員に向けた就業規則を整備しておくことが、不測の事態を避けるために重要になってきます。
有期労働契約にまつわる裁判例
ここでは、有期契約に関する裁判例を紹介させていただきます。
事件の概要
今回紹介する裁判例は、有期契約の期間満了時に更新をしなかった場合(雇止めをした)場合に、その更新をしなかったことの違法性が問題とされた事例です。
具体的には、会社側から長期雇用やいわゆる正社員への登用を期待させる言動があった従業員に対して経営者が有期契約の更新を拒絶したものとなります。従業員は、労働者としての地位を確認するため提訴にいたりました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
最一小判昭49.7.22民集28巻5号927頁
最高裁は、2カ月の期間満了で雇止めがなされた事例はなかったこと、使用者側から、長期継続雇用や正社員への登用を期待させる言動があったこと、実際に当該従業員との間でも複数回にわたって契約が更新されていたこと等の事情から、本件においては契約期間として2か月という機関が定められているものの、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたとして、使用者からの更新拒絶はその実質は解雇にあたる旨判断しました。
ポイント・解説
この裁判例やその後に出された裁判例を踏まえ、現在では、実質的には無期労働契約と同視できる有期契約や、更新を期待することに合理的な理由がある場合には、使用者にとって強制的に更新が認められてしまう労働契約法19条が定められています。
また、上述のように、このような更新が続いた結果契約期間が通算5年を超えた場合には、従業員には無期転換の権利が認められることとなりますので、雇止めの成否は経営者にとって非常に重要なものとなります。
問題社員への無期転換対応についてお悩みなら、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい。
従業員の中には、問題行動を起こしたり、著しい成績不良など、経営者からすれば問題のある方も少なくありません。そのような方の無期転換についての対応などにお困りの際はぜひ専門家たる弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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