監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 高年齢者雇用安定法
平成24年成立、平成25年施行の高年齢者雇用安定法では、60歳未満の定年の禁止及び、65歳までの雇用確保措置(①定年を65歳に引き上げ、②65歳までの継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれか)が義務付けられました。
令和2年成立、令和3年施行の高年齢者雇用安定法では、さらに70歳までの就業確保が努力義務とされました。具体的にはどのような改正とされたのでしょうか。以下説明します。
目次
高年齢者雇用安定法改正により「70歳までの就業確保」が努力義務に!
高年齢者雇用安定法が改正された背景
厚生労働省によれば、今回の改正の趣旨は、少子高齢化が急速に進み、人口が減少するわが国において、経済の活力を維持するために高年齢者が能力を発揮できるよう環境整備を行うこと、また、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保につき多様な選択肢を整え、事業主としていずれかの措置を制度化することを努力義務とするものとされています。
高年齢者就業確保措置の対象となる事業主
対象事業主は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主になります。
そもそも「努力義務」とは?違反すると罰則はあるのか?
改正前の高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保措置のいずれかについて事業者に義務付けられており、公共職業安定書(ハローワーク)の指導を繰り返し受けたにも関わらず具体的な取り組みを行わなかった場合は、勧告書が出されたり企業名が公表される可能性がありました。
しかし、今回の改正により求められる70歳までの就業機会の確保については、努力義務とされていることから、具体的な取り組みを行わなかったとしても、特に罰則があるわけではありません。
高年齢者就業確保措置の具体的な内容とは?
①70歳までの定年引き上げ 及び ②定年制の廃止
①70歳までの定年引き上げ及び②定年制の廃止を高年齢者の就業確保措置として導入する場合には、就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
雇用する高年齢者が、③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を希望するときは、70歳まで引き続き雇用する制度を導入することができます。この場合、継続雇用を行う事業主としては、それまで雇用をしてきた当該事業主(自社)だけでなく、特殊関係事業主以外の他社、すなわち、自社以外の子法人、親法人、関連法人等が継続雇用することも可能です。
無期転換ルールに関する特例について
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合、労働者の申し込みにより、原則的には無期労働契約に転換します(労働契約法18条)。
しかし、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下で、定年後に引き続いて雇用される期間は、無期転換申込みの権利が発生しないことになります。これは、事業主の特殊関係事業主(子法人、親法人、関連法人等)において継続雇用される場合も同じです。
ただし、特殊関係事業主以外の他社で継続雇用される場合は、無期転換申込みの権利が発生します。
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 及び ⑤70歳まで継続的に一部の事業に従事できる制度の導入
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入及び⑤70歳まで継続的に一部の事業に従事できる制度の導入を合わせて、創業支援等措置といいます。⑤における一部の事業とは、㋐事業主が自ら実施する社会貢献事業と、㋑事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業の2つがあります。
これらの創業支援等措置の手続を行うためには、⑴計画の作成、⑵過半数労働組合等の同意を得ること、⑶計画の周知、が必要になります。
高年齢者就業確保措置を講じる際の注意点
継続雇用制度(③)を導入する場合
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入する場合で、特殊関係事業主または特殊関係事業主以外の他社(以下、両者を併せて「特殊関係事業主等」といいます。)で継続雇用するケースでは、自社と特殊関係事業主等との間で、特殊関係事業主等が高年齢者を継続して雇用することを約する契約を書面により締結することになります。
創業支援等措置(④⑤)を導入する場合
創業支援等措置(④⑤)に関して注意すべき事項としては、以下の点が挙げられます。
- 契約を書面により締結し、導入計画を記載した書面もあわせて交付すること。
- 労働基準法等の労働関係法令が適用されない働き方であることを十分説明すること。
- 業務委託契約の場合に、使用者の安全配慮義務が労働者の場合と異なりうることについて十分説明すること。
- 高年齢者からの相談について誠実に対応すること。
- 契約内容が雇用とは異なるため、労働者性が認められないような働き方とすること。
改正による再就職援助措置・多数離職届への影響
改正前の高年齢者雇用安定法においては、⑴再就職支援措置等の整備に関する努力義務、⑵多数離職者届の提出義務、⑶求職者活動支援書の交付義務がありました。
今回の改正により、⑴再就職援助措置等の整備、⑵多数離職者届の提出、⑶求職者活動支援書の交付の対象となる高年齢者が、65歳以上70歳未満で離職する者まで拡大されています。
また、⑴再就職支援措置等の整備に関する努力義務、⑵多数離職者届の提出義務を実施する事業主については、原則として、離職時に高年齢者を雇用している事業主となりますが、他社の継続雇用制度で制度の上限年齢(70歳未満の場合に限る)に達した高年齢者や、他の団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度により就業する高年齢者に対しては、当該高年齢者を雇用していた事業主が実施することになります。
高年齢者雇用安定法改正に向けて企業が対応すべきこと
就業規則の変更
事業主が改正高年齢者雇用安定法に基づき、①70歳までの定年引き上げ、②定年制の廃止、③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入、④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入及び⑤70歳まで継続的に一部の事業に従事できる制度の導入のいずれかを選択した場合、当該変更に従って就業規則の変更を行い、所轄の労働基準監督署長に届出をする必要があります。
労働条件・勤務形態等の見直し
①70歳までの定年引き上げ、②定年制の廃止、③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入のうち、引き続き同一の事業主で継続雇用される場合は、雇用契約自体は存続し、労働条件や勤務形態等は別途労働条件通知書等で定めることになります。
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入のうち、特殊関係事業主等で継続雇用する場合は、自社と特殊関係事業主等との間で、特殊関係事業主等が高年齢者を継続して雇用することを約する契約を書面により締結することになりますが、その契約において労働条件や勤務形態等を定めることになります。
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入及び⑤70歳まで継続的に一部の事業に従事できる制度の導入を行う場合は、雇用契約とは別の契約形態となるため、業務委託契約の場合は委託業務の内容や報酬、また社会貢献事業を行わせる場合はその内容や対価を定めることになります。
「高年齢者雇用安定法改正」への対応でお困りなら弁護士にお任せください。
改正後の高年齢者雇用安定法への対応については、努力義務ではあるものの、導入した場合には計画の作成や就業規則の変更等が必要となります。導入にあたっては、弁護士法人ALG&Associatesにご相談下さい。
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