労務

業務上の必要性による出退勤時刻の指定・残業命令

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

    近年、フレックスタイム制を採用する企業が多くなってきました。
    しかしながら、フレックスタイム制を導入しても、企業によっては、労働時間に関して一定の業務命令を行う必要がある場合があります。フレックスタイム制を導入している企業は、労働者に対して、一切労働時間の管理ができなくなるのでしょうか。以下、詳しく解説します。

    目次

    フレックスタイム制の社員に早出や残業を命ずることはできるのか?

    始業・終業時刻は労働者が決定する

    そもそも、フレックスタイム制とは、始業・終業時刻を労働者の意思に委ねるという制度です。
    そのため、フレックスタイム制を採用する以上、始業・終業時刻はフレックスタイム制の適用を受ける労働者自身が決定することになります。  

    使用者が労働時間を指定することはできない

    フレックスタイム制が前記の制度であることから、使用者が、労働者に対し、労働時間を指定することは基本的にはできません。後記2のように、例外的に労働時間の指定が可能な場合がないわけではないですが、恒常的に認められるわけではない点に注意が必要です。

    あらかじめ就業規則に規定しておくことは可能か?

    フレックスタイム制を採用している場合に、あらかじめ就業規則に早出・残業を命じることはフレックスタイム制の趣旨を害することになるため、原則としてできません。
     ただし、業務上の必要がある場合に限り、一時的に早出・残業を命じることができる旨定めることは例外的に可能と考えられます。

    フレックスタイム制で残業命令を出す際の注意点

    時間外労働が発生する場合は36協定が必要

    フレックスタイム制が採用されている場合でも、時間外労働が発生する場合には、事前に36協定による定めが必要です。

    総労働時間を超えると残業代が発生する

    下記の場合には、残業代が発生します。
    清算期間内における労働時間が、総労働時間を超えた場合
    清算期間が1ヵ月を超えるときに1か月の労働時間が週平均50時間を超えた場合

    コアタイム外の就業命令について

    労働者が自由に始業時刻・終業時刻を定めることができる制度がフレックスタイム制です。
    したがって、コアタイム外に使用者が就業命令をくだすことができるとすると、フレックスタイムの趣旨を害してしまうため、そのような就業命令をくだすことはできません。

    フレックスタイム制の労働時間に関する裁判例

    事件の概要

    本件は、フレックスタイム制(コアタイム無し)を採用している被告会社において就業していた原告が、被告より業務上の必要性から午前9時過ぎには出勤するように指示されていましたが、原告は昼頃に出勤するなどを繰り返していました。
    被告は、原告に対し、「午前9時には遅刻することなく必ず出勤する」という内容の誓約書を書かせましたが、その後も原告は出勤時刻を守らなかったことやその他勤務態度が不漁だったことから解雇した事案です。

    裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

    東京地裁平成11年12月15日1999WLJPCA12156006

    ポイントと解説

    裁判所は、結論としては、解雇を有効と認めたものの、被告において、コアタイム無しのフレックスタイム制が採用されている以上、原告・被告間で個別に「午前9時には遅刻することなく必ず出勤する」という内容の誓約書が交わされていたとしても、原告に同時刻における出勤を義務付けることはできないと考えられることから、「午前九時までに出勤しなかったこと自体は何ら非難されるべき事柄ではなく、これを理由として不利益な処遇を受けるべきものではない」とした点に大きな意義がある裁判例だといえます。

    フレックスタイムに関するQ&A

    急な来客対応が必要となった場合、残業命令を下すことは可能ですか?

    コアタイム外の急な残業命令については、原則として下すことはできません。 しかし、労使協定や就業規則において、業務上の必要性がある場合には、早出や残業を命じることができる旨の条項が定められている場合には、例外的に残業命令が可能であるといえます。
    ただし、、この場合も恒常的に残業命令を下すことはできない点に留意が必要です。

    フレックスタイム制の従業員に対し、特定の日に始業時刻を指定することは可能ですか?

    フレックスタイム制は、始業時刻・終業時刻を従業員の意思に委ねる制度になりますので、特定の日に始業時刻を指定することはできません。ただし、労働者の合意がある場合にはこの限りではありません。

    コアタイムの時間を変更する場合、どのような手続きが必要ですか?

    コアタイムの時間を変更するためには、労使協定により変更後の始業時刻・終業時刻を定める必要があります。

    フレックスタイム制の従業員に、翌日の出勤時刻を申告させることは可能ですか?

    フレックスタイム制は、始業時刻・終業時刻を従業員の意思に委ねる制度になりますので、、翌日の出勤時刻を申告させることはフレックスタイム制の趣旨を没却することになりかねません。
    そのため、そのような対応はできないと考えるべきでしょう。

    始業時間が遅ければ、深夜労働が発生しても残業代を支払う必要はないのでしょうか?

    フレックスタイム制を採用している場合でも、従業員が午後10時から午前5時までの間に労働を行った場合は、深夜労働として扱われるため、割増賃金を支払う必要があります。

    朝礼があるため、コアタイムの開始時刻を朝の9時に設定することは問題ないですか?

    フレックスタイム制は、始業時刻・終業時刻を労働者の意思に委ねるという制度です。
    そのため、コアタイムの開始時刻を使用者が設定することはできません。
    ただし、一時的に業務上の必要性がある場合に、早出を命じることができるケースがあるのは6-1のとおりです。

    事前に残業命令を出しておけば、フレックスタイム制でも残業してもらうことは可能ですか?

    事前の残業命令によって残業を行わせることは、フレックスタイム制の趣旨を没却することになります。そのため、事前に残業命令を出すことにより、残業を行わせることはできません。
    ただし、一時的に業務上の必要性がある場合に、残業を命じることができるケースがあるのは6-1のとおりです。

    特定の日について、フレックスタイム制の適用を解除することはできますか?

    フレックスタイム制は、始業時刻・終業時刻を労働者の意思に委ねるという制度です。
    そのため、特定の曜日についてはフレックスタイム制を適用しないといった、フレックスタイム制と通常の勤務体制を混合したような体制をとることは、フレックスタイム制の趣旨に反すると考えられます。そのため、このような運用はできないと考えられます。

    清算期間の総労働時間に満たない可能性がある場合、その時間分残業してもらうことは可能ですか?

    フレックスタイム制において、清算期間の総労働時間に満たない場合、不足時間分を次の清算期間中の総労働時間に足して労働を命じることは、可能であると考えられます。
    ただし、次の清算期間中の総労働時間が法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払義務があるため、その点は注意が必要です。

    フレックスタイム制で残業命令に応じない場合、考課・査定でマイナス評価としてもいいですか?

    フレックスタイム制を採用している場合に、残業命令に応じないことを理由に考課・査定でマイナス評価とすることは、フレックスタイム制の趣旨を没却することになりますので、そのような対応をすることは違法と評価をされる可能性があります。

    フレックスタイム制で不明点があれば、労務問題の専門家である弁護士までご相談ください。

    フレックスタイム制は、適切に導入・運用すれば、業務の効率化を図ることのできる有用な制度です。
    しかし、フレックスタイム制の導入に際しては、労働時間をはじめとして、労働法に関する正確な知識を必要とし、導入にあたっては煩雑な手続きを必要とします。
    フレックスタイム制の利点を最大に活かすため、不明点があれば労務問題に精通する弁護士までご相談ください。

    大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
    監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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