監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 不当労働行為
労働組合法は、いくつかの類型を設けてそれらを不当労働行為として定め、使用者側にこれらに該当する行為を行うことを禁止しています(労働組合法7条)。
この記事では、不当労働行為とは何か、不当労働行為とならないために企業側がどのように対応すればよいかなどについて、詳しく解説していきます。
目次
不当労働行為とは?
不当労働行為とは、使用者による、労働者の労働基本権を侵害するような行為をいいます。
労働基本権とは、憲法28条によって保障されている権利で、団結権、団体交渉権、団体行動権の3つの権利をいいます。
憲法によって保障されている労働者の権利を守るために、労働組合法によって使用者の行為が規制されているのです。
不当労働行為として禁止される5つの行為
労働組合法7条により、以下の5つの行為が不当労働行為として禁止されています。
①不利益取扱い
労働組合法7条1号により、①労働者が労働組合の組合員であること、②労働組合に加入し、若しくは労働組合を結成しようとしたこと、又は③労働組合の正当な行為をしたことを理由として、使用者が労働者に対して不利益な取扱いを行うことが禁止されています。
不利益取扱いには、大きく分けると、ⅰ身分上の不利益取扱い、ⅱ人事上の不利益取扱い、ⅲ経済上の不利益取扱い、ⅳ精神上・私生活上の不利益取扱いがあります。
不利益取扱いに該当する具体例
上記各類型の具体例としては、以下のものがあります。
ⅰ 身分上の不利益取扱い・・・解雇、雇止め、定年後再雇用拒否
ⅱ 人事上の不利益取扱い・・・労働者に不利益な配転、出向、転籍命令
ⅲ 経済上の不利益取扱い・・・給与引下げ、賞与の減額・不支給
ⅳ 精神上・私生活上の不利益取扱い・・・雑作業をさせる
そして、表向きには上記①~③とは違う理由でⅰ~ⅳのような取扱いをしたとしても、真の理由が①~③であれば、それは労働組合法によって禁止される不利益取扱いに該当します。
②黄犬契約
黄犬契約とは、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とする労働契約をいいます。黄犬契約も、労働組合法7条1号によって禁止されています。
黄犬契約に該当する具体例
雇用の際に、「労働組合に加入しないこと」や「労働組合から脱退すること」を労働者に誓約させるような行為は、黄犬契約に該当します。
③団体交渉拒否
労働組合法7条2号は、使用者が労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことを禁止しています。団体交渉拒否には、団体交渉に全く応じないことだけでなく、団体交渉に対して不誠実な態度でのぞむことも含まれます。
団体交渉拒否に該当する具体例
誠実交渉義務違反として団体交渉拒否に該当する例として、以下のようなものがあります。
- 組合からの団体交渉の申入れに対し、使用者側が日時や議題を一方的に指定し、組合の要求や主張を真摯に検討する対応をとらないこと
- 実際には交渉権限のない者が交渉の席につくこと
- 組合の要求や主張に対して、十分な回答や説明をしないこと
団交拒否が認められる「正当な理由」とは?
団体交渉拒否が認められる「正当な理由」の具体例として、以下のようなものがあります。
- 労働者が2つの労働組合に所属する二重在籍状態にある場合で、使用者が同一事項についてそれぞれの労働組合との間で二重に交渉をすることになるおそれがある場合
- 使用者が訴訟等を提起されているが、事前に使用者が組合と十分協議したといえ、団体交渉が全体として行き詰まりの状態にあった場合
- 組合員多数が一方的に団交の開催場所を強要し、暴力行為に及んだこと
④支配介入及び経費援助
支配介入とは、労働者が労働組合を結成・運営することを支配し、又はこれに介入することをいい、経費援助とは、労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えることをいいます(労働組合法7条3号本文)。
ただし、「労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すこと」、「厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与」は経費援助から除かれます(労働組合法7条3号ただし書)。
支配介入及び経費援助は、労働組合の自主性が使用者の行為によって損なわれることを防ぐ趣旨から、禁止されています。
支配介入に該当する具体例
支配介入に該当する具体例として、以下のようなものが挙げられます。
- 労働組合の結成に対する支配介入・・・組合結成に対するあからさまな非難、組合結成の中心人物に対する不利益取扱い
- 労働組合の運営に対する支配介入・・・正当な組合活動に対する妨害行為(組合の掲示板に掲出された掲示物の撤去等)
経費援助に該当する具体例
経費援助に該当し得るものとしては、以下のようなものがあります。
- 在籍専従者(従業員としての籍を保持したまま組合役員等の業務に専念する者)の給与負担
- 有給の組合休暇の付与
多くの学説では、形式的に経費援助に該当するようにみえても、実質的に労働組合の自主性を阻害するようなものでなければ、経費援助に該当しないと解釈されています。
⑤報復的不利益取扱い
労働者が労働委員会に対して不当労働行為の申立てをしたこと、再審査の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、使用者がその労働者に対して不利益な取扱いをすることは、報復的不利益取扱いとして禁止されています(労働組合法7条4号)。
報復的不利益取扱いに該当する具体例
報復的不利益取扱い(労働組合法7条4号)における「不利益取扱い」の内容は、同条1号の「不利益な取扱い」の内容と同様です。
そのため、不利益取扱いに該当する具体例については、上記2-1-1を参照してください。
不当労働行為を行った場合の罰則は?
使用者が不当労働行為を行った場合、直ちに罰が科されるわけではありません。
しかし、救済命令が交付され、それが確定したにもかかわらず救済命令に違反した場合には、使用者に過料に処せられることとなります。
また、上記過料は行政上の責任ですが、民事上の責任として、使用者が労働者又は組合に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。
労働委員会からの救済命令
労働委員会は、使用者に対して不当労働行為救済命令を発することがあります。
労働委員会とは、労働組合と使用者との間に起きた紛争について、公正・中立な立場で解決を図る行政機関です。
労働組合又は労働者が、使用者が不当労働行為禁止規定に違反した旨申し立てると、労働委員会は調査・審問を行い、不当労働行為が成立すると判断した場合には、救済命令を発します。
救済命令違反に対する罰則
使用者が、不当労働行為救済命令が交付された日から30日以内に取消訴訟を提起しない場合には、救済命令は確定します(労働組合法27条の13第1項)。
使用者が確定した救済命令に違反すると、過料に処せられることになります。
過料の金額は、基本的には50万円以下ですが、救済命令が作為を命ずるものであるときは、その命令の日の翌日から起算して不履行の日数が5日を超える場合にはその超える日数1日につき10万円の割合で算定した金額を加えた金額が上限となります(労働組合法32条)。
損害賠償・慰謝料請求
不当労働行為は、民法上の不法行為に該当し得るものです。
そのため、当該不当労働行為が、不法行為に基づく損害賠償請求の要件を満たせば、使用者は労働者が被った財産的・精神的損害(慰謝料)の賠償責任を負うことになります。
不当労働行為で刑事罰は科されるか?
不当労働行為自体が刑法等に抵触する行為でない限りは、基本的に使用者に刑事罰が科されることはありません。
しかし、救済命令の取消訴訟の結果、救済命令が判決で支持された場合に、救済命令違反があったときは、違反した者に1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその両方が科せられます(労働組合法28条)。
不当労働行為とならないために企業がとるべき対策
不当労働行為を禁止している労働組合法7条の趣旨は、憲法28条に基づいて労働組合の結成や活動を保護するために、使用者に一定の規制を加えることにあります。
そのため企業は、組合への対応を行う際にはその都度、その対応が労働組合の自主性を阻害するものではないかに注意して慎重に動くことが重要です。
不当労働行為とならないための具体的な対策については、労働法務に詳しい弁護士に相談していただくことが望ましいです。
不当労働行為について争われた裁判例
不当労働行為について争われた裁判例として、NPO法人せたがや白梅事件をご紹介します。
事件の概要
法人は、平成29年4月以降、労働組合分会書記長である職員(以下「職員A」といいます。)に対して、月額5000円の役職手当を支給しませんでした。
職員A側が東京都労働委員会に救済を申し立てたところ、役職手当の不支給は不当労働行為であると認定され、役職手当等を支払えとの救済命令が令和2年に出されました。
そこで、法人が、東京都を相手に、同命令の取消しを求めて提訴したところ、第1審(令和2年(行ウ)第44号東京地方裁判所令和3年2月22日判決)では、法人の請求は棄却されました。
この判決を受けて、法人が控訴しました。
裁判所の判断(令和3年(行コ)第65号東京高等裁判所令和3年10月13日判決)
裁判所は、役職手当の不支給が不利益取扱いに当たると判断し、控訴を棄却しました。
不利益取扱いに当たると判断された理由の骨子は、以下のとおりです。
控訴人(法人)と組合は、分会結成以降、訴訟等を通じて労使の対立状況が継続し、和解によりその多くは解決したものの、なおも双方の対立関係が必ずしも解消されたとまではいえない状況であった。
その状況下で、控訴人は、役職手当の不支給について書面への署名捺印に応じた常勤職員には役職手当の支給を継続した一方で、労働条件の改善や原告の経営努力が必要であると述べて署名捺印に応じなかった職員Aに対してのみ、役職手当を不支給とした。
以上によれば、役職手当の不支給は、組合員である職員Aを嫌悪し、職員Aに経済的不利益を負わせ、事業場から分会や職員Aの影響力を排除するためにされたものと認めるのが相当であり、不当労働行為意思に基づく不利益取扱いであるといえる。
ポイントと解説
本件の役職手当不支給は、労働者が労働組合の組合員であることを理由として、使用者が労働者に対して経済上の不利益取扱いをしたものであるとして、不当労働行為該当性が肯定されました。
経済上の不利益取扱いに該当するか否かの判断においては、組合員と非組合員との間で差別がなされたかどうか、使用者と組合との対立があったかどうか、などの点が考慮されるものといえます。
不当労働行為で労使トラブルとならないために弁護士がアドバイスいたします。
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