不利益変更の際、合意書の必要性と効力とは

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 労働条件

本稿では、労働条件を変更する場合について話をさせていただきます。労働者の合意書の必要性やその効力等について記載いたしますので、参考にしていただければと思います。

労働条件を不利益変更する際に合意書(同意書)は必要?

労働条件を労働者にとって不利益に変更する場合、原則としては労働者の合意が必要とされています。
そのため、(例外はあるものの)基本的には労働者の合意書を取得することが第一となります。
そこで、労働者からの合意書の取得方法について以下、説明させていただきます。

従業員ごとに合意を得る「個別的合意」の場合

まず、各従業員との間で個別に合意書を取り付ける方法があります。
従業員数があまり多くない会社であれば、この方法がとりやすいかと思います。
注意点としては、ただ単に「承諾する」のみを記載した合意書では、従業員から後々争われた場合に問題となりますので、事情を説明し、合意書にも可能な限り詳細を記載すべきです。

労働組合との合意を得る「包括的合意」の場合

また労働組合との間で合意を得る、すなわち労働協約を用いる方法も考えられます。
労働協約は当該労働組合の組合員にしか効力が及ばないのが原則ですが、一定の条件を満たせば、組合員以外の従業員にも効力を及ぼすことができます。
このような場合でも、労働組合と結託し、組合員以外の者だけに不利益を負わせるような内容とした場合、無効とされる場合がありますので注意が必要です。

不利益変更における合意書の効力とは?

労働契約の内容を労働者に不利に変更する場合において、原則としては従業員の同意が必要となります。
そのため、労働契約の内容を従業員に不利益に変更しようとする場合において、従業員の同意を得ることは非常に重要です。

合意書なく不利益変更を強行した場合のリスク

労働契約法によれば、労働契約の不利益変更は必ず労働者の合意を取得しなければならないものではありませんので、理屈の上では合意書を作成せずとも不利益変更は可能ということになります。
しかし、従業員の同意のない不利益変更が認められるための条件はかなり厳しいものとなっていますので、例えばそのような変更を行う十分な理由がなかったり、従業員に対して何ら説明を行っていなかったりするような場合には変更が認められないというリスクを負うこととなります。

不利益変更について合意書を取り交わす際の注意点

不利益変更について、従業員から合意書を取得する場合の注意点について説明させていただきます。
不利益変更においては、ただ形式的に「合意書を作りました」というだけでは足りない場合が多々見られますので、以下の注意点には十分に留意する必要があります。

従業員に対して十分な説明が必要

まず、従業員に対して、不利益変更の内容やそのような変更を行う必要性・経緯について十分な説明を行うことが必要です。
このような説明が不十分ですと、合意が無効とされる可能性もありますので、注意が必要です。

強制や強要による合意は無効

当然のことではありますが、合意が強制されたものである場合や強要されたものである場合にはその合意は無効になります。合意は従業員の真摯なものによる必要がありますので、説明の際や合意書を作成してもらう際の態様には注意が必要となります。必要に応じて合意書を作成する際の様子を録画・録音することも一考に値すると思われます。

合理性のない不利益変更は認められない

変更に合理性のないものについては、たとえ労働者が形式的には合意していたとしても、その合意が無効とされる可能性が高くなります。
従業員から合意を取ることのみではなく、当該不利益変更を行う必要性等についても十分に準備して多くことが必要となります。

従業員から合意書が得られない場合の対処法

上述したように、従業員から合意書が得られない場合であったとしても不利益変更が認められる可能性はあります。
そのような場合の有効性にあたっては、従業員に与える不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合との交渉の状況等といった事情を基に判断されることになりますので、このような事情の確認とそれを裏付ける資料を収集することが肝要です。
また、各従業員に対して真摯な対応(説明等)を行ったことも有意な事情ですので、このような対応を行ったことを示す資料についても保管するようにしてください。

不利益変更において合意の有効性が争われた判例

実際に不利益変更を行った際の、合意の有効性が争われた裁判例を紹介します。

事件の概要

ご紹介する事件は、信用組合において行われた退職金規定の変更が問題となったものです。
当該信用組合は他の信用組合との合併に先立ち、退職金規定を変更することとなりました。
その変更につき、従業員は同意書に署名捺印していたのですが、事前の説明会で渡されていた案には、従前と同一水準の金額が保障されると記載されていました。しかし、実際には、算定基礎となる金額が引き下げられる等が変更の内容となっており、本件の原告においても退職時の退職金額が0円となるなどの不利益が生じていたという案件になります。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

このような事件につき、最高裁は平成28年2月19日判決で以下のような判断を行いました。
すなわち、労働契約の内容を不利益に変更する場合であっても、使用者と従業員の個別の合意によって変更することができるとした上で、変更の対象が賃金や退職金に関するものである場合には、たとえ変更を受け入れる旨の従業員の行為があったとしても、同意の有無については慎重に判断されるべきとしました。
そして、具体的な判断基準としては、従業員の行為のみではなく、不利益の内容及び程度、従業員が受け入れるに至った経緯及びその態様、従業員への情報提供又は説明の内容等に照らして、その受け入れ行為が従業員の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきとされました。

ポイント・解説

このように、たとえ従業員から合意書を取り付けていたとしても、変更の内容によっては変更が無効とされる場合があります。そのため、不利益変更を行うにあたっては、従業員に対しきちんと内容等を説明することに加え、そのような説明や従業員との合意書の作成経緯について、これを裏付ける資料をきちんと作成し、収集しておくことが重要となります。

労使トラブルを防ぐために適正な合意書案について弁護士がアドバイスいたします。

上で紹介しました裁判例のように、労働契約の内容を変更する際、従業員に適切な説明を行わず、不十分な合意書の作成にとどまった場合、企業として従業員との訴訟に巻き込まれるなどの大きなリスクを負うこととなります。
そのようなリスクを避けるためには、実際に不利益変更を行う前に専門家たる弁護士に相談することが有用です。一度お気軽にご相談されることをお勧めいたします。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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