労務

不利益変更のケース別のトラブル防止のポイント

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 労働条件

就業規則に記載されている労働条件を労働者にとって不利な内容に変更することを「就業規則(労働条件)の不利益変更」といいます。そして、就業規則や労働条件を変更する場合には、労働者にとって不利益となる可能性があり、一度定められた就業規則や労働条件を簡単に変更することは、非常にハードルが高い状況にあります。そのため、会社側が就業規則や労働条件を変更することに伴って、会社と労働者との間で紛争が生じる場合や変更自体が無効となる場合があります。
そこで、今回は、就業規則や労働条件の不利益変更に関するトラブル防止について解説いたします。

就業規則や労働条件の不利益変更の禁止について

不利益変更を行うことのリスク

労働契約法第9条には、「会社は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定められています。そのため就業規則や労働条件を変更する際に、会社が適切な対応を怠ってしまうと、その変更が法的に無効なものと取り扱われるおそれがあります。

労働条件の不利益変更が認められる条件とは?

就業規則の不利益変更が認められる条件

会社が就業規則の不利益変更を行う場合には、原則として、その就業規則の変更によって不利益を被る労働者全員の個別の合意が必要になると解されています。また、就業規則には労働者の労働条件について最低の基準を定めたものとして効力を有するものであり、「最低基準効」という効力があります。この最低基準効があるからこそ、会社は就業規則を一方的に不利益変更することが認められず、変更するためには、労働者に対してその不利益の内容を説明し、個々に合意を得る必要があります。

不利益変更の「合理性」を判断する基準

他方で、会社は就業規則の不利益変更をする場合において、すべての場合に労働者の個別の合意を得なければならないものではありません。労働契約法10条には、就業規則の不利益変更に「合理性」がある場合には、個別の合意を得ることなく、不利益変更が認められることを定めています。そのため、就業規則の不利益変更について労働者の個別の同意がない場合には、その不利益変更に「合理性」があるかどうかによって、変更が法的に有効または無効となるかが判断されます。
「合理性」の判断については、過去の裁判例等に照らし、個別の案件ごとに判断していく必要があります。
そして、就業規則の不利益変更が争いとなり、裁判所の判断として「合理性がない」と判断された場合、変更後の就業規則には効力が認められず、従前(変更前)の就業規則に引き続き効力が認められます。
「合理性」の有効性にかかる判断基準について、過去の裁判例においては、以下の7つ要素を総合的にみて判断すべきとされたものがあります。(第四銀行事件/最高裁判所平成9年2月28日判決)。

①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
②会社側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合または他の労働者の対応
⑦同種事項に関するわが国社会における一般的状況

不利益変更のケース別のトラブル防止のためのポイント

賃金・手当に関する不利益変更の注意点

賃金・手当は労働者にとって労働の対価であり、労働条件の中で最も重要な権利といえます。そのため、賃金・手当等の変更を行う場合、労働者が被る不利益の程度が強いものと考えられるため、その変更を行うためには、高度の業務上の必要性が求められます。また、賃金・手当等を減額する場合には、減額幅にも目を向ける必要があると考えられます。

時間外労働・残業代に関する不利益変更の注意点

時間外労働・残業代については、変更後の時間外労働や残業代に関する算定基準が労働基準法上の範囲内になっていることに加え、時間外労働や残業代についても労働者に対価に関わる重要な権利であり、生活の基盤となるものであるため、変更を行うためには高度な経営上の必要性が求められます。

労働時間・休日・休暇に関する不利益変更の注意点

労働時間も、労働者にとって生活の基盤となるものであるため、変更を行うためには高度な経営上の必要性が求められます。他方、会社内の福利厚生の細かな変更等は、賃金・手当等の変更に比べると業務上の必要性は低いと考えられます。

不利益変更でトラブルにならないために企業がすべきこと

労働者と合意書を取り交わしておく

上述したように、労働条件の不利益変更の変更を行うためには、原則として、労働者に合意を得なければならないことが労働契約法で定められています。労働者の合意を得る方法としては、①すべての労働者に合意を得る方法、②労働組合の合意を得る方法があります。そして、合意を得たことについては、その後のトラブルを防ぐためにも、具体的変更内容を記載した書面を作成して残しておくことが重要です。

代償措置や経過措置の検討

労働条件の不利益変更に伴って、それを補うために会社が代償措置を準備することがあります。この行為は、裁判の中でも会社側に有利な事情として判断される可能性があります。不利益変更と直接に関係のない代償措置でも裁判の中で会社側に有利は事情となる傾向にあります。
また、急激に不利益変更を推し進めていくのではなく、一定の経過期間を定めて徐々に変更していくという姿勢も不利益変更を有効と判断しうる要素となり得ます。

労働者から労働審判や訴訟を起こされた場合の対応

就業規則を変更することで、労働者から変更措置の無効を主張する労働審判の申立てや訴訟を提起される可能性があります。争いが訴訟まで発展すれば、結果にかかわらず労働者との関係性は悪化し、信頼関係の回復が難しくなる可能性があります。さらには、インターネットが普及した現代においては、誰でも情報を発信できるため、労働条件の不利益変更を行ったという事実は、瞬く間に広がる可能性があります。
そのため、不利益変更を行う前に労働者との十分な話し合いで無用なトラブルを回避することができます。労働者との交渉も含めて弁護士に依頼することもひとつの方法です。

労働条件の不利益変更に関する裁判例

事件の概要

就業規則による変更の中で、賃金の減額については無効とされたものです。
事案の内容としては、同会社では、定年年齢を60歳としていましたが、労働者の73%が加入している多数労働組合の同意は得たものの、少数労働組合の同意を得られないまま就業規則を変更することで、55歳に到達した管理職は新設の専任職として、賃金を55歳到達時点の基本給と諸手当とすること、また、55歳に到達した一般職と庶務行員についても専任職として、業績給の一律50%減額、専任職手当の廃止、賞与の支給率削減などの見直しを行ったことが争われた事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所の判断として、この就業規則の変更は、職階および役職制度の変更に限ってみれば、合理性は認められるとしつつも、賃金に対する影響の面からみれば、高年層の労働者に対して専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しない労働者らに対しこれを受忍させることは合理的ではないとし、賃金を減額する部分については、無効とされました(最一小判平成12年9月7日)。

ポイント・解説

本判例においては、会社側は就業規則を変更するにあたり、過半数組合(約73%)との同意を行っていました。そのため、会社側としても労働組合等との交渉については、十分に交渉を果たしているように感じられます。もっとも、裁判所の判断としては、賃金面での不利益変更が重大であり、労働者に与える不利益が重大であることから、賃金減額部分の合理性を否定しました。

不利益変更で無用な労使トラブルを避けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

会社側が労働条件を不利益に変更する場合には、労働者に個別の同意を得る方法、就業規則の変更等の方法があります。しかしながら、労働者側からすれば、就業規則や労働条件を変更することに強い抵抗感を示すことも予想されます。場合によっては、労働条件及び就業規則の変更に伴って労使間での紛争が発生し、労働審判、訴訟等の手続きに移行する可能性もあります。さらには、裁判所の判断によっては、変更が無効となり、会社側が労働者に対して、金銭の支払い等が求められる可能性もあります。加えて、金銭的な問題にとどまらず、会社に対する社会的信用の低下、風評被害等も懸念されます。
このように、労働者に強い保護が認められている現状において、労働条件や就業規則の変更を検討している場合には、専門的な知識と経験を有する弁護士に相談することを推奨いたします。
当事務所においては、労務トラブルに精通し、経験を有する弁護士が在籍しておりますので、労働問題に関するご相談があれば、遠慮なくご相談ください。

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監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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