労務

フリーランスにおける競業避止義務の状況(内閣府の「政策課題分析シリーズ」に基づく見解)

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

  • 競業行為

フリーランスにおける競業避止義務の状況(内閣府の「政策課題分析シリーズ」に基づく見解)について、以下、説明いたします。

フリーランスにも競業避止義務を課すことはできるのか?

フリーランスに対しても、競業避止義務を課すことは可能ですが、競業避止義務の内容や合意内容次第では、独占禁止法上の問題が生じる可能性があります。

内閣府が公表した「政策課題分析」

内閣府は、日本のフリーランスを取り巻く状況や諸外国の状況等について分析し、競業避止義務の状況や影響について分析した内容を発表制しています。

フリーランスとして働く人の割合

内閣府の政策課題分析においては、フリーランスとして働く人の人数、割合等が明らかにされています。
フリーランスとして働く者の人数は、副業として従事する者も含めて306万人から341万人に上ります。また、フリーランスとして働く者の全就業者に占める割合は、本業及び副業の合計で約5%、本業は約3%で副業は約2%となっています。

競業避止義務を課されているフリーランスの割合

全就業者(ただし、国家公務、地方公務は除外し、職業分類のうち「分類不能」は除外しています。)に対する競業避止義務を課されている者の割合は、「ある」が13.9%、「あるかもしれない」が10.5%です。また、競業避止義務を課されているフリーランスの割合については、「ある」が4.4%、「あるかもしれない」が4.2%となっています。

フリーランスに対する競業避止義務で企業が検討すべき事項

フリーランスに対して競業避止義務を課す場合、以下の事項について検討すべきです。

賃金プレミアムの必要性

そもそも、賃金プレミアムとは、競業避止義務を課された対象者が、競業避止義務を課されていない者と比較して個別の属性(年齢、性別、学歴、就業形態)や産業、職業をコントロールした上で、なお上乗せされている部分の賃金を意味します。フリーランスの者は、競業避止義務を課された場合、競合する事業等を行い得なくなるため、その不利益に対して賃金プレミアムが付加されることが通常です。

収入にどの程度上乗せしたら良いのか?

統計上、競業避止義務が課された時期や所得額によって、賃金プレミアム上乗せ率は様々です。
フリーランスを本業とする者の賃金プレミアムは、契約前後の区別なく総合すると、30%から40%であり、契約前の場合には50%から70%となっています。

独占禁止法違反とならないための措置

経済産業省によると、競業避止義務契約が過度に職業選択の自由を制約しないための配慮を行い、企業側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を従業員に課すものであれば、当該競業避止義務契約の有効性自体は認められると考えられるとしています。

過大な競業避止義務を課すことは違法?

過大な競業避止義務を課した場合には、優越的地位の濫用等にあたり、独占禁止法に違反する可能性があります。

競業行為を防止するため契約時にしておくべきこと

競業避止義務を課すことは、競業行為を防止するために有効な手段です。ただし、過大な競業避止義務を課すこと等は、独占禁止法上の問題を生じ得ますので、3-2に記載した内容に十分注意して、競業避止義務の取り扱いを検討すべきです。以下、注意点について説明します。

競業避止義務について十分に説明する

競業避止義務を課す場合、義務の内容について実際と異なる説明をし、または予め十分に明らかにしないまま義務を課すような場合には、独占禁止法上の問題が生じ得ます。
そのため、競業避止義務の内容について予め十分に説明し、理解を得る必要があります。

契約書や就業規則に明記しておく

競業避止義務の内容について明らかにするため、契約書に就業規則に必ず記載しておく必要があります。就業規則の内容は、就業規則が有効であれば契約の内容になりますし、契約書に記載された内容は当然に契約内容となるので、義務の内容明らかにするためには有効な手段となります。

フリーランスの競業避止義務に関する判例

事件の概要

知財高裁平成29年9月13日判決
ソフトウェア開発会社であるXが、ソフトウェア開発を受託していたYに対し、競業避止義務(契約書中に、契約期間中及び契約終了後12か月の間、Xの業務内容と同種の行為を行ってはならないという条項がありました。)違反を主張した事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

同判例においては、以下のように判示されました。
Yが顧客から発注を受けて手掛けるソフトウェアの開発業務を行う立場にあり、その際、顧客の営業秘密を取り扱うことは当然想定されることであるため、これらの営業秘密やその他の業務を通じて知り得た知識を用いて競業行為を行うことによりXに不利益が生じることを防止する必要があることは明らかである。そうすると、YがXの業務を行う契約期間中及びその終了後12か月程度の期間につき、本件機密保持契約上の義務に加え、YがXと同種の業務を行うことを禁止する旨の約定をすることは、それがYの職業選択の自由又は営業の自由を制限するものであることを考慮しても十分合理性のあることである。
したがって、本件競業避止条項は有効であり、YはXに対し、当該契約期間中及びその終了後12か月の間、Xの業務内容と同種の行為を自ら行い、又は第三者をして行わせない義務を負うものといえる。

ポイントと解説

本件は、契約書の中に競業避止義務が記載されていたこと、職務内容の性質、競業避止義務賦課の期間を考慮して、競業避止義務違反が認められた事案です。競業避止義務の内容が明確に記載されていたこと、職務の性質上、競業避止義務を課すことがやむを得ないこと、競業避止義務の期間が限定的であることから、競業避止義務合意及び義務違反が認められたと考えらえれます。

フリーランスに対する競業避止義務でトラブルが生じないよう、企業法務に強い弁護士がサポート致します。

フリーランスに対する競業避止義務は、独占禁止法という専門的な問題をはらんでいるため、事後的なトラブルを防止する意味でも、慎重な考慮が必要です。お困りの場合には、お気軽にご相談ください。

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監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
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