監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 問題社員の解雇・雇い止め
採用した社員が、試用期間中に期待していたほどの能力を発揮できなかったり、協調性に欠け社内で問題を起こすような人物である場合、会社としては試用期間が終了した段階で本採用を拒否したいと考えるかもしれません。
目次
試用期間中の社員の問題があるとき、会社はどう対応すべきか?
試用期間中の労働者に問題があるとき、会社としては試用期間中とはいえ簡単に本採用拒否をすることができるのでしょうか。
試用期間中の社員と会社の関係
試用期間の法的性質について最高裁は、個々の事案に応じて判断すべきとしたうえで、試用期間中であっても解約権留保付の労働契約が成立しているとしています(三菱樹脂事件・最判昭48・12・12)。
試用期間中に問題視されやすい要因とは?
試用期間中に問題となりやすいのは、試用期間として適切な期間はどの程度か、試用期間を延長することができるか、試用期間満了後に本採用拒否することができるかといった場面が問題となりやすいです。
問題社員の試用期間を延長することは可能?
試用期間を延長することについては、①会社が必要と認めた場合、②試用期間延長について就業規則に定めがある場合、③試用期間延長につき合意がある場合に可能とされています。
③については真摯な合意があれば問題がありませんが、①、②については合理性が必要になります。では、その合理性の内容はどのように考えればよいのでしょうか。
延長が認められる基準とは?
大阪読売新聞社事件(大阪高判昭45・7・10)は、①試用期間満了時点で本採用するには不適格と判断できるけれども、その後の勤務状況によっては本採用してもよいと再検討する場合や、②本採用をするには適格性に疑問があってためらわれる相当な事由が認められる場合には、試用期間延長に関し合理性が認められるとしています。
試用期間中の解雇は法的に認められるのか?
試用期間が満了した時点で本採用を拒否することは、実質的に解雇と評価されることがあります。それでは、試用期間中に解雇することが認められるのでしょうか。
本採用を拒否したい場合は?
試用期間が解約権を留保されている労働契約である以上、解雇権濫用法理の適用があるとはいえ、通常の解雇よりも広い範囲で解約権を行使し本採用を拒否することができると考えられます。ただ、その広い範囲で認められるとされている解約権にも一定の制限が加えられています。
三菱樹脂事件(最判昭48・12・12)では、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」と判断しています。
したがって、本採用拒否ができるのは、採用時に知ることができなかった労働者の不適格性が試用期間中の勤務状態等によって露見した場合等に限られるということになります。
不当な処分を行うことのリスク
本採用の拒否が解約権の合理性や相当性を欠く場合、これは実質的に解雇と評価される可能性があります。その場合、試用期間であっても労働契約自体は成立していることになりますから、会社は労働者から地位確認の訴えや未払賃金請求、慰謝料請求等をされるおそれがあります。
試用期間の延長・解雇を行う際の注意点
上記のとおり、試用期間の延長や解雇(本採用拒否)については、試用期間において解約権が留保されているとはいえ無制限に認められるのではなく、むしろかなり制限されていると考えるべきです。それでは、実際にこれらを行う場合には、どのようなことに注意すべきでしょうか。
どのような指導・教育が必要か
試用期間中は、本来業務に関しての教育や訓練がなされる期間と考えられるため、長年勤務している他の社員と同等の即戦力として扱うことはできず、やはり業務に関する教育や指導が試用期間中は中心となります。新卒採用者であれば、業務を行うにあたって前提として必要な社会人としての基礎的な素養から必要になるでしょう。他方、中途採用者で専門性が期待されているような場合には、試用期間中であっても指導や教育がそれほど必要ではなく、期待された即戦力として役割を果たせるかという視点で評価されることになります。
能力不足はどう判断するか
一般的には、試用期間中は教育や指導が行われる期間とされているため、単なる能力不足だけでは本採用拒否の合理的な理由と判断されることは難しいと考えられます。能力不足が本採用拒否の理由として認められるためには、試用期間中に十分な指導や訓練を行ったにもかかわらず一向に改善されず、今後指導や訓練をおこなったとしても改善の見込みがないことまでが必要になるでしょう。
中途採用者の場合は、採用時に期待された専門性等が十分な水準に達していないことが本採用拒否につながりやすいですが、合理的な理由といえるかは難しいところです。
試用期間の延長・解雇に関する裁判例
試用期間後に本採用をしなかった裁判例として、アクサ生命保険事件(東京地判平21・8・31)をご紹介いたします。
事件の概要
事件の概要としては、以前就職していた会社で解雇され、前職の会社との間で訴訟が係属していた労働者が、本件会社に入社するにあたっての採用面接において、前職の会社との訴訟を秘匿していたことが採用後試用期間中に発覚しました。本件会社はこれを採用時知り得なかった事情であるとして本採用を拒否したところ、当該労働者がこれを実質解雇であるとして争った事案です。
裁判所の判断
裁判所は、三菱樹脂事件で最高裁が判断した試用期間の法的性質が解約権留保付の労働契約であることを示したうえで、経歴詐称について、「履歴書や職務経歴書に虚偽の内容があれば、これを信頼して採用した者との間に信頼関係が損なわれ、当該被採用者を採用した実質的理由が失われてしまうことも少なくないから、…従業員としての適格性を損なう事情であり得る」とし、当該労働者の行為を経歴詐称と評価して、会社の本採用拒否を有効と判断しました。
ポイント・解説
経歴詐称については、どんな場合でも本採用拒否の合理的な理由になるとはいえませんが、採用時点で経歴詐称をすることができず、かつ、職務との相関関係から労働者の能力や適格性に疑義が生じる場合や、職場内の秩序維持に支障をきたす場合、さらには会社と労働者との信頼関係を破壊するような重大な問題となる場合には、本採用拒否が有効と判断される可能性が高まると考えられます。
試用期間の延長及び解雇を検討される際は弁護士にご相談下さい。適切な対応方法や注意点についてアドバイスいたします。
試用期間後の本採用拒否は、実質解雇として扱われる可能性があり、過去の裁判例からは会社側に不利な判断となっているものも多く見られます。決して安易に本採用拒否を行うようなことはせず、弁護士法人ALG大阪法律事務所にご相談ください。
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