監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
- 問題社員の解雇・雇い止め
一部の社員が休職・復職を繰り返すことにより、他の社員達への負担が増大して業務効率が低下し、ひいては企業全体の業務効率の低下を招くおそれがあります。また、一部の社員の休職・復職に対し企業が適切に対応しなければ、他の社員達が企業に対し不平・不満を抱いて離職してしまうということにもなりかねません。そのため、休職・復職を繰り返す社員への対応を把握しておくことは、企業にとって極めて重要と言えます。そこで、休職・復職を繰り返す社員に対し、企業がどのように対応していく必要があるかについて解説いたします。
目次
私傷病休職について
私傷病休職とは、業務外の傷病による欠勤又は不完全な労務提供が一定期間に及んだ場合に行われる休職措置のことをいいます。 休職期間内に休職者の私傷病が治癒せず就労不能なまま休職期間が満了すれば、その休職者は自然退職又は解雇となる可能性があるため、企業が休職者の私傷病が「治癒」しているか否かについて判断しなければならない場合があります。企業は、休職者が自ら選んだ医師(主治医)及び企業側が指定した医師(産業医)の診断書等を判断資料とすることが多いですが、企業が休職者に対し産業医の診察を受けるよう促しても、休職者がこれに応じない場合があります。このような場合、企業は休職者に対し、就業規則の規定の内容が合理的であり、かつ診察を求める合理性・相当性があれば、当該規定に基づき業務命令として受診命令を出すことができます。なお、就業規則の規定が無い場合であっても、企業が休職者に対し産業医の診断を受けるよう求めることは、「労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置である」として認められる場合があります(東京高等裁判所昭和61年11月13日)。
就業規則の整備による再休職の抑制
休職制度は、労働基準法上、就業規則の任意的記載事項であるため(労働基準法89条)、企業が休職制度を採用するか否かは自由です。もっとも、就業規則を整備することにより、社員が安易に休職・復職を繰り返すことを抑制する効果を発揮する場合があるため、就業規則において休職制度を規定・運用しておくことは重要といえます。
休職期間の通算に関する規定
休職期間の通算制度とは、以前に私傷病により休職した社員が再度私傷病により休職した場合に、以前の休職期間と再度の休職期間を通算する制度のことです。断続的な休職に対応するためには、就業規則に休職期間の通算制度を規定しておくことが望ましいといえます。 私傷病の休職期間を通算するためには、基本的には、以前の私傷病と再度の私傷病が同一の傷病である必要があります。もっとも、とりわけ精神疾患などについては、症状などが同様でも傷病名が異なる場合が少なくないため、就業規則に単に「同一の傷病」と規定してしまうと、通算できないことになる可能性があります。このような事態を回避するためには、「同一又は類似の傷病」と規定しておくことにより、傷病名が異なっても通算できるようにしておくことが考えられます。
解雇事由に該当する旨の規定
休職期間内に休職者の私傷病が治癒せず就労不能なまま休職期間が満了した場合について、就業規則上これを解雇事由に該当する旨を規定することが考えられます。もっとも、解雇の場合は休職者に対する意思表示が必要となり、解雇権濫用法理が適用される可能性があるなどといった点に留意する必要があります。
再休職を防ぐには復職の見極めが重要
休職者の私傷病の治癒が不十分なまま復職させてしまうと、すぐに再度休職してしまい、休職期間が全体として長期化してしまう可能性があります。そのため、企業にとっては復職の時期を見極めることが重要となります。
主治医の診断書による判断
産業医の意見も判断材料となる
休職者が復職する際、企業に対し自ら選んだ医師(主治医)の診断書を提出し、企業が休職者の復職の可否を判断する際、この診断書を判断資料とする場合があります。もっとも、主治医は休職者により選ばれた立場の者であることから、休職者の治療という観点に基づく診断を行い、休職者の主観のままに診断書を作成する場合もあり得ます。そのため、企業としては、主治医の診断書のみを参考にするのではなく、休職者が復職して労働契約を履行できるか否かという観点に基づく企業側の指定する医師(産業医)の見解も踏まえた上で、最終的には企業が復職の可否を判断するということを休職者に対し伝える必要があります。その上で、企業は休職者に対し、休職者が選んだ主治医の診断のみでは復職の可否を判断できない旨を説明し、休職者が産業医の診断を受けるよう要請することが望ましいといえます。
再休職を防止する職場復帰後のフォロー
休職者が職場に復帰した後は、業務の負担を軽減させ、段階的に通常業務に戻すといったフォローをすることが望ましいといえます。具体的には、短時間勤務、残業の禁止、出張制限、定型的業務への従事などといったフォローをすることにより、再休職を防止することが考えられます。
休職者の私傷病の「治癒」の判断に関する裁判例
休職者の私傷病が「治癒」したか否かの判断に関する裁判例として、名古屋地判平成29年3月28日をご紹介いたします。
事案の概要
本事案は、復職を可とする休職者側の主治医の診断書等と復職を不可とする企業側の産業医等の意見書が出ており、精神疾患により休職・復職を繰り返していた社員が、休職期間の満了により解雇となったことについて、休職期間の満了前に精神疾患が治癒していたとして、解雇の無効を争った事案です。なお、当該社員は、解雇となる前に、リハビリ出社(復職後に通常業務に就く前の慣らし期間として、暫定的に軽易な業務に就かせること)をしていました。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、当該社員のリハビリ出社前やリハビリ出社中における言動、診察中の言動といった具体的な事実に基づき、復職不可と判断した産業医等の意見を採用し、当該社員の精神疾患は「治癒」していなかったと判断しました。
ポイント・解説
上記の裁判例において、復職不可と判断した産業医等の意見が採用された理由としては、産業医等の意見が休職者の言動などを踏まえたものであったためと考えられます。そして、産業医等が休職者の言動などを踏まえて復職可能か否かの意見書を作成するためには、産業医等による休職者との面談・診断やリハビリ出社の実施などにより、休職者の復職可能性に関する具体的な情報を入手することが重要といえます。
休職と復職を繰り返す従業員の対処法について、弁護士がアドバイスさせて頂きます。
企業が休職と復職を繰り返す社員に対する対応を誤れば、休職している社員との間で無用な紛争が発生する一方、休職していない社員にも不平・不満が生まれ離職を招くなどし、最悪の場合、企業の倒産も引き起こしかねません。この問題は、事前の準備が極めて重要であるため、是非とも専門家である弁護士にお早めにご相談することをおすすめいたします。
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