監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
婚姻中に一生の買い物として、マンションを購入されたご家庭もあるのではないかと思います。もっとも、何らかの事情で離婚することとなり、財産分与を行う場合、夫婦で購入したマンションをどのように分与すべきかよく分からない方も多いのではないかと思います。今回はマンションの財産分与の方法や注意すべき点について解説していきたいと思います。
目次
マンションは財産分与の対象になるか
財産分与は夫婦が婚姻後、離婚するまでに協力して形成した財産を清算する手続です。そのため、婚姻後に購入したものは通常、財産分与の対象となります。もっとも、親から相続したものの場合や別居後に購入したものの場合は原則として財産分与の対象とはならない点に注意する必要があります。それでは、マンションが財産分与の対象とならない場合について見ていきましょう。
親から相続したマンションの場合
夫婦の一方が単独で有する財産のことを特有財産といいます。特有財産は夫婦が協力して形成した財産ではないことから、財産分与の対象とはなりません。特有財産については、主に①夫婦の一方が婚姻前から有していた財産、②婚姻後であっても親族からの贈与、相続等によって取得した財産、③夫婦の合意により特有財産とした財産の3種類に分類されます。
親から相続したマンションの場合、上記②に該当することから特有財産となります。
そのため、当該マンションは財産分与の対象とはなりません。
別居後に購入したマンションの場合
前述の通り、財産分与は夫婦が婚姻後、離婚するまでに協力して形成した財産を清算する手続です。
夫婦が別居している場合は通常、夫婦が協力して財産を形成する状況にはありません。
そのため、別居後に購入した財産は原則として財産分与の対象とはなりません。
よって、別居後に購入したマンションは財産分与の対象とはならないと考えられます。
もっとも、婚姻中に夫婦で貯めたお金をマンションの購入資金に充てた場合は、充てた金額相当分について財産分与の対象となる可能性があります。
離婚時にマンションの財産分与をする方法
それでは、離婚時にマンションの財産分与をする際の具体的な方法について見ていきたいと思います。マンションの財産分与をする方法としては主に以下の2つの方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
どちらかが住み続ける
1つ目の方法は夫婦の一方がマンションに住み続ける代わりに、もう一方にマンションの価値(評価額)の半分を渡すことです。マンションと職場が近いこと等の事情から夫婦の一方がマンションに住み続けたい場合、上記の方法をとることでマンションに住み続けることが可能となります。
一方で元々の名義人と今後マンションに住み続ける者が別人の場合、名義変更をすべきでしょう。また、マンションのローンが残っている場合は、今後のローンの支払いに関する取り決めをしておかなければ後にトラブルとなる可能性があります。
売却
2つ目の方法はマンションを売却して現金化し、半分ずつ分け合うことです。
売却するため、1つ目の方法のように名義変更をする必要がありません。また、ローンが残っている場合、マンションの売却代金からローン残額を控除した分を半分ずつ分け合うことになります。そのため、1つ目の方法のように今後のローンの支払いに関する取り決めをする必要がありません。
このようにシンプルで分かりやすいのが2つ目の方法の特徴です。もっとも、オーバーローン(ローン残高がマンションの評価額を超える場合)の場合には2つ目の方法をとれない点に注意する必要があります。
マンションの評価方法
マンションの評価方法については、主に以下の評価方法が挙げられます。なお、家の価値を知る方法も同じです。
- 固定資産税評価額
- 実勢価格
- 査定評価額
- 公示価格
- 路線価
マンションの価値を正確に知ることはマンションの財産分与をする上で非常に重要となります。
上記の評価方法のうち、いずれの評価方法を採用するかによって金額が大きく変わってくることもあります。とはいえ、いずれの方法をとるべきかについて、不動産業者等以外の一般の方が判断するのは難しく、場合によっては損をしてしまう可能性があります。
そのため、いずれの方法をとるべきなのか迷った際には財産分与に精通している弁護士に相談することをおすすめします。
所有者が変わる場合は名義変更を忘れずに
財産分与により、マンションの所有者が変わる場合は以下のトラブルを避けるため名義変更をする必要があります。
例えば、財産分与後もマンションの名義人が元の所有者のままになっている場合、勝手にマンションを売却されてしまい、マンションを失う可能性があります。
また、マンションの名義が夫婦の共有名義のままになっていた場合、後に家を売却しようとしても単独では売却できないため不都合が生じます。
このようなトラブルを避けるためにも名義変更を忘れないようにしましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
マンションの頭金を特有財産から出していた場合、どのように財産分与すればいい?
例えば、夫婦が5000万円のマンションを購入する際、妻がマンションの頭金2000万円を特有財産から出し、残額を借り入れて、分割払をしていた場合、マンションの時価が3000万円、残ローンが1000万円だとすると、どのように財産分与すれば良いのでしょうか。
この場合、以下のように考えることができます。
すなわち、妻はマンションの購入代金5000万円のうち、2000万円を負担したので、妻はマンション時価の5分の2相当額の形成に寄与したと考えることができます。
そのため、財産分与の対象となるのは2000万円(マンションの時価3000万円-残ローン1000万円)のうち、妻の寄与の割合である5分の2を控除した1200万円(2000万円の5分の3)となります(なお、妻にこれまでの寄与割合がある場合はこれまでの寄与割合に頭金の分(5分の2)を上乗せした分を控除することとなります)。
よって、上記の場合は1人当たりの取り分が600万円となります。
マンションの財産分与でかかる税金
・財産分与を受ける者
財産分与を受けた場合に課税されるのは相手方名義のマンションの分与を受けた場合です。この場合、登録免許税と毎年の固定資産税を納税する必要があります。
一方で、不動産取得税は課税されません。また、贈与税も原則として課税されません。もっとも、①マンションの価額が過当な場合は過当部分について贈与税が課税されます。また、②贈与税等の負担を免れるために偽装離婚をした場合も贈与税が課税されるか可能性があります。
・財産分与する者
財産分与で自身の名義のマンションを譲渡する際、譲渡時のマンションの時価が取得時の価額より高くなっていた場合には譲渡所得税及び住民税が課税されます。
マンションの財産分与に関するQ&A
婚姻前に購入したマンションで家賃収入があります。家賃分は財産分与の対象になりますか?
婚姻前に購入したマンションは特有財産であり、特有財産から生じた賃料・利息・配当金等の果実は原則として特有財産です。
そのため、家賃収入分については原則として財産分与の対象とならないと考えられます。
もっとも、夫婦が協力してマンションの維持・管理等を行っていた場合、家賃収入分は夫婦が協力して形成した財産といえます。
そのため、上記の場合は婚姻期間中の家賃分が財産分与の対象となると考えられます。
夫が私に内緒で投資用にマンションを購入していました。結婚後に購入されたもので、ローンが残っています。これは財産分与の対象になりますか?
投資用マンション購入時の頭金やローン返済のお金の出所によっては財産分与の対象となる可能性があります。
すなわち、上記のお金が夫婦の共有財産(預貯金等)から出ている場合には財産分与の対象となる可能性があります。
もっとも、上記のお金の出所がいずれも夫の特有財産である場合には財産分与の対象とはならないと考えられます。
マンションの管理費や修繕積立金は財産分与の対象になりますか?
マンションの管理費や修繕積立金については、いずれもその目的がマンション自体の管理・修繕にあり、返金等も予定されていないことから、そもそも夫婦の共有財産とはみなされません。
よって、マンションの管理費や修繕積立金は財産分与の対象とはならないのが通常です。
もっとも離婚後に夫婦の一方がマンションに住み続ける場合は後のトラブルを防止するため、マンションの管理費や修繕積立金の負担に関する取り決めをしておくことが望ましいです。
マンションの財産分与を有利に進めるためにも、弁護士に相談してみましょう
今回はマンションの財産分与について解説しました。
親から相続した場合や別居後に購入した場合等、そもそもマンションが財産分与の対象とならない場合があります。
また、夫婦の一方がマンション購入の際に頭金を特有財産から出している場合には、寄与割合を考慮する必要があります。
更に、財産分与の際に名義変更やローン等の支払に関する取り決めをしておかなければ後々トラブルとなる可能性があります。
とはいえ、一般の方が全ての点に気をつけながら財産分与の手続を進めていくことは困難であり、スムーズに手続が進んだと思っていたものの実は損をしている場合もあり得ます。
財産分与を有利に進めていくためにも、財産分与でお困りの際にはぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)