監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
養育費を取り決める方法は、裁判手続(調停・審判等)以外に公正証書により取り決める方法があります。
公正証書により養育費を取り決める方法は、合意書と同様、当事者間だけでその内容を取り決めることができるため、裁判手続に比べ、利用しやすい手続であるにもかかわらず、調停調書や審判書と同様の効果を持たせることができることから非常に有用な手続の1つといえます。
本稿では、その手続に関するメリット・デメリット等を紹介します。
目次
養育費を公正証書に残すべき理由とは?
まず、「公正証書」とは、公証人により作成される文書であり、公文書にあたります。
私人間のみで作成される単なる合意書(私文書)とは異なり、公正証書により養育費を取り決めた場合(※強制執行認諾文言付きの公正証書の場合)、裁判所の手続を経ることなく強制執行が可能となるため、相手方が取り決めた養育費支払ってこないときに備えて公正証書で取り決める必要があります。
養育費に関することを公正証書に残すことのメリット
養育費に関して双方納得の上、取り決めた場合であったとしても、後々支払われなくなるケースは少なくありません。そのような場合に備えて、公正証書で取り決めておく必要があります。
合意した条件について争いにくくなる
公正証書は、通常の合意書と異なり、双方の当事者のみならず、公証人の面前で公証人がその内容を確認しつつ取り決めるため、後々になって取り決めた内容や条件に関して異議を唱える等の紛争が生じにくいといえます。
養育費の支払が滞ったときに強制執行ができる
養育費の支払いが滞った場合には、最終的には強制執行手続を行わなければなりません。
通常の合意書(私文書)であれば、その文書に基づき、強制執行を行うことはできません。そのため、養育費請求調停又は審判を申し立てる必要があります。
しかし、強制執行認諾文言付きの公正証書で取り決めた場合には、上記のような裁判手続を経ることなく、強制執行を行うことが可能です。
財産開示手続きが利用できる
取り決められた養育費が支払われなくなった場合、権利者は強制執行を行わなければなりません。
強制執行を行うには、義務者の財産に関する情報が必要です。民事執行法の法改正により強制執行認諾文言付き公正証書等の債務名義を有している権利者は、それに基づき権利者の財産に関する情報取得を行うことができるようになりました。そのため、支払義務者の預貯金口座の有無や預金残高等の情報も知ることができるようになりました。
養育費に関することを公正証書に残すことのデメリット
養育費を公正証書で取り決めたときには、上記のようなメリットがある反面、作成費用や時間がかかる等のデメリットや作成にあたって当事者双方の協力が必要になることから公正証書を利用できる場面が限られてきます。
作成費用がかかる
公正証書の作成費用は、取り決める対象の金額(養育費であればその合計額)によって、以下の表のとおり、金額が定まります。
なお、大阪市では、公正証書作成にかかる費用の補助金が交付される制度もあります。
公正証書の作成を弁護士に依頼した場合には、公正証書作成費用のほか、着手金や出張日当等の費用が必要になってきます。
目的の金額(養育費の合計金額) | 公正証書作成の手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超、200万円以下 | 7,000円 |
200万円超、500万円以下 | 11,000円 |
500万円超、1,000万円以下 | 17,000円 |
1000万円超、3,000万円以下 | 23,000円 |
3000万円超、5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円超、1億円以下 | 43,000円 |
作成するのに時間がかかる
公正証書の作成は、申込みを行ってから作成準備に入ります。そのため、申込み当日に公正証書を受領できるわけではありません。
公証役場や担当の公証人の忙しさにもよりますが、申込みから完成までに2~3週間程度要することが多いです。
作成するのは夫婦で協力しなくてはいけない
基本的に公正証書を作成する際には、当事者双方が公証役場へ行き、作成しなければなりません。
しかし、公証人が代理人による出席を認めた場合には、当事者に代わって代理人が出席することが可能です。そのため、相手方と顔を合わせたくない場合には、弁護士へ依頼することをおすすめします。
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養育費と公正証書の書き方
公正証書を作成する場合、後々取り決めた内容に疑義が生じないよう、その支払内容、支払方法、期限、条件等を具体的かつ明確に取り決めておく必要があります。
毎月の支払額
まずは、義務者が月々支払う養育費の具体的な金額を記載しなければなりません。
義務内容を特定し、相手方が取り決めに基づき履行されているかどうかの確認を行うため、具体的な金額を記載する必要があります。
養育費の額は、裁判所が作成する算定表(下表参照)に基づき、当事者双方の収入、子の人数等により相場が定められています。
養育費の支払日
養育費の支払日に関しては、双方の話し合いによって取り決めることになります。
支払義務者が金銭を費消してしまい、履行されないことを防ぐために、支払義務者の給料日等を確認した上で、その給料日から近い期限に設定すべきでしょう。
支払開始日
養育費は、一般的に請求時が支払い開始時期となります。
そのため、相手方に対して書面等で養育費の支払い請求を行っておくべきでしょう。
支払終了日
通常、養育費の終期は20歳まで(満20歳に達する日又はその日の属する月)です。
もっとも、当事者間の合意で延長することも可能であり、近年は大学へ進学率が増えたことから、22歳までとするケースもあります。その際、「大学卒業まで」といった記載をした場合、子が浪人や留年をした場合に紛争になりかねません。そのため、年齢で明確に終期を規定することが望ましいです。
支払方法
支払い方法についても具体的に取り決めておくべきです。
銀行口座に振り込んで支払う場合には、振込手数料の負担をどちらの負担とするかについても取り決めておくべきです。なお、通常、振込手数料は支払う側の負担とされます。
養育費の変更について
例えば、養育費に関して取り決めを行った後に、リストラや転職等により収入が大幅に変わった場合、再婚して養子縁組を行った場合、子がアルバイト等により収入を得るようになった場合等、取り決めたときの事情から大きく事情が変更する場合があります。
このような場合は、当事者間で協議を行い、協議が奏功しなかった場合には、養育費増額/減額調停を申し立てることとなります。
強制執行について
養育費を公正証書で取り決めた場合であっても、強制執行認諾文言がなければ当該公正証書により強制執行を行うことはできません。そのため、作成の際には必ず「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」という強制執行認諾文言を記載しておく必要があります。
一度公正証書に養育費のことを残したら、金額は変更できない?
基本的には変更することは困難です。
しかし、当事者が養育費に関して取り決めを行ったときに前提としていた事情に、重大な事情変更が生じ、その事情変更を当事者が予見することができず、事情変更が当事者の責任によらないやむを得ない場合、そして当初の取り決めの内容のままでは著しく公平に反するような場合であれば、金額の変更が可能です。金額の変更を行う場合には、当事者間による協議か養育費増額/減額調停の申立てを行う必要があります。調停は、金額の変更を希望する側が申し立てることになります。
よくある質問
養育費について公正証書を作成したいのですが、相手に拒否された場合はどうしたらいいですか?
相手方から公正証書の作成を拒否された場合は、公正証書の作成は困難となります。 しかし、あくまでも養育費に関して公正証書で取り決めるのは、支払いが滞ったときに強制執行へと円滑に移ることにメリットがあるからです。 公正証書以外の方法としては、①養育費に関する内容、条件等を合意書(私文書)の形式で作成する方法、②養育費請求調停又は審判を申し立てる方法があります。なお、①の場合は、上述のとおり、支払いが滞ったときは、養育費請求調停又は審判を申し立てる必要があります。もっとも、私人間で作成された合意書であったとしても一定の意義を有しますので、私文書であったとしても作成しておくことがベターでしょう。
養育費の公正証書はどこで作成することができますか?
全国の公証役場で作成することが可能です。公正証書の作成の際に当該公証役場へ出向く必要があるので、自宅又は勤務先からアクセスのよい公証役場を選択すべきでしょう。 また、公証役場によってはなかなか予約ができないところもあるので、事前に公証役場に混雑状況を確認することも必要でしょう。
離婚の際に公正証書を作成したいのですが、養育費に関して書けないことなどありますか?
公正証書に記載する内容は基本的に当事者の協議によって定まります。 しかし、いくら当事者間で合意に至ったものであったとしても、法律や制度の趣旨に反するような内容については記載できない可能性があります。 例えば、子との面会交流を実施することを条件として養育費を支払う等は法の趣旨に反するものとして基本的に記載できません。
公正証書がないと養育費がもらえませんか?
公正証書により養育費の取り決めを行わなかった場合でも、養育費請求調停や養育費請求審判を申し立てることで強制執行に必要な債務名義を取得することが可能です。 公正証書により取り決めを行うメリットは、相手方が取り決めをしたはずの養育費の支払いを行わなくなったときに、裁判所の手続を経ることなく強制執行へ円滑に移ることができる点にあります。 公正証書での取り決めを行わなかった場合に養育費の請求ができないわけではありません。
養育費の公正証書を作成する際は弁護士にご相談ください
公正証書に記載する内容については当事者間で協議を行わなければなりません。そして、養育費の金額だけでなく、支払方法、支払期日、支払期限や条件等を細かく具体的に定める必要があるため、なかなか当事者間では話し合いが進まないこともしばしばあります。
さらに公正証書の内容について公証人との打ち合わせを要したりすることもあるため、公正証書完成までに予想していた以上に労力がかかったり、時間を要したりすることは少なくありません。
公正証書を不備なく作成するためにも養育費の取り決めに関してお悩みの方は一度弁護士へご相談下さい。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)