監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
養育費は離婚の際によく問題になります。
養育費の額が問題になることもありますが、それだけでなく、その支払い方法もしばし問題になります。
養育費は基本的には月々支払われるものですが、義務者(支払う側)の事情によっては一括払いを請求することもあります。
以下では、養育費を一括して請求した場合の問題点や注意点を解説していきます。
目次
養育費の一括払いや請求は認められる?
養育費は、未成年者が生活するための費用ですので、定期的に支給されるのが原則です。
もっとも、養育費の一括払いの請求は認められます。
義務者から将来にわたって確実に給付を受けることが期待できない場合に、当事者で将来の養育費を一括して支払う旨の合意をして一括払いの請求をすることも可能です。
養育費の一括払いのメリット
養育費の一括払いのメリットとして、一度に多額の金銭の給付を受けることができます。
また、将来、相手方が養育費の支払いを怠った場合、相手が任意に支払わなければ強制執行などの手続きをとる必要がありますが、そのような手続きを取る必要がなくなります。
養育費の一括払いのデメリット
通常、養育費の合意をした後、転職等により義務者の給料が上がったことや子供が15歳になったこと等の養育費の増額が認められる事情があれば、事情変更があるとして、養育費の増額が認められることがあります。
しかし、一括払いを行った後に事情の変更が生じたとしても、既に履行を終えて債務は消滅している以上、この事情変更による養育費の増額・減額が認められにくくなります。
養育費一括の場合の計算方法
大きく分けて2段階あり、①月額の合計を出す、②合計金額から一定額を減額するという段階があります。
月額の合計を出す
裁判所が出している養育費算定表を参考にして月額の養育費を計算するのが良いでしょう。
利用方法として、まず、権利者の総収入または課税される所得金額が近似するメモリ(横軸)をチェックします。
次に義務者の総収入または課税される所得金額が近似するメモリ(縦軸)をチェックします。
そして、横軸をチェックしたメモリから真上に向かう直線と縦軸のチェックしたメモリから真右に向かう直線との交差するマスが、おおよその支払うべき養育費になります。
この算定表を用いれば、大体の養育費の額を把握できますので、ぜひ参考にするのが良いでしょう。
具体的には、
子供の生活費×(義務者の基礎収入÷権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)÷12
子供の生活費については
義務者の基礎収入×(子供の数÷(親の指数+子の指数))
で算定します。
【子供の生活費係数】
年齢 0~14歳 62
15~17歳 85
【基礎収入】
総収入×0.54ないし0.38(給与所得者の場合)
総収入×0.61ないし0.48(自営業者の場合)
合計金額から減額する(中間利息の控除)
養育費は、性質上、月々受け取る性質を有する金銭です。
そうすると、養育費は毎月支払われるべきもので、一括払いとなると、将来支払われるべき養育費を受け取ることになります。
そして、金銭は、受け取った時から利息が発生します。
そのため、将来発生する利息を控除する必要があります。
この利息の控除を中間利息の控除といいます。
養育費を一括請求する方法
一括払い(将来の養育費を一括して支払う旨の合意)の合意をします。
具多的には、調停の合意内容として、「相手方は、申立人に対し、長男○○の令和〇年〇月〇日から成年年齢に達する日の属する月までの養育費として、〇万円を支払うこととし、これを、令和〇年〇月〇日限り、申立人の○○銀行○○支店の普通預金口座に振り込む方法により支払う。」などの文言を記載しましょう。
養育費一括で請求する際の注意点
養育費は、基本的には、月々支払われるものです。
そのため、通常の養育費の支払いとは異なる注意が必要です。
課税対象になる可能性がある
養育費は、原則として、課税の対象になりません。具体的には、所得税や贈与税がかかりません。
贈与税は、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」(相続税法21条)について、贈与税が課税されません。
そして、「通常必要と認められるもの」の範囲は、「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいうものとする。
したがって、生活費又は教育費の名義で取得した財産を預貯金した場合又は株式の買入代金若しくは家屋の買入代金に充当したような場合における当該預貯金又は買入代金等の金額は、通常必要と認められるもの以外のものとして取り扱うものとする」(相続税基本通達21-3の5)とされています。
そうすると、一括払いで養育費を受け取った場合、贈与税の対象になります。
贈与税はいくらから対象?
贈与税は、1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。
したがって、一人につき110万円を超えた一括払いがなされると、贈与税がかかります
贈与税がかからない方法はある?
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度を使用すれば、1500万円まで非課税となります。
具体的には、
- ①平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間
- 受贈者(教育資金管理契約を締結する日において30歳未満の人に限ります。)が、教育資金に充てるため、金融機関等とのその教育資金管理契約に基づき、贈与者(受贈者の直系尊属である父母や祖父母など。)から
- ②信託受益権を取得した場合
- ③書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または
- ④書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合
その信託受益権または金銭等の価額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書の提出等をすることにより、受贈者の贈与税が非課税となります。
追加請求が難しくなる可能性がある
月ごとに養育費を支払う場合、養育費の合意をした後、転職等により義務者の給料が上がったことや子供が15歳になったこと等の養育費の増額が認められる事情があれば、事情変更があるとして、養育費の増額が認められることがあります。
しかし、一括払いの場合、前述した通り、一括払いを行った後に事情の変更が生じたとしても既に履行を終えて債務は消滅している以上、この事情変更による養育費の増額・減額・追加請求等は認められにくくなります。
再婚で返金が必要となる場合がある
権利者側の再婚によって養育費の義務者への返金が認められる場合もありますが、その可能性は低いと考えられます。
前述した通り、養育費の一括払いの合意は、ある程度の事情変更があることを想定して合意します。
合意後の事情変更は当然予想できますので、適正な養育費との間に差ができたとしても直ちに返還できることにはなりません。
また、養育費の一括払いにより既に債務は理由のある弁済として消滅している以上、再婚したからといって事後的に弁済が不当利得と判断されるとは考えにくいです。
そのため、権利者側が再婚したからといって養育費を返金しないといけなくなる可能性は低いといえるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費の一括払い・請求をお考えの方は弁護士にご相談ください
養育費の一括請求については、上記の通り、メリット・デメリットあります。
そのため、養育費の一括請求をするか否かは、慎重に判断するべきでしょう。
そこで、養育費の支払い・請求について経験豊富な我々弁護士に相談されることをお勧めいたします。
養育費を一括請求するかで迷っていれば、上記メリット・デメリットを踏まえて、適切な判断ができるように私たちがサポートします。
-
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)