監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
目次
協議離婚の進め方や流れ
離婚の話し合いをする際には、様々なことを取り決めなければなりません。
また、双方が感情的になりがちで冷静に話し合うことが困難になるケースは少なくありません。
以下のとおり、項目ごとに、順を追って話し合うことが重要です。
①離婚すること自体に双方合意ができているか。
②離婚条件について双方合意ができているか。
ア 子供の親権について双方合意ができているか。
イ 金銭的な条件(財産分与、養育費、慰謝料、年金分割等)、非金銭的な条件(子供との面会交流等)の条件について双方合意ができているか。
相手に離婚を切り出す
離婚の際に、双方離婚すること自体には合意しているものの、離婚条件が折り合わず紛争化するケースはよく見受けられます。
特に、家計の管理を行っていない当事者が、思いのほか共有財産がないことを知り、相手方が財産を隠しているのではないかといった疑念を抱くことはよくあります。
離婚の話を切り出す前には、相手方がどのような財産をどの程度有しているのか、事前に知っておくべきでしょう。
また、離婚の話し合いにおいては、ついつい日頃の不満やストレスについて口走ってしまうことがあります。しかし、そのような場合、生産的な話し合いにならず、協議での離婚が困難となります。
協議離婚を進めるには互いに冷静に話すことが重要といえます。
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきこと
- 慰謝料:離婚の際に必ず生じるものではありません。DVや不貞等、一方当事者が婚姻関係を破綻させたことに帰責性が認められる場合に生じるものです。
- 財産分与:財産分与は、共同生活をしている夫婦が婚姻中に形成した財産を分けるものです。
結婚する前に互いが有していた財産、親からもらった財産、相続で得た財産等は財産分与の対象となりません(それらの財産を「特有財産」といいます。)。 - 年金分割:離婚後2年以内であれば、年金分割を請求できる場合があります。年金分割のための情報通知書をお近くの年金事務所で取得しましょう。
- 養育費:子を監護・養育しない親は、原則として子を監護養育している親に対して、子が社会人(多くの場合20歳まで)となるまでの生活費・教育費を支払わなければなりません。養育費の額については、裁判所が公開している算定表が基準となります。
- 親権:未成年者の子がいる場合、離婚するにあたって、親権者を定めなければなりません。財産分与や養育費等の他の項目は離婚後に取り決めることも可能ですが、親権者が定まっていないまま離婚することはできないため、まず親権者を取り決めることが先決です。
- 面会交流:面会交流は、あくまで子供の監護・養育のために適正な措置を求める権利であり、子を監護・養育していない親が他方の親に対して、子供と会わせるように求めることができる権利ではないと考えられています。そのため、面会交流にあたっては、子供の意向も反映されるべきといえます。
離婚協議書の作成と公正証書の作成
離婚条件について合意に至った場合、後々の紛争を防ぐために離婚協議書や公正証書等の書面で離婚条件を定めておいた方がよいです。
離婚協議書は、当事者のみで作成でき、特段様式が定まっているわけではありません。そのため、作成が容易である、費用がかからないという点でメリットがあります。しかし、仮に一方当事者が定まった離婚条件に違反した場合には、その書面をもって強制執行をすることができず、調停や訴訟を提起する必要があります。
公正証書は公証人によって作成される書面であり、強制執行認諾文言付きの公正証書によって離婚条件を定めた場合、調停調書や判決書と同様に、その書面をもって、強制執行ができる点でメリットがあります。しかし、公正証書の作成に費用がかかる点、当事者のみですぐに作成できるわけではない点でデメリットがあるといえます。
離婚届けを役所に提出する
離婚届には、当事者の署名・押印の他、証人2人の署名・押印が必要となります。また、未成年者の子がいる場合、親権者を定めて、離婚届に記入しなければなりません。
協議離婚が成立するためには、離婚届を役所に提出しなければならず、離婚届の他に身分証明書、戸籍全部事項証明書を持参する必要があります。離婚届を提出する場合には、提出先の役所に事前に準備するものを確認した方がよいでしょう。
離婚届を提出するタイミングに注意
相手方が強く離婚を希望しているような場合には、先に離婚を成立させてしまうことで、財産分与や慰謝料等の離婚条件を定める話し合いに応じてくれなくなる危険性があります。
早期に離婚を成立させる必要性が高くないのであれば、しっかり離婚条件について協議の上、離婚届を提出すべきです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
協議離婚の場合には、双方が離婚について合意に至らなければ、離婚することができません。
一方当事者に離婚意思がない場合や離婚条件が一向に折り合わない場合には協議離婚ができないため、その場合には調停離婚や裁判離婚を検討する必要があります。
別居を考える
協議離婚が成立する前に別居を開始することで、離婚後の住む場所を確保することができます。
また、離婚が成立するまで婚姻費用の支払いを受けることで、早期に離婚を成立させるよりも経済的に有利となる場合があります。
DVやモラハラ等がある場合には、離婚協議を切り出すことで身の危険が生じる可能性があるため、離婚協議に入る前に別居することを検討すべきでしょう。
調停離婚を視野に入れる
調停離婚は、家庭裁判所で調停委員を交えて離婚の話し合いを進めていく手続です。
調停離婚では、基本的に家庭裁判所への出廷が必要になります。また、書面や資料の提出を求められる場合があり、手間も要します。さらに、1ヶ月に1回程度のペースで話し合いがなされるため、離婚に至るまでに長期間を要する可能性があります。
手間と時間を要する調停離婚を回避するためにも協議離婚で離婚を進めたいと考える当事者も少なくありません。そのような場合には調停離婚を検討していることを相手方に伝えるのもよいかもしれません。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
別居中で相手方と連絡が取れない場合やDV・モラハラがある場合には、協議離婚を進められないことがあります。そのような場合には弁護士等の第三者を活用するか離婚調停を申し立てることも検討すべきでしょう。
別居している場合
別居中であったとしても、相手方と連絡が取れるのであれば協議離婚を進めることは可能です。
別居中であれば、一般的に離婚が成立するまで、一方当事者に婚姻費用の支払い義務が生じることになります。婚姻費用について合意に至らない場合には婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。
相手方の連絡先や居場所が分からない場合等、連絡できなくなった場合にはご自身で協議離婚を進めることは困難となります。一度弁護士へ相談しましょう。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
DVやモラハラを受けている場合には、協議離婚を切り出すことでDVやモラハラが悪化する危険性があります。身の危険がある場合には、警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談やシェルター等を利用しつつ、離婚を進めるには弁護士等の第三者を活用した方がよいでしょう。
協議離婚を進める際の注意点
協議内容を録音しておく
当事者同士で話し合いを行った場合、以前と言っていることが異なるケースが少なくありません。このような主張の変遷を防ぐためにも録音しておくことは重要です。
なお、録音することは特に相手方に知らせる必要はありません。一般的に録音することを秘匿して録音したものでも証拠能力が認められています。
離婚届不受理申出を提出しておく
協議離婚が成立するには、離婚届を役所に提出する必要があります。
現時点では離婚を成立させたくないと考えているが、既に離婚届に署名・押印をして相手方に渡してしまっているような場合には、離婚不受理届を役所に提出しておくことで離婚届が受理されることを防止できます。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
不貞やDVに関する証拠については、その証拠価値によっては相手方へ開示しない方が有利な解決を引き出せるケースがあります。
保有している証拠を全て開示してしまうことで、逆に決定的な証拠がないことが分かってしまうリスクもあります。
また、それらの証拠を開示することで相手を刺激し、身の危険が生じるリスクもあります。
開示すべきかどうか、また開示するタイミングについてはよく検討すべきでしょう。
協議離婚の子供への影響
父母の離婚は子供へ多大な影響を与えかねません。
片方の親と離れて暮らすことの理解や氏の変更が生じる場合にはそのことに関して理解を得られるように事前に話をすることも重要です。
男性でも有利に協議離婚の進められるのか
一般的に男性側は、子供の監護・養育実績が母親に比べて乏しく、親権で不利になるケースが少なくありません。また、別居している場合には、離婚が成立するまで婚姻費用を支払わなければならない立場にある等、優位に話し合いを進められないこともあります。
しかし、協議離婚の場合、双方が納得すれば公序良俗に反するような内容でない限り、基本的にはどのような条件でも構いません。まず相手方が何を重視しているかを見極め、その点について譲歩できるか、また、こちらがある部分で譲歩する代わりに他の部分で譲歩してもらう等、男性側でも有利に進める方法はあります。双方よく話し合うことが重要でしょう。
よくある質問
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
協議離婚をしないまま離婚調停を行うことも可能です。
離婚調停は、調停委員が間に入って話を行うため、当事者同士で直接話し合う必要がありません。そのため、DVやモラハラ等で直接離婚を切り出せないような場合には協議離婚ではなく、いきなり離婚調停を行うことも検討すべきでしょう。
もっとも、離婚調停は約1ヶ月に1回のペースで話し合いが進むため、協議離婚に比べ、こまめに話し合いができず、解決に至るまで時間を要する可能性があります。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
住民票移動届、世帯主変更届の提出、国民健康保険の手続、児童扶養手当、年金分割の手続等を行いましょう。財産分与等で自宅や車の名義を変更する場合には、名義変更手続を行いましょう。
また、会社勤めの方は会社に離婚したことを報告するようにしましょう。
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚の証人には、成人であれば誰でもなることが可能です。ただし、離婚は極めてセンシティブな内容であり、秘匿性の高いものでもあるため、信用できる人に依頼することをお薦めします。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
協議離婚を進める際に第三者の立会いがあることで、①互いに冷静に話し合うことができる、②第三者の中立な視点での判断を得られる等のメリットがあります。
しかし、極めてセンシティブな内容に立ち入ることがあるため、第三者として親が立ち会うケースがあります。そのような場合には、親が自分の子供に肩入れし、余計に話し合いがこじれる危険性があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
協議離婚を適切に進められるかご不安な場合は弁護士へご相談ください
離婚の際に取り決めておくべき事項は多岐に渡ります。
また、取り決めた内容について、相手方が約束を守らなかった場合に、強制的に履行させることができるかということにも注意しなければなりません。
そして、当事者間では冷静に話し合いができないケースが少なくありません。
後々の紛争を予防するため、早期に離婚を成立させるためにも一度弁護士にご相談されることをお薦めします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)