
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
自筆証書遺言書保管制度をご存じでしょうか。
この制度は令和2年7月10日から始まったもので、令和7年6月までの累計保管申請件数は10万137件に上っています。
この記事では、自筆証書遺言書保管制度のメリットやデメリット、制度を利用する場合の注意点等について解説いたします。
目次
自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書保管制度とは、自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に預け、保管してもらう制度です。
自筆証書遺言は、手軽で自由度が高い一方で、遺言書を見つけてもらえない可能性や、作成後に他人によって書き換えられてしまう可能性があるなど、保管についての問題点が指摘されていました。
そこで、保管の問題点を解消するために、自筆証書遺言書保管制度が創設されました。
保管期間はいつまで?
自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、遺言書原本は遺言者死亡後50年間、遺言書の画像データは遺言者死亡後150年間保管されます。
遺言者が亡くなるまでは、遺言者本人だけが預けた遺言書を閲覧することができ、相続人等は、遺言者が亡くなった後に遺言書を閲覧することができます。
自筆証書遺言書保管制度のメリット
遺言書の形式をチェックしてもらえる
遺言書の保管の際は、法務局職員(遺言書保管官)によって、民法の定める自筆証書遺言の形式(全文、日付及び氏名が自書されているか、押印がなされているかなど)をチェックしてもらえます。
このチェックは遺言書の有効性を保証するものではありませんが、遺言書に明らかな不備があった場合には、このチェックで気づくことができるでしょう。
紛失や盗難、偽造を防げる
自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、預けた遺言書は法務局において厳重に保管されます。
そのため、遺言書を自宅で保管する場合に比べて、遺言書の紛失や盗難、偽造を防ぐことができます。
遺言書を見つけてもらいやすくなる
自筆証書遺言を自宅で保管していて、そのことを周りの人に伝えていなかった場合には、遺言書が発見されないまま相続手続が進められてしまう可能性があります。
他方で、法務局に遺言書の保管を申請する際には、遺言者が希望すれば、自分が亡くなったことを法務局が把握したときに、遺言者が指定した通知対象者に対し、遺言書が保管されている旨が通知されます。
この「指定者通知」という制度を使うことで、遺言書を見つけてもらいやすくなります。
検認が不要
通常、自筆証書遺言については、家庭裁判所による「検認」という手続を踏まなければ、その遺言を執行することができません(民法1004条1項)。
しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用することで、検認が不要となります(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
自筆証書遺言書保管制度のデメリット
本人が法務局に行く必要がある
自筆証書遺言書保管制度を利用するには、本人が法務局に行く必要があり、家族に代わりに行ってもらったり、郵送で手続を行ったりすることはできません。
そのため、身体的事情により本人が法務局へ赴くのが難しい場合には、この制度を利用することは困難となります。
遺言書の内容まではチェックしてもらえない
自筆証書遺言書保管制度では、遺言書の内容まではチェックしてもらえません。
法務局職員は外形的な確認をするのみであり、遺言の内容についての相談には応じてくれないため、遺言の有効性は保証されません。
また、遺言の内容によっては、相続人の遺留分を侵害することになり、遺言者が亡くなった後の紛争の火種になりかねません。
遺言書の内容に不安がある場合には、事前に弁護士に相談していただくことが望ましいです。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点
制度を利用するに当たっては、いくつか注意点があります。
詳細については法務局のホームページやパンフレットをご確認いただくことを推奨しますが、ここでは最低限注意していただきたいことについて解説いたします。
定められた様式を守っている必要がある
たとえ遺言書を法務局で厳重に保管してもらっていても、その遺言書が法的に有効でなければ意味がありません。
そのため、遺言書を法務局に預ける前に、遺言書が民法で定められた自筆証書遺言の様式を満たすものであるか、しっかりと確認することが必要です。
また、自筆証書遺言書保管制度独自の様式もあります(上下左右に余白を空けるなど)。
遺言書の様式の注意事項については、法務局のパンフレットに詳細が書かれているのでご確認ください。
手続きには予約が必須
自筆証書遺言書保管制度を利用するためには、事前に予約をしておくことが必須です。
法務局で行われる手続については、確認や処理に一定程度時間を要するため、長時間の順番待ちを防ぐことを目的として、予約制がとられています。
予約の方法としては、法務局手続案内予約サービスの専用ホームページでの予約、法務局への電話による予約、法務局窓口における予約があります。
【法務局手続案内予約サービス】ポータル遺言書や申請書は事前に作成しておく必要がある
自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、遺言書や申請書を事前に作成してから法務局へ行く必要があります。
申請書の様式は、法務省のホームページからダウンロードできます。また、法務局窓口にも備え付けられています。
申請書/届出書/請求書等 | 自筆証書遺言書保管制度相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
自筆証書遺言書を法務局へ預ける手順・流れ
遺言書を法務局へ預ける手順・流れは以下のようになります。
- (1)遺言書を作成する
- (2)保管の申請をする遺言書保管所(法務局)を決める
保管の申請ができる遺言書保管所は、遺言者の住所地、遺言者の本籍地、又は遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。 - (3)申請書を作成する
上記2.3で述べた指定者通知を希望する場合は、申請書による申出が必要です。 - (4)保管の申請の予約をする
- (5)遺言書保管所で保管の申請をする
①遺言書、②保管申請書、③添付書類(住民票の写し等)、④顔写真付きの身分証明書、⑤手数料(遺言書1通につき3900円)を持参して、法務局で手続をします。 - (6)保管証を受け取る
手続終了後、保管番号等が記載された保管証が交付されます。遺言者及び相続人等が保管申請後の各種手続をする際には、保管番号があると便利であるため、保管証は大切に保管しておきましょう。
遺言書の内容を変更したくなったら
遺言書の内容を変更したい場合、遺言書の一部を修正することは認められていないため、保管の申請自体を撤回し、新たに保管してもらいたい内容の遺言書を保管所へ預け直すことになります。
遺言書を預け直す際は、改めて上記5の手順を踏む必要があります。撤回の手続の流れは以下のようになります。
- (1)撤回書を作成する
撤回書の様式は、法務省のホームページ又は法務局窓口で取得できます。
(撤回書の書式(リンク先はPDF)) - (2)撤回の予約をする
保管申請の撤回ができる遺言書保管所は、遺言書の原本が保管されている遺言書保管所のみです。 - (3)撤回し、遺言書を返却してもらう
撤回書と身分証明書を持参して、法務局で手続をします。
保管された遺言書を相続人が見る方法
相続人は、遺言者が亡くなった後に限り、法務局で保管されている遺言書を閲覧することができます。
閲覧の方法は、モニターによる遺言書の画像等の閲覧、又は、遺言書の原本の閲覧となります。
遺言書の閲覧請求の流れは以下のようになります。
- (1)閲覧の請求をする遺言書保管所を決める
遺言書原本の閲覧は、遺言書が保管されている遺言書保管所でのみ可能ですが、モニターによる閲覧は、全国すべての遺言書保管所でできます。 - (2)請求書を作成する
請求書の様式は、法務省のホームページ又は法務局窓口で取得できます。 - (3)閲覧の請求の予約をする
- (4)閲覧の請求をする
①閲覧の請求書、②添付書類(戸籍謄本等)、③顔写真付きの身分証明書、④手数料(モニターによる閲覧の場合1回につき1400円、原本の閲覧の場合1回につき1700円)を持参して、法務局で手続をします。 - (5)遺言書を閲覧する
遺言書など相続でのご不明点は弁護士にご相談ください
自筆証書遺言書保管制度は、相続をめぐる紛争を防止するために非常に有用な制度です。
しかし、上記で述べたとおり、法務局では遺言書の内容についての審査はしてくれません。
法的に有効で、かつ、紛争の火種になりにくい遺言を作成するために、遺言書作成前に弁護士に相談していただくことをおすすめします。
弁護士法人ALGには、相続の専門的知識を有する弁護士が多数在籍しておりますので、遺言書など相続でのご不明点は、ぜひ弊所へご相談ください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)