
監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
遺言書の作成を検討するにあたり、遺言書を作成するメリット・デメリット、遺言書をめぐるトラブル防止方法等が分からず、ご不安を感じられる方は多いのではないでしょうか。
そこで本稿では、遺言書によくあるトラブル事例を取り上げながら、これらの事項について、詳しくご紹介いたします。
目次
遺言書があった場合のトラブル事例
遺言書を勝手に開封した
封印がなされている遺言書は、家庭裁判所で相続人又はその代理人の立会いがなければ開封することはできません。
万が一、家庭裁判所外または相続人等の立会いなく開封してしまった場合は、5万円以下の過料が科されるおそれがあります(民法1004条3項、同法1005条)。また、他の相続人等から遺言の書換え等の誤解を招きかねず、注意が必要です。
遺言書の字が汚くて読めない
解読できない遺言書は無効であるところ、相続人間の協議による判読を試みたにもかかわらず、字が汚くて読めない場合、筆跡鑑定を実施する必要があります。
しかし、筆跡鑑定に要する費用は安価とはいいがたく、同鑑定を要する場合、相続人らに生じる負担は決して小さいものではありません。
また、筆跡鑑定によっても解読できない場合は、その遺言は効力が否定されます。仮に鑑定によって文字を解読できたとしても、判読が困難な文字であれば遺言書の文字と遺言者の普段の文字を対比できず、その結果本当に遺言者が作成した遺言書なのかについて争いが生じることもあります。
したがって、遺言書を作成する際には、読みやすい字で記載することを心がける必要があります。
日付が特定できない・誤った日付が記載されている
自筆証書遺言は、日付の記載がない、あるいは存在しない日付を記載した場合、効力が否定されます。
また、遺言書に記載された日付が誤っている場合には、自筆証書遺言に限らず、原則として効力が否定されます。
そのため、遺言書を作成する際には、日付の記載について、十分な注意が必要です。
遺言内容が曖昧
遺言書の文言が曖昧な場合、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況等を考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨の確定を試みることになります(最高裁昭和58年3月18日判決参照)。
しかし、上記試みが奏功せず、遺言者の意思を確定的に解釈できないときには、遺言が無効となる可能性があります。
遺言書の内容に納得いかない
遺言は遺言者の最終意思であり、原則として、相続人は遺言に拘束されます。
しかし一定の要件を満たす場合には、遺言書記載内容とは別個の遺産分割を行うことが可能です。
遺言書の内容に納得いかない場合、遺言書が無効であると主張することが考えられ、遺言無効確認の訴えを提起することが考えられます。
また、遺言書の向く遺言によって遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求を行うことが考えられます。
遺言書を無理やり書かされた可能性がある
遺言者が、無理やり遺言を書かされた場合には、その遺言は無効です。
無理やり遺言を書かされた場合の具体例としては、遺言者が何者かによる強迫・詐欺等により、遺言書の作成を強いた場合や、遺言能力が否定される場合が挙げられます。
想定してない相続人が現れた
遺言者が亡くなった後、
前妻との間の子 / 愛人との間の子であって、遺言者の認知を受けた者
といった、想定外の相続人の存在が発覚し、遺された家族が衝撃を受けることがあります。
そしてその衝撃ゆえに、遺された家族が、想定外の相続人に対する遺産の分割を受け入れられず、円滑な遺産分割が難しくなることは、珍しくありません。
家族以外に財産を渡すと書かれていた
遺族以外に財産を渡す旨の記載がある場合(遺贈)、遺された家族において相続可能な財産が減ることは避けられません。
そのため、遺された家族が遺贈を受けた者(受遺者)に対し、遺贈の無効を主張したり、遺贈によって侵害された遺留分を主張する事態を招く可能性があります。
寄与分を主張された
遺言者の生前、遺言者との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えて 、遺言者の財産の維持または増加に特別の寄与した相続人が存在する場合、かかる相続人から、相続分の加算(寄与分)を主張されることがあります。
[寄与分を主張できる者の具体例]
- 自営業を夫婦で協力して行っていた場合に、妻のみ家事に従事していたとき
- 遺言者と同人が経営する会社との間に経済的に極めて密接な関連がある場合の、同社に対する資金援助が、遺言者の資産の確保との間に明確な関連性があるとき 等
遺産分割協議後に遺言書が見つかった
遺産分割協議後に遺言の存在が発覚した場合においても、原則として、遺産分割よりも遺言を優先します。
そのため、既に行われた遺産分割協議の内容が遺言に反しているとき、その遺産分割協議は無効となることから、改めて、遺言に従った遺産分割を行うことが必要となります。
もっとも、上述のとおり、一定の要件を満たす場合には、遺産分割協議の内容を遺言に優先させることが可能です(その場合には、改めての遺産分割協議は不要です。)。
遺言書が無かった場合のトラブル事例
遺言書が無かった場合のトラブル事例には、以下のような事例があります。
- 遺産分割を機に、相続人間の人間関係に溝が生まれること
- 相続人以外に遺言者の遺産を承継させることができないこと
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言執行者に関するトラブル事例
遺言執行者が指定されていない
遺言執行者が指定されていない場合には、相続人らによる相続財産の無断処分や、各相続財産の管理行為に関して他の相続人らの協力が得られず、円滑に行えないなどのトラブルが生じることがあります。
このようなトラブルを予防するためには、遺言により、相続財産について包括的な管理処分権限を有する遺言執行者を指定しておくことが有効です。
遺言執行者が任務を怠る
遺言執行者の任務は、民法上、 以下のように定められているところ、下記任務を懈怠した場合には、遺言執行者が「任務を怠ったとき」(民法1019条1項)にあたります。
「直ちにその任務を行わなければなら」ず(民法1007条1項)
「その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない」(民法1007条2項)
「遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない」(民法1011条1項)
このような場合には、相続人などの利害関係人は、遺言執行者の解任を家庭裁判所に対して請求する必要があります。
遺言書でトラブルにならないための対策
ここまでご説明したとおり、遺言については、その有効性・円滑な執行の確保等に関して、多種多様なトラブルが生じるリスクがあります。
このようなトラブルを可能な限り回避するためには、専門家の協力のもと、有効な遺言書を作成し、遺言執行者を定め、相続人らとの間で豊かなコミュニケーションをとると共に、可能な限り、遺言書の内容や各相続分について話し合っておくことが肝要です。
遺言書に関するトラブルは弁護士にお任せください
以上のとおり、遺言の作成には、相続財産の分割を円滑に進めることや、相続人以外に財産を承継させることを可能にするなど、様々なメリットがあります。
もっとも、遺言に関して上記のようなトラブルが生じた場合、相続人らに大きな負担が生じることは避けられません。
この点、弁護士は、遺言書の作成、遺言の執行に関する業務について、専門的な知識・経験を有しており、いずれについても、ご相談・ご依頼いただくことが可能です。
遺言書に関するトラブルの予防・対策等については、専門性を有する弁護士にお任せください。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)