遺言無効確認訴訟とは | 訴訟の準備や流れ

相続問題

遺言無効確認訴訟とは | 訴訟の準備や流れ

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

亡くなった方の筆跡と明らかに異なる文字で自筆証書遺言が作成されている場合には、遺言書によって財産の取得分が減少する立場の遺族としては、遺言書が偽造されているため無効であると考えることは自然であると思われます。
また、公正証書遺言であっても、作成者本人が明らかに認知症で財産に関する判断などできるはずのない状況で遺言書が作成されている場合には、本人が理解しない状態で作成されているため遺言書は無効であるいう主張があり得ます。このような問題について、法律上も遺言無効確認訴訟という解決手段が用意されています。

遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは

遺言無効確認訴訟とは、相続人や受遺者らの間で、特定の遺言が無効であることの確認を裁判所に求める訴訟のことです。調停を行うことも可能ですが、現実的には遺言が有効か無効かという問題については話合いによって妥協点を見つけることが非常に困難であることが多いため、初めから訴訟を提起する場合も多いです。

遺言無効確認訴訟にかかる期間

遺言無効確認訴訟は、提訴前に医療記録及び介護記録の取り寄せや、自筆証書の筆跡に関する検討が必要になることがあるため、訴訟提起前の準備にも一定の時間が必要になります。遺言無効確認訴訟を提訴してから第一審の判決までに約1年程度はかかります。また、遺留分減殺請求を同時並行的に処理する場合等では第一審の判決までに数年かかることもあります。

遺言無効確認訴訟の時効

遺言無効確認自体の時効はありませんが、立証資料が散逸するので、遺言の有効性に疑問を感じた場合に提訴を遅らせることは適切ではありません。
また、遺言無効確認を求める立場の方が、予備的に遺留分減殺請求の主張を行うことも多いです。遺留分減殺請求の時効は、相続の開始及び遺留分を侵害する事実を知った時から1年です。相続開始直後は心情的にも整理がつかないので、法律家に相談する時期が遅れるケースがありますが、極力早く相談をして頂いた方が無難です。

遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ

遺言無効確認訴訟の準備には、どのようなことが必要なのでしょうか。遺言無効確認訴訟で典型的に必要になる準備をご説明いたします。

証拠を準備する

遺言作成時にどの程度意思能力が存在していたかという点が争点になることが多いです。この点については、医療記録、介護記録、医師の意見書(鑑定書)等が重要な証拠になります。また、異常な行動があることによって、判断能力が低下していた事実を推認することができることもあるので、日常の行動を観察していた医師らの供述(陳述書)等も証拠になります。公正証書遺言の場合には、公証人の供述は重要な証拠になります。
自筆証書遺言が偽造かどうかが争点になる場合には、筆跡の同一性を巡って、本人の自筆の書類や筆跡鑑定の結果等が証拠になります。ただし、筆跡鑑定は世間一般のイメージよりは重要性が低いと考えられています(東京地方裁判所民事部プラクティス委員会第二小委員会「遺言無効確認請求事件を巡る諸問題」判タ1380号17頁)。

遺言無効確認訴訟を提起する

当事者は、原則として相続人、受遺者、承継人及び遺言執行者です。
必要書類は、①遺言書、②財産内容を示す登記事項証明書、通帳の写し等、③相続開始及び相続人の範囲を明らかにする戸籍謄本、④相続関係図です。
裁判所の場所(土地管轄)は、訴えられる者の住居所地又は相続開始時の被相続人の住居所地です。双方当事者が合意することで、別の場所の裁判所で訴訟をすることも可能です。

勝訴した場合は、相続人で遺産分割協議

遺言無効確認訴訟の請求が認められた場合には、その遺言書がないと見做した状態で遺産を分割することになります。他の遺言書がない場合には、相続人が遺産分割協議を行って遺産を分割することになります。
ただし、遺言書として無効であっても、死因贈与契約としては有効であると判断される場合には、遺言書に書かれた方針で財産が配分されることになります。

遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点

遺言無効確認訴訟で敗訴した場合

遺言無効確認訴訟の請求が認められなかった場合には、遺言が有効であることを前提として遺産が配分されます。

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遺言が無効だと主張されやすいケース

今から遺言を作成する立場の方としては、遺言無効確認訴訟が提起されるような状態を回避することを目指すべきです。では、どのような場合に遺言が無効であると主張されやすいのでしょうか。

認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)

遺言書を作成する方が認知症等で遺言の内容を全く理解できない場合には、遺言書は無効になります。また、遺言書作成時点では特定の親族しか認知症である事実を知らなかったとしても、遺言書作成者が死亡した後に、相続人が医療記録等を取り寄せて、後から認知症であったことが判明することもあります。このような場合には深刻な紛争になりやすいです。

遺言書の様式に違反している(方式違背)

遺言書は法律で決められた方法で作成しなければ有効になりません。特に自筆証書遺言の場合には、公証人のような専門家が形式面を確認することがないため、誤った方法で遺言書が作成されることは珍しくありません。自筆証書遺言の押印がない場合や、日付が記載されていない場合等には、遺言書が無効になる可能性は十分にあります。ただし、単なるミスであることが明らかな場合には、遺言書としては無効でも死因贈与契約として有効であると判断されて、結論的には遺言書どおりの配分が実現する場合もあります。
また、公正証書遺言の「口授」(口頭で遺言内容を公証人に伝えること)の要件が欠如しているという問題は非常に重要です。実務的には、公証人が遺言の内容を読み上げて、遺言者が理解していることを確認したら、署名押印をして公正証書遺言が作成されることもあります。遺言書作成に関する諸事情を総合的に考慮して有効・無効について判断されます。

相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)

比較的稀ですが、相続人等に脅迫されたり騙されて遺言書を作成した場合にも、遺言書が無効になります。詐欺・強迫によることを立証するための客観資料を入手できるかどうかが重要になります。

遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)

遺言者が、重要な点について誤った情報を前提として遺言書を作成した場合にも、遺言書が無効になる場合があります。遺言者が死亡した後に錯誤を立証することになるので、立証の難易度は比較的高いと考えられます。

共同遺言

二人以上の人が一通の遺言書に連名で遺言書を作成することは禁止されています。遺言書を作成する際にお互いに遠慮する等して自由に作成できない虞があります。また、後から撤回するときにもお互いに対する配慮により自由に撤回できない可能性があります。このような事情で共同遺言は禁止されています。夫婦で遺言書を作成する場合にも、1通ずつ個別に作成するようにしましょう。

公序良俗・強行法規に反する場合

配偶者に全く財産を渡さず、一時交際していた不貞相手との間の男女関係の維持のために作成された遺言書であれば、事案によっては公序良俗違反であると判断されて無効になる可能性があります。

遺言の「撤回の撤回」

遺言書を作成者本人が撤回することは自由です。しかし、撤回の撤回を行って、元々の遺言書が有効になるとは考えられていません。そのような場合には、新しく遺言書を作成すれば良いからです。

偽造の遺言書

本人が作成していない遺言書は当然無効です。しかし、実際には亡くなった後に遺言書が発見されて、事後的に本人が書いたかどうかを推認することになるので、判定は非常に困難になります。筆跡の同一性については、家族にとっては誰が書いた文字か明らかであっても、裁判所が判定することは非常に難しい問題です。
最近の事例では、和歌山県の資産家の方の自筆証書遺言の有効性が争われている事件が非常に有名です。

遺言が無効だと認められた裁判例

横浜地裁判決令和2年1月28日遺言無効確認請求事件では、認知症(遺言能力なし)を理由として公正証書遺言が無効であると判断されました。裁判所は長谷川式認知症スケールの結果(12~15点)や、医療記録、介護記録から遺言書作成時に中等度ないしやや高度のアルツハイマー型認知症であったと認定しました。また、遺言書の内容が比較的複雑なものであったことを考慮して、遺言者が内容を正確に理解できるようなものだったということはできないと判断しました。
長谷川式認知症スケールの点数は、必ずしも認知症の重症度を示すものではありませんが、12点~15点という程度の点数は取れている状況でも、裁判所は他の医療記録や介護記録から遺言者の病状を認定し、遺言内容と併せて遺言無効と判断しました。 
公正証書であるからといって油断することなく、遺言者自身が遺言書どおりの意思を表明している様子を録画する等していれば、遺言書が有効になった可能性もある事案であると考えられます。

遺言無効確認訴訟に関するQ&A

遺言無効確認訴訟の弁護士費用はどれくらいかかりますか?

弊所の基本料金は、着手金66万円(消費税込)、諸経費3万3000円、成功報酬は経済的利益の22%です。ただし、難易度等に応じて、具体的な金額は増減します。
弁護士会旧基準では、経済的利益が1100万円の場合に着手金が704、000円、経済的利益が5000万円の場合に着手金が2、409、000円になるので、弊所の基準は初期費用を比較的低廉に抑えるものになります。

遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?

遺言書の有効性を争う相手方(被告)の住居所地や被相続人の最後の住居所地の裁判所に提訴することができます。また、当事者が合意するのであれば、別の場所の裁判所で裁判を行うことも可能です。

弁護士なら、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議まで相続に幅広く対応できます

遺言書が無効になる疑いのある事件では、遺留分減殺請求や、遺言書の検認が必要になることもあります。また、遺言無効の見通し自体が非常に専門的な判断を要するものになります。さらに、医療記録、介護記録の取寄せ等の遺言書無効確認訴訟の準備については、ご遺族だけでは必要な証拠の種類や所在を把握することは非常に困難です。
また、自分に有利な遺言書が無効であると言われている立場の方の場合にも、遺言書を有効と主張するために弁護士が必要であることは言うまでもありません。和解的な解決を実現するためにも代理人の存在は非常に重要になります。
遺言書が無効かもしれないと思ったら、速やかに相続の知識や経験が豊富な弁護士に相談するべきであると考えられます。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
大阪弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。