金銭出資型の寄与分とは | 金銭出資型の評価方法

相続問題

金銭出資型の寄与分とは | 金銭出資型の評価方法

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹

監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士

以下では、寄与分のうち、金銭出資型の主張を行う場合についてみていきます。

目次

金銭出資型の寄与分とはどんなもの?

金銭出資型の寄与分とは、被相続人に対して金銭等の財産を給付したことによって被相続人の財産の維持、増加に特に貢献したことをもって、遺産分割の際に貢献の度合いに応じて多めに遺産を取得することです。

金銭出資型の具体例

具体的には、被相続人が不動産を購入する際に金銭的援助を行った場合や自己所有の不動産に被相続人を無償で住まわせてあげていた場合などです。
不動産を購入する場合、被相続人の財産としては、不動産が増える代わりに、その代金として金銭が減るところ、金銭的援助を受けたことで、被相続人の金銭は減ることなく、不動産が増え、財産が増加しています。
住まいの提供の場合、被相続人に持ち家がない限り、本来家賃分の財産が減少するところ、無償で住まわせてあげることによって、その財産減少が防げ、財産が維持されたことになります。

金銭出資型の寄与分が認められるための要件

この類型の寄与分が認められるためには、①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることと、②その寄与の結果として被相続人の財産を維持、増加させていることが必要です。

他の類型と違い、継続性や専従性は必要ない

このうち、①については、小遣い程度の給付では、身分関係に基づいて通常期待される範囲内として、認められない可能性が高いです。また、財産給付は無償又は限りなく無償に近い状態でなされる必要がありますので、財産給付を行った上で、被相続人より何らかの利益を得ている場合には、寄与分が認められない可能性があります。
一方、通常期待される範囲を超えるものであれば、継続性(貢献を相当期間続けること)や専従性(片手間程度のものではなく、それ相応の負担を要すること)は必要ではありません。

金銭出資型の評価方法

この類型の寄与分がどのくらい認められるかについて、一般的には、相続開始時点の給付財産の価格を基準に、裁量割合を乗じて計算されます。
給付財産が不動産の場合、相続開始時の当該不動産の価格に裁量割合を乗じることになります。
給付財産が金銭の場合は、給付した額に貨幣価値変動率を乗じ(これによって相続開始時点の給付した金銭の価値が算出されます。)、それに裁量割合を乗じることになります。 無償で所有不動産に住まわせてあげていた場合、相続開始時点の賃料相当額に使用期間を乗じ、それに裁量割合を乗じることになります。

出資した分すべてが認められるわけではない?裁量的割合とは

財産の出資をしていたとしても、そのすべてが寄与分として認められるわけではありません。寄与分を主張する者と被相続人との関係性、給付した財産の種類、給付した事情などの一切の事情を考慮して、それぞれの事案でどの範囲まで寄与分として認めるかを調整することになります。
ただし、金銭出資型は、貢献した金額が客観的資料をもって明確にしやすいため、認められる範囲は比較的に広いかと思います。

金銭出資型の寄与分に関する裁判例

金銭出資型の寄与分が主張された事件において、第1審の判断と第2審の判断とが異なったものがあります。なお、この事件では、療養看護型の寄与分も主張されていますが、今回は金銭出資型の寄与分についてのみ触れます。

静岡家裁沼津支部平成21年3月27日審判(寄与分否定)

寄与分の主張をする者は、独身時代の約15年間自身の給料の管理を被相続人夫婦に委ねていたことをもって、金銭出資型の寄与分を主張します。
これに対して、裁判所は、給料の管理を被相続人に委ねていたことは認めたものの、小遣いなどの必要なものはその都度被相続人からもらっていたこと、食事、日用品の買い物などを被相続人夫婦にもらっていたこと、給料以上の支出をしたこともあったこと、被相続人の家計簿内に寄与分の主張をする者名義で預貯金をした旨の記載があったこと、被相続人には自身の給料又は年金があり夫婦の生活には十分なものであったこと、遺産として残されたものが不動産と300万円足らずの預貯金であったことなどを踏まえて、給料の管理を委ねたことと被相続人の遺産の維持増加との因果関係を認めることができないとして、寄与分を否定しました。

東京高裁平成22年9月13日決定(寄与分肯定)

これに対して、高裁においては、約15年間給料全額を一旦は家計に入れていたことについて、他の相続人はそのようにしていなかったことと対比し、苦しい家計を助けていたと評価され、給料の管理を委ねたことと被相続人の遺産の維持増加との因果関係を肯定し、寄与分を認めた。

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金銭出資型の寄与分を主張するためのポイント

金銭出資型の寄与分については、何らかの財産を被相続人に享受しているため、他の類型と比べて貢献の程度が見えやすいことが多いです。
もっとも、証拠がなくどのくらいの財産を給付したのかが曖昧であれば、給付の一部しか寄与分が認められないどころか、一切寄与分が認められない場合もあります。給付を受けた被相続人は既に亡くなっているため、争いになったときに被相続人に証言してもらうことはできません。
そのため、財産の給付を示す証拠が重要となります。

証拠となるものは捨てずにとっておきましょう

預貯金口座へ振り込んで金銭を援助した場合には、通帳等でその履歴を示せばよいですが、親族に対しては現金を手渡しするケースも多く、さらに、金額が大きくても領収証などの書面もないことも多いと思います。
メールや手紙などで援助に関するやりとりをしたものからも、財産の給付を推測できることがありますし、被相続人がつけていた家計簿などに記帳されていることもあり得ます。
いつどのような形でどのくらいの財産の給付を行ったかを明らかにできる証拠をご自身でお持ちでない場合には、被相続人の遺品整理の際にむやみに捨てずに保管しておいた方が賢明な場合があります。

金銭出資型の寄与分に関するQ&A

借金を肩代わりしたのですが、金銭出資型の寄与分として認められるでしょうか?

被相続人の借金を肩代わりした場合でも、①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることと、②その寄与の結果として被相続人の財産を維持、増加させていることが認められれば、寄与分として認められます。
特に、①特別の寄与との関係で、肩代わりした借金額や借金の経緯、肩代わりの経緯などは重要となります。例えば、借金の経緯が、寄与分を主張する者が負っていた借金返済のために、被相続人が借金をしたなどであれば、肩代わりした金額が多額であっても、寄与分は認められないかと思います。

資産運用のための資金を何度か出しました。寄与分として認められますか?

資産運用のために資金を援助した場合も、①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることと、②その寄与の結果として被相続人の財産を維持、増加させていることが認められれば、寄与分として認められます。
仮にその資産運用が失敗して、資産自体が増加していなくとも、資金援助によって被相続人の財産が減少しなかった、負債が増えなかったと言えるのであれば、被相続人の財産の維持に貢献したとして、寄与分が認められる可能性があります。
反対に援助した資産運用が成功して、援助した金額の何倍もの財産を被相続人が取得した場合でも、資産運用が被相続人のスキルによるものであれば、援助資金を元手にした運用利益が全て寄与分の対象になるわけでもありません。

定期的に生活費を送っていたのは寄与分として認められますか?

定期的に生活費を仕送りしていた場合も、①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることと、②その寄与の結果として被相続人の財産を維持、増加させていることが認められれば、寄与分として認められます。
この場合には、扶養型の寄与分として認められる可能性があります。

「後で返す」と言われ返済のないまま亡くなってしまいました。あげたものとして寄与分を主張できますか?

「後で返す」との約束の元金銭を交付したのであれば、それは贈与ではなく、金銭消費貸借になります。したがって、寄与分の基礎となる特別の寄与とはいえず、寄与分は認められません。
なお、被相続人は返還義務を負ったまま死亡していますので、金銭返還債務も負の財産として相続財産となり、相続により相続人間に当然分割債務として承継されますので、それを根拠に他の相続人に金銭返還請求をすることができます。

資産運用のお金を出したところ、増えた分の何割かをお礼として受け取りました。これは特別受益になりますか?この場合、寄与分はなくなるのでしょうか。

援助した資産を運用した結果、利益が出て謝礼を受け取った場合、少なくとも謝礼額の範囲は無償性が否定されるため、金銭の援助が特別の寄与とはいえなくなり、寄与分は認められません。
反対に、この謝礼が特別受益にあたるかは、援助した金銭の額、謝礼の額、援助・謝礼の経緯などを踏まえて、謝礼が相続財産の前渡しとみられる贈与といえるかによって決まります。

開業資金を出してくれた人に包括遺贈がされていました。寄与分はこれとは別に渡さなければいけないのでしょうか?

その包括遺贈がその者の寄与(開業資金の援助)に報いるためになされたものと評価できるかを、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して判断し、包括遺贈が寄与に報いるためになされたものと評価できるのであれば、別途寄与分を考慮する必要はありません。

金銭出資型の寄与分について、不明点は弁護士にご相談ください

金銭出資型の寄与分は、貢献の程度が比較的見えやすい類型ではありますが、そもそも金銭的援助をする段階では、何らトラブルは生じていないことがほとんどで(被相続人との関係が良好だからこそ援助を行うのが一般的だと思います。)、金銭的援助について客観的な資料を取っていないことも多いと思います。しかし、相続の争いは、そのような金銭的援助から時間が経った後に、しかも金銭的援助とは無関係な他の相続人との間で生じることが多いため、的確に寄与分の主張ができていないケースもあります。
遺産分割において寄与分の主張をしたい場合、ご自身が持っている資料が使えるかなどを含めて、まずは弁護士に相談されることをおすすめします。

大阪法律事務所 所長 弁護士 長田 弘樹
監修:弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長
保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)
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