監修弁護士 長田 弘樹弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所 所長 弁護士
離婚裁判(離婚訴訟)に詳細について知っている方は少数だと思います。離婚裁判には様々なルールや進め方があるので、事前にそれらを理解しておくことで、裁判を有利に進めることができます。離婚裁判を起こされた方やこれから起こすことを考えている方に向けて、下記では離婚裁判について解説します。
目次
離婚裁判とは
離婚裁判とは、夫婦が離婚するかどうかを裁判所が一方的に判断する手続きのことを指します。離婚について夫婦で話し合っても解決に至らない場合、裁判官や調停委員を仲介させて話し合う離婚調停が行われます。この離婚調停を経ても解決に至らない場合に、はじめて離婚裁判が可能となり、裁判所が一方的に夫婦を離婚させるかどうかを判断します。離婚裁判は、離婚するための最終手段になります。
離婚裁判以外の離婚方法
- 協議離婚・・・夫婦が話し合って離婚の合意をし、離婚届にサインしてこれを提出する離婚方法です。時間も手間もかからないことから、離婚する際に最も多くとられている方法です。
- 調停離婚・・・裁判官や調停委員を仲介させて話し合う離婚方法です。第三者が間に入ることで、争点が整理されたり、不公平な合意に至る可能性を低減できる等のメリットがある反面、手間と時間がかかります。
- 審判離婚・・・夫婦間での離婚調停が成立しない場合に、 裁判所が一方的に離婚を認める旨の決定をすることをいいます。夫婦間で離婚に関する大きな問題について相違はないが、些細な問題のために離婚調停が成立しない場合に限られます。あまり利用されていません。
離婚裁判で争われること
- 離婚…離婚させるための原因の有無
- 親権…子の親権者をどちらとするか
- 養育費…離婚後に子を育てるための費用をどの程度支払うか
- 財産分与・・・夫婦の共有財産をどのように分け合うか
- 慰謝料…離婚の原因を生じさせたために夫婦の一方に精神的損害が生じた場合に、他方がどの程度慰謝料を払うか
- 年金分割…年金を分割する割合をどのように決めるか
裁判で離婚が認められる条件
裁判離婚においては、民法770条1項で法定されている離婚事由が認められなければ、離婚は成立しません。
同項で必要とされる裁判離婚の離婚事由は、以下のとおりです。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
離婚裁判の流れ
①原告が家庭裁判所に訴状を提出する
②裁判所から第1回口頭弁論期日の通知が届く
③主張や書面の証拠調べ等を行う口頭弁論が行われる
④当事者や証人に対して尋問が行われる
⑤離婚裁判の判決がくだされる
離婚裁判にかかる費用について
離婚裁判では、訴え提起時に手数料としての収入印紙代と、郵便切手代等の費用がかかります。
また、必須ではありませんが、弁護士を選任する場合、弁護士選任のための費用がかかります。具体的な金額は法律事務所ごとに違ってきますが、依頼された仕事に着手する着手金、書面の郵送費用等の諸経費、目的達成した場合の成功報酬金等がかかります。
費用はどちらが負担するのか
収入印紙代、郵便切手代等の裁判費用は、訴状提出の際には原告が負担します。その後、裁判が確定した場合には、負けた側が負担するか、判決で決められた割合に基づき、原告と被告がそれぞれ負担します。
弁護士費用については、原則として、自分で負担しなければなりません。
離婚裁判に要する期間
離婚の訴え提起から判決までに、1年以上の期間を要することが通常です。もっとも、争点が少ない場合には半年で終わることもありますし、財産分与の対象となる財産が多い場合には数年かかることもあります。
最短で終わらせるためにできること
離婚裁判を最短で終わらせるためには、主張を裏付ける決定的な証拠を集める必要があります。例えば、被告が不貞したことを理由に離婚を請求する場合、被告がラブホテルに第三者と入っていく写真等の証拠を提出できれば、早くに判決が下される可能性があります。
その他の方法としては、相対する当事者と和解することで裁判を早期に終了させることもできます。
長引くケース
主張を裏付ける決定的な証拠を入手できない場合には、主張の有無を判断するために時間を要します。また、婚姻費用、親権、養育費、財産分与及び慰謝料等についても離婚と同時に争う場合には、離婚裁判の判決までに時間を要します。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚裁判で認められる別居期間
3~5年間別居していれば、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚が認められる可能性が高くなります。家庭内別居は同じ家で生活しているため、婚姻関係に問題ないと判断され易いでしょう。また単身赴任は仕事の都合でやむを得ずに別居しているため、同じく婚姻関係に問題がないと判断され易いでしょう。そのため、家庭内別居や単身赴任は、婚姻を継続し難い重大な事由を基礎づける「別居」には該当せず、これのみを理由として離婚が認められる可能性は低いです。
離婚裁判の欠席について
離婚裁判には、原則として出廷しなければなりません。裁判は一方が欠席したとしても裁判は進みます。
もっとも、欠席した場合、第一回口頭弁論期日を除き、他方当事者が書面で提出した事実については自白したことになってしまう可能性があります(民事訴訟法159条3項、161条3項)。
なお、弁護士に依頼している場合は、原則として弁護士のみが出廷すれば足ります。
離婚裁判で負けた場合
離婚裁判で敗訴しても、控訴といって別の裁判所に離婚の当否を判断してもらうことができます。控訴審でも納得できる結果が出ない場合、上告といって更に別の裁判所に判断の当否を判断してもらうことが可能です。このように、日本では三審制といって、三つの裁判所に判断してもらえる機会が保障されています。もっとも、控訴や上告は簡単には認められるものではないので、見通しについては弁護士に相談してみましょう。
離婚裁判のメリット、デメリット
メリット
離婚裁判のメリットとしては、相手方の承諾の有無にかかわらず、離婚できるということがあります。
また、離婚する際に裁判所が離婚の条件を定めるのですが、相手方がその条件に反した場合には、強制執行という手続きをとることが可能です。具体的には、相手方の財産を差し押さえることによって養育費等の回収が可能となります。
デメリット
離婚裁判のデメリットとしては、手間と時間がかかります。上述のとおり、離婚裁判になれば、決着までに1年程度の時間がかかることが通常ですので、当事者にとっては大きな負担となります。
また、上述のとおり離婚裁判には法定の離婚事由が必要であるため、これが存在することを立証しない限り、離婚が認められないことになります。
離婚裁判についてのQ&A
裁判の申し立てを拒否することは可能なのでしょうか?
離婚裁判を起こされた方は、離婚裁判を拒否することはできません。出廷しないことは可能ですが、出廷しないことで原告の主張や立証が裁判所に判断され、被告である離婚裁判を起こされた方には反論の機会が与えられずに、負けてしまい、離婚が認められることになります。そのため、事実上離婚裁判を拒否することはできないのです。
他人が離婚裁判を傍聴することはできますか?
裁判は一般の方に公開されているため、他人が傍聴することは可能です。ただ、1回目に行われる口頭弁論期日等はさておき、それ以外の期日は非公開で行われることが多いため、多くの期日では他人が傍聴することはできません。
配偶者が行方不明でも離婚裁判を行うことはできますか?
配偶者が3年以上の生死不明な状態であれば、離婚裁判で離婚することができます。
先ほど述べたとおり、協議離婚、調停離婚を経て、離婚裁判に至ります。しかし、配偶者が生死不明な状態では話し合いようがありません。そのため、3年以上生死不明な状態が法定離婚事由に相当する場合には、最初から離婚裁判が可能となります。なお、離婚裁判で離婚する旨の判決が出た後に配偶者の生存が確認できたとしても、判決が取り消されることはありません。
離婚裁判で敗訴した場合、すぐに調停を申立ができるのか?
離婚訴訟で負けた場合、原則として再びすぐに離婚を争うことはできません。もっとも、長期間が経過する、相手方が裁判後に不貞した等、事情の変更があった場合には、調停を申し立てる、訴訟を提起することが可能です。
離婚後すぐに再婚することはできるのか?
男性は再婚について制限がありません。女性については、原則として離婚後100日を経過しないと再婚することができないことになっています(民法733条1項)。
相手が離婚を拒否し続けたら裁判でも離婚することはできない?
相手方が離婚を拒否し続けたとしても、上述のとおり、法定の離婚事由が認められれば、離婚できます。そして、離婚を拒否している間に時間が経ち、別居期間が数年程度になれば、そのことが婚姻を継続し難い重大な事由を基礎づける事実になるため、最終的には離婚が認められる可能性が高くなります。
離婚裁判を考えている場合は弁護士にご相談ください
離婚裁判は、ご本人だけで提起することが可能です。しかし、上述のとおり、離婚事由は法定されていることから離婚についての法的知識は必要です。また、長期間にわたる裁判に出廷して相手方と争っていくことは、ご本人にとって大きな精神的負担を伴います。ご本人に代わって弁護士が出廷することで精神的な負担を軽減し、またより有利な結果を得ることができます。離婚裁判をする際には、弁護士への依頼をおすすめします。
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保有資格弁護士(大阪弁護士会所属・登録番号:40084)